

第35回
大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。
第3回 海と希望の学園祭 in Kamaishiによせて
比較現代経済部門 教授


2024年11月9日と10日の両日、岩手県釜石市で「第3回 海と希望の学園祭 in Kamaishi」が開催された。このイベントは、2022年以降、釜石市の主催で、東京大学から大気海洋研究所、社会科学研究所、生産技術研究所、先端科学技術研究センターの4研究所が参加して開催している、一般市民むけの大規模な文化祭である。今年は学園祭前日に、東大関係者による中学生向けの講義も行われ、ますます盛大になった。もちろん文京学院大学や岩手大学釜石キャンパス、釜石商工高校など他大学、高校、関係機関・企業の展示やワークショップなども素晴らしかった(写真❶)。
生産技術研究所と先端科学技術研究センター、釜石市、岩手の大学生の皆さんなどによる「2050年カーボンニュートラルに向けて」というシンポジウムで開幕した学園祭は、「希望の船出」と題した4研究所長と釜石市長とのパネル・ディスカッション、大気海洋研究所、社会科学研究所、釜石海上保安部の関係者による「人と海をつなぐ『船』」と題したトークイベント(写真❷)、映画上映会と充実した内容で、いずれも大入り満員であった(写真❸)。ほかにも沈没船に関する講演や、学術研究船「白鳳丸」の大きなバルーンオブジェ(写真❹)、地元産品の軽トラ朝市など大人気のイベントが盛りだくさんである。これだけ多くの人々が釜石に集い、市民とともに学び、楽しむ姿を目の当たりにして、20年近く釜石の浮沈を見守ってきた私たちは感無量であった。
2005年初頭に、私たち東大社研が希望学の総合地域調査ではじめて釜石に伺ったとき、釜石は地域再生への道を模索している最中だった。もがき、苦しみながら地域における希望のありかを探し求めていた釜石の人々は、地域のローカル・アイデンティティを再構築し、地域内外のネットワークを駆使しつつ、少しずつ地域の希望を再生しつつあった。その矢先に発生した東日本大震災の大津波で、釜石を含む三陸沿岸地域は壊滅的な被害を受けてしまう。しかし、再生しつつあった地域の希望は、釜石の復興を後押しした。震災前に構築していたネットワークやローカル・アイデンティティ再構築のノウハウが、企業や市民が震災の衝撃を乗り越えるための重要なツールになった(東大社研・中村尚史・玄田有史編『地域の危機・釜石の対応』東京大学出版会、2020年などを参照)。
海と希望の学園祭は、地域内外の新たなネットワーク形成や、若い世代のローカル・アイデンティティの再構築に寄与し得るという点で、こうしたツールを再認識し、磨きをかける重要なイベントである。それは、東京大学がハード面のみならず、ソフト面でも地域創生に貢献できる可能性をも示している。今後は、釜石のみならず、他地域での展開も視野に入れていく必要があるのではないだろうか。


