創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
日本と中国の学生が組になって互いの現場を体感
/LAP(リベラルアーツ・プログラム)の文化研修プログラム「敦煌」「深思北京」
白 佐立
特任准教授
朱 芸綺
特任助教
20年来の交流あっての新研修
白 昨年度、教養教育の新たな取り組みとして文化研修プログラム「敦煌」を実施しました。今回は専門性の高さから東洋文化研究所の塚本麿充先生(中国美術史)にもご協力いただき、美術史を専攻する学生にも公募を行いました。敦煌は極めて深い歴史を持つ地ですが、この研修の面白さは専門を問わず、現代の観光開発や文化財保護といった社会課題の現場を多角的に体験できる点にあります。
南京大学は以前から敦煌研修を実施していましたが、よりグローバルに発展させたいという狙いがあり、本学とのコラボレーションが実現しました。双方間で築いてきた20年に及ぶ地道な取り組みと深い信頼関係があったからこそ、今回のような充実した国際研修が実現したのだと感じています。
朱 もう一つの柱である交流プログラム「深思北京」も、国際情勢の変化を見据えながら、より実践的な対話の場へとアップデートを重ねています。中国人民大学(RUC)との連携のもと、互いに異なる背景を持つ若者同士が同じ問題意識を持って深く向き合える工夫を取り入れました。実地体験と丁寧な議論を組み合わせることで、固定観念や表面的なイメージを削ぎ落とし、等身大の言葉で理解し合える体験を生み出しています。
白 どちらのプログラムでも大切にしているのは「現場で体感すること」です。自分から足を運ばなければ感じ取れないことが確実にありますから。時にはぶつかり、喧嘩をして初めて打ち解けるような泥臭いプロセスも重要ですが、現代の学生はそもそもぶつかることすら避けがちです。だからこそ、自分の世界を少しずつ広げられるような「きっかけ」が必要です。もちろん、これは私たちだけの力では成り立ちません。現地でサポートしてくださる方々の深い協力や信頼関係があって初めて実現できることです。
まずは事実を知ることから
よく「相手の立場に立って理解する」と言いますが、そもそも、他者を完全に「わかる」ことは不可能です。安易に「理解した」と言ってしまうのが一番危険で、「わからないけれど、少しでも近づきたい」という姿勢を持ち続けること。理解することよりも、まず事実を「知る」こと、そして「そこにそういう状況や思いがある」とそのまま受け入れることが重要なのだと思います。
朱 価値観がすべて一致する必要はありません。最近はよく共生という言葉が使われますが、単に同じ空間にいるだけでなく、中国語でいう「共事(共に事を成す)」という感覚がしっくりきます。相手を完全に理解してから動くのではなく、共にプロジェクトやフィールドワークを進める過程で互いの理解が更新されていく。そうした「共事」から生まれる学びを、これからも大切にしていきたいですね。
白 研修が終わったからといって、対話や関係性を完結させてしまわないでほしい。実際、プログラム終了後も参加者同士の交流は長く続いていて、中にはそこから結婚に至った学生もいるほどです。現場で得た違和感や気づきを携え、自分自身や他者との関係の中でずっと問いかけ、考え続けてほしい。その姿勢こそが、これからの時代を生きる学生たちにとっての真の学びに繋がっていくはずです。
本学の参加者5名による見聞記と3大学の学生の写真から構成されています。







