第1195回
質問の多い料理店
とあるインド料理店でのこと。友人にジャイナ教について語っていると、突然、隣の席のインド人紳士から話しかけられた。「あなたはどうしてジャイナ教に詳しいのですか?」と。「私は古代インドの仏教を研究していて、ジャイナ教のことも多少知っているだけですよ」と答えると、「なぜ仏教を研究しているのですか?」「サンスクリット語は読めるのですか?」などと矢継ぎ早に質問が繰り出された。
こちらも質問を投げかけると、この紳士は宝石店を経営するジャイナ教徒だという。ヴェジタリアン料理店が周りにないので、ジャイナ教の同業者と自分自身のために料理店を開いたとのこと。彼はその店のオーナーだったのだ。
ジャイナ教とは、仏教とほぼ同時期、紀元前5世紀頃に始まったインドの宗教である。厳格な戒律を守ることで知られ、生き物を殺すことはもちろん、一切の肉食が禁じられる。出家者になると、一切の所有を捨て、衣服すら持たずに裸で暮らす(白い衣を着る一派もある)。
厳しい戒律を課すジャイナ教の在家信者は、逆説的に聞こえるかもしれないが、インド社会の富裕層に集中している。信者数はインド全人口のわずか1%に満たないにもかかわらず、インド政府の所得税収の約4分の1がジャイナ教徒により支払われている。その自らを律する姿こそが人々の信頼を勝ち取り、社会での成功をもたらすのではないだろうか。大学の自浄作用が問われる今、ジャイナ教における自律の力について何度も考えさせられた。
食後、インド料理店のオーナーが、そのそばにあるジャイナ教寺院に連れて行ってくれた。雑居ビルの中にある広い部屋には、裸身のジナ像(仏教の仏像に当たる)が鎮座し、10人程のサリーを着たインド人女性たちが談笑しながら、花で空間を飾り立てていた。オーナーは、ジャイナ教徒コミュニティのリーダー格らしく、全員に注目するように声をかけると、恭しく私を紹介してくれた。
「こちらは日本人のジャイナ教徒です」(いや、違うんだけど……)。
馬場紀寿
(東洋文化研究所)

