第33回
大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。
三陸と奄美の高校生の意外な共通点
地域連携プロジェクトである“海と希望の学校”では、各地域の将来を担う地元の高校生との連携活動を積極的に行っています。“ 海と希望の学校 in 三陸”では岩手県沿岸部において、FSI事業“亜熱帯・Kuroshio研究拠点の形成と展開”の“海と希望の学校 in 奄美”では奄美群島において、地域の高校生との連携を行っており、私は両方の活動に携わっています。
緯度にして約10度も離れた両地域では、海洋環境を含めた自然環境が大きく異なります。冬にセーターの上に厚手のコートを着込んで大槌町を出発したら、奄美では昼間は薄手の上着で過ごせたり、奄美の透明度の高いサンゴ礁の海で潜水調査をした翌週に、水温が約12℃低い大槌湾で初夏特有の濁りの中、海藻群落の調査をしたりといったことから、自然環境の差異を肌身に感じているところです。一方で、高校生との連携活動の在り方という点では両地域に多くの共通点があることを私は感じています。高校生が大学での研究に触れること、そして彼らの活動が地域の課題解決につながることへの地域社会の期待が高いことや、地元の皆さんが高校生の活動をサポートしていることは三陸沿岸域でも奄美群島でも同様です。
一方、高校生自身がそれほど地元の海のことを知らないということも、どちらも海との密接な関係の中で歩んできた地域であるにも関わらず、共通しています。高校生に「海によく行く?」と聞くと、ほとんどの生徒さんから返ってくるのは「そんなに行かない」といった言葉です。よくよく聞いてみると、夏に海で泳いだり、釣りをしたりといったことはあって、実際には海には行っているのですが、自分たちの目の前にある海が“どんな海なのか?”ということにはそれほど興味が無かったということかもしれません。両地域で研究を行いながら、それぞれの海の“面白さ”を実感している私たちからすると、大変もったいないと感じます。なので、私たちは高校生との活動の中で、海洋環境の多様性と、その中での地元の海の個性を彼ら自身に認識してもらうことを意識しています。
幸いなことに、海と希望の学校の活動を継続していく中で、“地元の海”に興味・関心を持って活動に参加する生徒さんが両地域において増えてきたと感じています。2020年に始まった大槌高校のはま研究会では、活動開始当初、「部活を引退して放課後ヒマになったので来た」といった生徒さんも居て、私はそれはそれで大歓迎だったのですが、今でははま研究会に参加するために大槌高校に入学したという生徒さんも居ます。奄美群島の与論高校では、先輩の研究を引き継いで進めている生徒さんが居ます。その興味・関心を持ち続け、研究者の道に進んでくれたならばとても嬉しいですが、そうでなくても、個々にとっての地元の海の面白さを認識し、他地域とも共有する人材が育ってくれたらいいなと思って日々活動しています。