
創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
古きよき教養教育と時代に即した手法を融合
/KOMEX第4代機構長に聞く

――網野先生は4代目の機構長ですね。
「前機構長の退任に伴い、2019年度にアクティブラーニング部門長を務めた私が機構長になりました。私自身は古い教養教育にシンパシーを感じるタイプの人間でしたが、部門長としてアクティブラーニングに深く関わった際、教養教育が変わりつつあるのを実感したのです。教養学部を残した数少ない大学として時代に適応することが重要なのだとあらためて気づいた次第です。現在は、各部門の先生と話をしつつ、機構について理解を深めている最中で、大それたことを言える状況ではないというのが正直なところです。まだ見習い期間の機構長です」
新しいやり方で授業が活性化
――古い教養教育と言いますと?
「私は1・2年生にはスペイン語を教えています。昔はまず文法を徹底的に学び、辞書を片手にテキストを訳していく「文法訳読」が主でした。教員が説明して学生はたまに当てられたら答えるという形です。私自身、最も尊重する方式ですが、近年は、積極的に学生に考えを述べさせ、対話を促すやり方が盛んです。実際に取り入れてみると授業がより活性化するのがよくわかります。「リアクション・ペーパー」を用いれば学生に伝わらなかった部分を把握して次の授業で活かせますし、ラテンアメリカをめぐるエピソードをもっと知りたいといった学生の要望もわかります。COVID-19禍を機にリモート授業が主となり、アクティブラーニングの手法は必要度が増していると感じます」
――オンライン授業のほうが学生は質問しやすいそうですね。
「教室だと周りの目が気になり、初歩的なことを聞いたら恥ずかしいという気持ちもあるのでしょうね。でもそういう質問こそ、講義では大切なのです。一方、教室にあってオンライン空間にはないものがあるとも感じます。教室では学生の表情を見ながらいろいろと工夫し、語学が苦手な学生を引き上げることもできましたが、オンラインだとそれがやりにくく、個人的な印象ですが、できる人との差が開きがちです。私の場合、2年目になってもどかしさが顕在化してきました」
他部局の諮問委員の声も反映
――以前の機構長は学内連携強化や後期課程の教養教育推進を方針に挙げていましたが、新機構長はいかがですか。
「すでに機構の枠組みはしっかりできており、組織としては成熟期にあると思います。オンライン授業が主という状況はおそらく今後も続くでしょうから、不自由を強いられる授業運営のなかで努力を続ける機構の先生方を支えるのが私の役割だと思います。昔、大学の一般教養教育は「パンキョー」などと呼ばれて軽視されがちでしたが、以前講義を担当したペルーのカトリカ大学では2年の教養教育を経て専門教育に進むやり方がとてもうまく機能しており、教養学部を残した東大は間違っていないと確信しました。日本の衰退の最大の原因は大学の教養教育をなくしたことだ、教養教育をしっかり支えなさい、と励ましてくれた科学者もいます。運営については、前期課程の学生を預かる学部として全学の声を取り入れる方針の下、他部局から5人の先生を運営諮問委員に招いています。この2年はCOVID-19禍の影響で諮問会議が開けなかったので、私の在任中にはぜひ開催し、頂戴したアドバイスを反映させていくつもりです。その上で、古さと新しさが融合した東大ならではの教養教育を追求したいと思っています」




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