東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取り組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
自ら問いを立てて没頭する“主体的な学び”の価値
/新部門長に聞くEducational Transformation(EX)部門の取り組み
EX部門長
土畑重人
何かを見つけ試行錯誤する力
――多彩な授業を支えるEX部門のミッションとはどういうものでしょうか。
「本学の初年次教育の質的転換を目指しています。文科・理科で150以上のクラスを抱える一年生の必修科目「初年次ゼミナール」の企画・運営も担っています。私は今年度から部門長に着任し、その規模に驚くと同時に、日々ありがたさを噛み締めています。前任の若杉桂輔先生から「楽しくいきましょう」とバトンを渡された通り、多様なスタッフが集まるアットホームな部門です」
「予測ができないこれからの時代、社会に出たときに大事になるのは、自分で何かを見つけ試行錯誤する力。現場の先生方の面白い試みをすくい上げ、学生自身がそのプロセスを実践するための“現場からの適応”をここから支えていきます」
――初年次ゼミナールではどのような教育効果が生まれていますか。
「各クラスで学生の主体性を引き出す多彩なアプローチが展開されるなか、進化生態学を専門とする私のゼミ「アリの巣で体験する自己組織化現象」では、シンプルな個体が複雑な集団行動を生み出すアリをテーマに、採集・観察や実験、論文読解に挑んでいます。ある日、電車内で近くにいた学生が「初ゼミのアリの授業、すごく面白かった」と話しているのを耳にしました。教養教育に携わる身としてこれほど嬉しい瞬間はなく、自分で泥臭く問いを立て没頭した経験は、彼らのなかに確かに残るのだと実感しました」
「この教育効果は、150以上のクラス全体における学生の意識の変化にも顕著に現れています。理科側で実施した学生アンケートでは、授業の「Before(期待)」と「After(評価)」で、授業評価が目に見えて大きく向上することが分かりました。未知の領域に対して自ら問いを発見し、追究していくプロセスの意義が、数字からも証明されているのです」
――コロナ禍を経て、EX部門が管理運用を担う駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)の果たす役割とは?
「私が東大に着任したのはコロナ禍直前の2020年。完全オンラインの環境を経験したからこそ、「人間、会って喋ってなんぼだな」と痛感しています。今の学生は対面へのハングリーさがあり、顔を突き合わせて喋り始めると活発な議論が生まれます。そんな熱気を受け止める最高の物理的ステージが、KALSです」
思考を映す鏡としての生成AI
――教育現場において、生成AIとはどう付き合うべきでしょうか。
「EX部門では2023年度からプロンプトの工夫を学ぶワークショップを行い、積極的な利用に挑んできました。AIへの問いかけは自身のモチベーションの反映であり、思考を映す鏡です。通り一遍の問いには通り一遍の答えしか返ってきませんが、工夫し上手に付き合えば、有能なTAがクラスに一人増えたかのように心強い教育支援ツールになります。予測不能な環境変化のなかで、ただ答えを教えてもらうのではなく、最先端の技術も使いこなしながら自分で試行錯誤を重ねていく。そんな駒場ならではのリベラル・アーツの精神を大切にしながら、EX部門はこれからも教育のあり方をトランスフォームし続けていきます」
https://komex-ex.c.u-tokyo.ac.jp/ja/newsletter/







