本学のガバナンス改革の重要ポイントとして挙げられる、医学部附属病院に関わる改革と社会連携講座等の管理改革。病院は、医学部附属から大学附属へ移行し本部が直接関与する体制に。社会連携講座は、設置審査からモニタリングまでの強化が進んでいます。両改革を担当する相原博昭理事と現場で再建を目指す久米春喜病院長に、これまでの課題や現状について聞きました。
相原理事に聞く
組織風土と本部の責任
――3月24日の提言※では今回の不祥事の原因をどのように整理しましたか?
ポイントは2つあります。1つは蛸壺化といわれる診療科や講座ごとの縦割り構造です。隣の研究室で何が起きているか関心を持ちにくく、風通しが良ければ言えたはずのことが言えませんでした。東大全体にいえることですが、そういう組織風土が根底にあったということです。もう1つは、本部の対応に問題があったという指摘です。部局任せだったということで、これは非常に重く受け止めています。4月8日の記者会見では、お金の管理についての質問も多くありました。「入金がないのに、社会連携講座はなぜ続いていたのか」というのは外から見れば当然の疑問で、社会と大学との間に意識の差があったことは明らかです。
――病院の「大学附属化」によって何が変わるのでしょうか?
病院には、教育と研究以外に「診療」があり、社会に対する影響が非常に大きい。また、年間予算は650億円規模と大学全体への影響もとても大きいにもかかわらず、「医学部の先にある組織」として本部との距離感がありました。医学部に責任をもってもらう仕組みだったので、本部の関与が薄かったわけです。大学が直接経営に関与する体制に改め、運営・管理への支援を強化します。10月1日に名称が変わります。
病院の現場はもちろん今後も専門家に任せます。人事についても直接口を出すことはありませんが、選考のやり方がきちんとしているかは確認させてもらいます。
お金の流れや社会連携講座のような外部との関係については、本部が積極的に関与していきます。懸念があれば本部に相談してもらい、問題があればこちらから指摘もする。そのやりとりが今までは欠けていました。本学には伝統的に各部局の自治があるので、そこに本部が直接的に関わることに対する若干の抵抗はあったかもしれませんが、様々な話し合いを重ねるなかで、十分に理解してくれたと思います。
私は物理の研究者で、病院は専門外です。正直にいえば、自分が病院担当でよいのかと考えたこともありますが、医者でないからこそ見えることもあるとも思っています。
東大は社会の公共財
――社会連携講座改革の方向性と現状についてはいかがですか?
社会連携講座とは本来、「公共性の高い共通課題」について、民間と外部機関から受け入れる経費等を活用して設置される講座です。今回の問題の一因は、講座設置時の審査が甘かったということ。これからは、心配事があれば最初から本部に相談してください、という体制にします。本部でも設置後の運営状況をモニタリングし、問題があれば指摘する。「東大」という名前がつくことで、企業にとっての価値や利益が生まれることがあります。そのリスク管理が後追いになっていたのも問題でした。桑原昌宏CROが着任したのもそのためです。部局だけでは見えにくいことを、本部と一緒に判断する仕組みに変えます。
――教職員に伝えたいことは何ですか。
東大は社会の公共財です。社会のためになるからこそ、社会から支えていただける。常にそこに立ち戻る必要があります。病院の教職員に伝えたのは、病院改革の目的は規制を強化することではなく「UTokyo Health」のブランドを世界水準で再構築することだということ。高度な教育と研究に支えられた診療をグローバルスタンダードで提供する。そこを目指しているということを、忘れないでほしいと思っています。
病院長 久米春喜 KUME Haruki
久米病院長に聞く
提言後すぐに委員会を始動
――ご専門についてご紹介ください。
父が薬剤師だったせいか、自分も自然と医療の道を志しました。弱い人々の助けになりたいと思い、老人が多い泌尿器科に進んだんです。当時、泌尿器科に大変厳格な先生がいて、厳しい環境に身を置けば一人前になれるかもと思ったのも理由でした。
――3月24日の提言を受けて、どんな取り組みを進めていますか。
病院長事務代理になってすぐに、ガバナンス改革中核委員会、病院大学附属化実行委員会、病院等改革推進委員会等に加わり、病院組織の改革に取り組みました。社会連携講座等の審査や運用状況の監視を行う組織を検討中で、秋には仕組みを整えます。
病院の財政が悪化しています。昨年度は23.3億円の赤字となり、改革策を検討してきました。たとえば救急車の受け入れ増です。救急搬送の患者さんの入院を毎日1人増やすだけで稼働率は1.5%上がり、毎日2人増えれば計算上は赤字が約6億円に縮みます。移植医療を安定的に行える体制整備も急務です。当院は移植手術数が日本一ですが、移植医療には多くの職員が必要。手術が多い土日の勤務環境を改善する必要があります。ロボット手術や特別病室の利用増も重要です。
財政改革につながるこうした取り組みの状況を菅野暁CFOと毎月共有する場を設けました。設備や施設の老朽化への対応も含め、高度な医療を国民の方々に提供するには、病院のリソースだけでは限界があります。本部の助言や支援を受けるという点でも大学附属化は大きなメリットとなります。
コンプライアンス推進部を新設
――6月1日の新病院長の決意表明には「粉骨砕身の覚悟」とありました。
意思決定の透明性も責任の明確化も当然のことなのに、それが不十分なせいで信頼を損なってしまった。信頼回復は急務です。何かあったときに説明できるかという観点を常に持つべきですが、医者の常識と一般の常識にずれがあったのは残念ながら事実。意識改革の必要を感じ、6月にコンプライアンス推進部を新設しました。副院長の内田寛治先生が部長を務め、各部署から1~2名、計200名を超える職員で構成されています。
――目指すは「開かれた病院運営」ですね。
コミュニケーションが本当に重要です。一連の事案に不安を感じる職員は多いと思い、GW明けに4日かけて約50箇所の現場に赴き話を聞いて回りました。ともにがんばろうと励まされたこともあります。対面で話すと親近感が増すし、この部署はこんなにがんばっていたのか、こんなことで困っていたのか、との気付きもありました。声を集めて力にしていきます。
――改革案に挙げられていた診療部門のグループ化とはどういうことでしょうか。
病院には多くの診療科があります。これまでは診療科ごとのまとまりが強く、別の診療科とやりとりする機会はほぼありませんでした。そこを変更し、内科、外科などのグループ(大講座)を作ることになりました。内科では若手の研究発表会が、外科でもOB会を軸に交流を促す活動が始まっています。将来は人事を含む運営部分もグループで共有する形になるでしょう。科を越えて互いを見る機会が増えれば、問題のある活動は生まれにくいはずです。
――学内の教職員に伝えたいことは?
先日、総長ほかの役員が病院内を見学した際、病院の看護師が細かい点まで考慮しながら働いているのを見て驚かれました。たとえば、患者さんの取り違いを防ぐために、病棟と手術室の間では申し送りを徹底しています。現場では当然のことですが、そうした状況を本部と共有することも大きな意味を持つでしょう。大学附属になると病院外の目が入りやすくなり、「医者の非常識」は是正されていくはず。本部とともに病院を変えていきます。見守ってください。
| 6月17日 | 本郷 |
| 7月6日 | 駒場Ⅰ |
| 7月17日 | 駒場Ⅱ |
| 7月22日 | 弥生 |
| 7月22日 | 本郷 |
| 7月29日 | 柏 |
| 7月30日 | 白金台 |
| 9月3日 | 本郷 |
| 9月7日 | オンライン(英語) |
一連の事案に対する問題点を探るプロセス検証委員会が指摘した「組織の自浄作用の欠如」「他への無関心、不干渉」「無謬性の強い組織文化」の打破に向けて全学一体の改革が必要です。「Open Dialogue」は、こうした認識を共有し、体制強化や構成員の危機意識の醸成に関して協力を要請するための対話の場として企画され、6月17日の本郷を端緒に、7月末までに7回の対話を実施しました。Openを旗印に掲げる改革の試みは今後も続きます。
◉医学部附属病院機構図(2026年6月1日現在)
※「東京大学大学院医学系研究科・医学部・医学部附属病院の改革にむけた提言」(相原理事は改革委員会副委員長として提言をまとめた一人)https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400285438.pdf


