column
第34回

教養教育の現場からリベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、次々に新しい取り組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学のすべての構成員が知っておくべき教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

リベラル・アーツとオープンイノベーション

/産官学コンソーシアム「サステイナブル未来社会創造プラットフォーム」

お話/環境エネルギー科学特別部門長
教授
瀬川浩司

エネルギーを機軸にして

――産官学でエネルギーを基軸に未来社会をデザインするオープンイノベーションの取組みだそうですね。

はい。私の研究は太陽電池や再生可能エネルギーですが、パナソニックを中心としてエネルギー領域の事業を行う企業や政府関係者が集まり、産学協創推進本部が事務局となって昨年2月から勉強会を重ねてきました。そのなかで、未来社会の具体的なデザインなしにはエネルギーのマネジメントなど考えられない、という共通認識に至りました。分野を超えた取り組みで、リベラルアーツ的センスが求められるわけです。このため、建設、鉄道、自動車、エネルギーインフラ、商社、など業種をこえた企業や地方自治体にも声をかけ、昨年秋から産官学にまたがる形に広げ、産学連携の点から先端科学技術研究センター内に正式に産官学コンソーシアム事務局を置くことになりました。KOMEXの環境エネルギー科学特別部門が運営主体となります

――勉強会とは何が違うのですか。

議論や意見交換で終わるのではなく、実際のアクションにつなげたいという思いが強いです。企業の皆様には事業のノウハウを、自治体の皆様には実証の場をご提供いただき、段階的に検証を進めながらサステイナブル社会の実現に少しでも貢献したい。そのための仕組みとして選んだ形がコンソーシアムです。重点課題として、日本のエネルギーシステムのあるべき姿の追究と地域創生を機軸とした日本のあるべき姿の追究の2つを掲げました。賛同企業の皆様から年会費を集め、原資とします。基本はオープンイノベーションですが、知的財産権が発生した場合は発案者に帰属することを明記し、企業から参画しやすくしています

――6月26日にはコンソーシアムの準備会合がありましたね。

この会合は7回目の勉強会も兼ねています。今回のテーマは「地方創成とエネルギー」ですが、第一部では、内閣府地方創生推進事務局の村上敬亮審議官をお招きし、「地方創生とsuper city」の題で講演いただきました。給与を首都圏と同等にすれば地方経済はすぐ活性化する、今後は地域の生産者が生産物の価値を説明できなければいけない、社会的課題の言語化が足りない、地方創生は4年目の死の谷を乗り切ることが重要……。様々な気づきを与えていただくお話でした

2024 年度までに社会実装を

第二部では、地域未来社会連携研究機構長の松原宏先生と、先端研で地域共創リビングラボを展開している小泉秀樹先生に講演いただきました。松原先生は、学内で個々に進んできた地域社会連携の活動をつなげるためにできた機構の概要と、機構としての活動が進む三重や北陸での事例を紹介されました。小泉先生は、市民と自治体と企業と大学が連携して地域の課題解決を実践するリビングラボの概要と、先端研がいわき市や小布施町などで進めているリビングラボの事例について紹介されました。地域創生について、コンソーシアムが重点課題として取り組む際の重要な視座をご提供いただきました

――今後どんな展開を考えていますか。

今年度は現状把握と課題抽出に重きを置き、2020年度に実行計画を定めて準備を進め、2021年度に小規模実証を実施、2023年度に中規模実証、2024年度に評価・まとめを、と考えています。8月まではオープン参加の期間を設け、その後は会員登録していただいた皆様と活動を進めます。8月27日には「次世代通信5Gとエネルギー」をテーマにしたシンポジウムを、11月にはSDGsをテーマにしたシンポジウムも予定しています。私たちの今後の活動にご期待ください

❶6月26日の会の模様。エネルギー、建設、電鉄、自動車、化学など様々な業種から約40人が参加しました。
❷開会挨拶を行うパナソニックの清水敦志プロジェクトマネージャー。
❸これまでの取組みを報告するパナソニックの東和司主務。
❹村上敬亮審議官。
❺松原宏総合文化教授。
❻小泉秀樹先端研教授。

教養教育高度化機構(内線:44247)

column

部局長だより~UTokyo 3.0 を導くリーダーたちの横顔~第1回

法学部・医学部

法学徒として学ぶ魅力を伝えたい

法学政治学研究科・法学部長 大澤 裕 趣味:学生スポーツ観戦

法学部は2017年度進学生から新カリキュラムと新コース制を導入し、この3月に最初の卒業生を出すことができました。進路の多様化を見越し、必修科目を減らし学生が主体的に学べるようにというこの改革を、軌道に乗せたいですね。

大学院の総合法政専攻では、2017年度に始めた先端ビジネスロー国際卓越大学院教育プログラムが3年目を迎え、よりきめ細やかな教育が可能になりつつあります。ここでは理系分野との学際融合も大きな特徴です。AIや自動運転を筆頭に、先端技術を社会に実装する場合には必ず法的な問題が生じ、その解決こそがビジネスを駆動します。先端技術の話を理解できることは現代の法学徒に必須となりつつあると感じます。

法科大学院では、近年、在学中に司法試験予備試験に合格して退学する学生が増えています。優秀な学生たちの予備試験偏重の風潮に対しては、法科大学院での学修は予備試験より価値がある、と私は声を大にして叫びたい。第一線で活躍する実務系法律家から対面で学び、様々な背景を持つ仲間と議論することは、人と向き合い、人の痛みを引き受ける法曹にとって非常に大切な過程なのです。政府による制度改正に対応しつつ、こうした価値をわかりやすく若者に伝えることが在任中の大きな課題だと捉えています。

病院地区のインフラが整ってきました

医学系研究科・医学部長 齊藤延人 趣味:手術検討

施設の面では、入院棟B、クリニカルリサーチセンターA棟、南研究棟と、病院地区の再開発が進んでいます。南研究棟は産学連携や福利厚生の機能を持つ施設に生まれ変わりました。臨床講堂を「鉄門臨床講堂」として再建し、「健康と医学の博物館」も入りました。研究を飛躍させるインフラが整いつつあります。個別の研究以外では、ニューロインテリジェンス国際研究機構の発足が最近では非常に大きなトピックでした。

近年、医学教育は知識を「覚える」から「使いこなす」へと舵を切っています。学生は基礎知識を問うCBTの「共用試験」と客観的臨床能力試験OSCE(オスキー)の両方に合格してから参加型臨床実習に進みます。2020年からはOSCEを2回行うようにもなります。以前とは随分様変わりしました。

医学部では医師免許のための必須科目の多さが特徴ですが、教育を担う教員が年々減っているのは大きな課題です。160年という長い歴史を持つ部局では、教授会のやり方一つ取っても、制度疲労が生じている面があります。新任ならではのフレッシュな目で運営の体制を見直したいと思っています。

医学部長として教職員の皆さんにお勧めしたいのは、新しくなった入院棟Bの予防医学センターで日帰り受診ができる人間ドックです。私も試してみましたが、非常に快適ですよ。

CBT: Computer Based Testing

column

東大アラムナイ通信 卒業生と大学をつなげるプラットフォーム第2回

社会連携本部
卒業生部門
福味和子

力強い校友会サポーターの存在

卒業生部門では、IARU加盟校(東京大学、オーストラリア国立大学、シンガポール国立大学、北京大学、ETH、UCバークレー、ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、イェール大学、コペンハーゲン大学、ケープタウン大学)の卒業生担当が互いの活動と課題から学び合うIARU Alumni Associations Summitに参加していますが、ここでひときわ存在感を放っているのが欧米の大学です。

とりわけ、イェール大学では、5千名規模の卒業生ボランティアが在学生を支援する体制が確立されており、卒業すると今度は自分が卒業生として在学生を支援する側に回る、という好循環が存在しています。この仕組みを東大でも実現させるべく、2017年4月「東京大学校友会サポーター」(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/alumni/contribution-programs/supporter.html)制度をスタートさせました。2019年7月現在、登録者数は80名で、年代は20代から60代までと幅広く、職種も官公庁から銀行、コンサル、商社、ベンチャーなど様々。文系、理系比率は約2:1、女性比率は20%です。

この年代もバックグラウンドも多様な卒業生をつなぐキーワードが、「恩返し」と「学生支援」です。サポーターの方には、卒業生部門のスタッフが面談させていただくのですが、面談に見えた卒業生が異口同音に仰ることが「大学にお世話になったので、恩返しがしたい」「自分の経験やスキルを学生支援に活かしたい」ということです。卒業生の大学への貢献の形は、「時間」、「キャリアスキルや経験」、「ご寄附」の三つに大別されますが、私達が活用しているのは、主にこの「時間」と「キャリアスキルや経験」の部分です。

「入学生歓迎パーティ」のホスト役、「就活面接演習」の面接官役などが活躍の場ですが、プログラムの実施にあたっては、学内の各部署のご協力が不可欠で駒場の先生方やキャリアサポート室と緊密に連携しています。当初は年二回だった募集も現在は通年となっており、今年度中には三桁の登録数が見込まれます。

校友会サポーターの皆さん

今後の課題は、東京近郊のサポーターしか参加できない「地域限定型」企画に加え、居住地を問わず活躍できる新企画の立ち上げです。

規模も活躍の場も広がりつつある校友会サポーター。今後の彼らの動きにご注目ください。

東大アラムナイ www.u-tokyo.ac.jp/ja/alumni/

International Alliance of Research Universities(国際研究型大学連合)

column

ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第159回

教養学部等教務課国際化推進係
係長
林 貴子

PEAK & GPEAK・世界の窓口から

駒場アドミニ棟1階に窓口があります

英語による学位プログラムPEAK(学士)とGPEAK(修士・博士)の教務を担当しています。前期課程から博士課程までの学生をトータルにケアする、教務系でも(おそらく)全学唯一のセクションです。

PEAK & GPEAKは海外からの受入れと送出しがメインのコースなので、本学の国際化に関するポリシーの影響を強く受けます。係の全員が海外での生活経験を持っていることもあり、業務を通じて否が応でも東大、ひいては日本の来し方行く末を考える毎日です。

また、新しいプログラムがゆえに、前例のない・周囲に理解されづらい問題にぶち当たることもありますが、なんとなくみんな明るく仕事ができているのは、見知らぬ土地で地団駄を踏んだり、見返りを求めず親切にしてもらったり、そんな経験が根っこにあるからかなと思います。

真面目な話をしましたが、プライベートでリラックスできるのは、墳子(ふんこ)として活動する時間です。古墳にすっかり魅せられて、測量図を広げたり、遠くは韓国まで探訪したり……。時間や空間の縛りを忘れられるひとときです。

稲荷山古墳のPEAKから将軍山古墳を望む
得意ワザ:
雰囲気で古墳があることが分かる
自分の性格:
まるいけどこだわりのある帆立貝形
次回執筆者のご指名:
佐藤寛也さん
次回執筆者との関係:
大学院(大学経営・政策)の後輩
次回執筆者の紹介:
熱いオシゴトぶりを尊敬してます
column

デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう

第3回 附属図書館情報サービス課
主査
守屋文葉

明治期の東京・パリにタイムスリップ

今回より、「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」から検索できる学内秘蔵のお宝を順にご案内します。まずは総合図書館所蔵資料から2種類ご紹介。

明治37年「写真帖」から 工学実験所試験室

初めに、写真帖『東京帝國大學』。明治期の東京帝国大学を撮影した2点の写真集で、明治33(1900)年のものはパリ万国博覧会、明治37(1904)年のものはセントルイス万国博覧会に出品されました。当時の総長をはじめとする教授たちの肖像や校舎・設備の写真が収録されています。中には撮影を意識してか、スーツにハット、学ランに角帽姿で実験をしている姿も。高精細画像のおかげで、小さな器具までよく見え、昔の東大に関する新しい発見があるかもしれません。「写真帖」は、ポータルのトップページに設けた電子展示の「東京大学を知る」というカテゴリーからすぐアクセスできます。

続いては、田中芳男文庫所収『外国捃拾帖くんしゅうじょう』(全5冊)。幕末・明治期に役人として活躍した田中芳男は日本の博物館創設に尽力した人物としても知られています。彼が収集した大量の商品ラベルなどを貼り付けた『捃拾帖』は以前本誌でも紹介されたのでご存知の方もいるのではないでしょうか。『外国捃拾帖』は、雑多なものを貼り交ぜている点は『捃拾帖』と同じですが、その名のとおり田中が外国(仏、墺、米)の万国博覧会を視察した際の収集物が綴じられています。例えば第2冊には、1867年パリ万博の会場案内図や入場券などが貼り込まれ、万博の臨場感が伝わってきます。またホテルの朝食メニューや種のカタログなどが所狭しと貼られており、博物館創設に向け西洋の情報を貪欲に吸収しようとしていた田中の意気込みが感じ取れます。

「外国捃拾帖」から パリ万博入場券

ぜひデジタルでご覧いただき、在りし日の東京やパリにタイムスリップしてみてください。

東京大学学術資産等アーカイブズポータル
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/

column

インタープリターズ・バイブル第144回

医学系研究科講師
科学技術インタープリター養成部門
孫 大輔

映画とダイアローグ

映画にはいつも「対話(ダイアローグ)」がある。それは人が「物語る」存在だからである。映画がどれほど高技術・高予算になろうとも、ストーリーの核となり心をゆさぶるのは登場人物(たち)の語り、すなわちダイアローグである。

皆さんは好きな映画の名場面として、どのようなシーンを思い浮かべるだろうか。そこに出てくるダイアローグは? おそらく、とてもシンプルな言葉のやりとりと、情感たっぷりの人物たちの表情や身ぶりではないだろうか。小説や演劇のダイアローグと違い、映画のダイアローグでは大げさな表現や直接的な心情のナレーションは必要ない。映像的表現がそれを埋め合わせるので、映画におけるダイアローグは比較的さりげないものとなる。アメリカの脚本家ロバート・マッキーは、その著書の中で、映画のダイアローグの機能を、①明瞭化、②性格描写、③アクションの三つに集約している。つまり、人物たちの対話によって、物語や人物の性格が明瞭化され、場面が動いていく。

映画は何よりも楽しいものである。しかも、娯楽としての要素だけではなく、教育的効果や総合芸術としての側面もある。筆者は、地域における健康プロジェクト(谷根千まちばの健康プロジェクト:まちけん)において、昨年25分の短編映画を製作した。『下街ろまん』と題したその映画は、谷中・根津・千駄木という下街を舞台として、うつ病の青年が人々とのつながりによって健康を回復していく過程を描いた作品である。この映画も過剰な演出やナレーションは避け、人物たちのダイアローグを中心に描いている。この映画を作る過程で、日常的な「なにげない」ダイアローグが、いかに力強く人を勇気付け、トータルな健康(ウェルビーイング)を回復させるのかをあらためて実感した。みなさんも、映画のダイアローグの機能に注目してみてほしい。

『下街ろまん』の一場面

科学技術インタープリター養成プログラム

column

専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第1回 教育学研究科教授小玉重夫

第3期FSプログラム開始

「フィールドスタディ型政策協働プログラム(FS)」というプログラムについて、今まで耳にしたことはあるでしょうか。社会が大きな転換期にある今、多様な関係者と協働しながら、政策を立案・実行できる人材の育成は日本社会の喫緊の課題です。FSはその要請を受け、社会的課題に果敢にチャレンジするリーダー人材の育成を目指し、2017年にスタートしました。

自治体の方々と打ち合わせ。

FSは、プログラム協力自治体から学生に、地域における課題を提示いただくことから始まります。学生はチームを組み、投げかけられた課題に対して事前調査や活動計画の立案等を行った後、地域の現場に入ります。そこで現状について身をもって体験・把握して大学へ戻り、課題解決に向け、自ら考え、または知見を有する学内の教職員等の協力を得て、その糸口を探ります。これらの事前調査、現地活動、事後調査を通じて、一年をかけて課題解決への道筋提案を行います。

道筋提案が大きな目標ですが、学生の活動が地域の課題解決の一助になること、そして、本学の専門知と地域を繋ぐ架け橋となることにも期待しています。

本年度は、11県(青森、山形、石川、福井、長野、三重、鳥取、島根、高知、宮崎、鹿児島)15地域の課題について、学生が取り組んでいます。夏の現地活動前ワークショップにおける自治体の方々との打合せでは、第1期、第2期のOB・OG学生も交え、担当の方から地域の現状を聞き、課題の内容について深掘りするなど、遅くまで熱心な議論が交わされました。

担当教員とのディスカッション。

また、FSは各県毎に担当教員が3名おり、学生の活動をサポートしています。教員とのディスカッションによって、自分たちだけでは気付かなかった課題解決のヒントを見つけた学生も居たようです。

現在学生達は、夏の現地活動に向けて計画を詰めています。その成果については、次回ご紹介します。

フィールドスタディ型政策協働プログラム
www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/special-activities/h002.html