

第36回
大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。
東京大学と岩手県が包括連携協定を締結


岩手県とは古い付き合いである。大学院生の時から10年以上、連休を挟んだ3週間以上を大槌町の実験所で過ごし、植物プランクトンの春季大増殖を観測し、冷水性の扱いやすい動物プランクトンを用いて実験を繰り返していた。町や県とのお付き合いはなかったが、早池峰山や五葉山などを巡り、良く知る地方となった。
大槌臨海研究センターが出来て52年、東京大学もずいぶん岩手県と長いお付き合いをしてきた。ただ、震災前は、大学が県や町とそれほど密なお付き合いをしてきたわけではない。震災前にセンター長であった道田豊さんが、いわて海洋研究コンソーシアムなど県とのお付き合いを始め、そのカウンターパートが佐々木淳さんで現在の副知事である。
また、見まわしてみると、再生エネルギーの開発で生産技術研究所や未来ビジョン研究センターが、盛岡、釜石、洋野で活動し、社会科学研究所が釜石で、希望学や危機対応学を展開し、県内で広く多様な活動が展開されていることが判る。また、震災直後は、工学系研究科、農学生命科学研究科、総合博物館など多くの部局が復興事業を展開した。時間的にも空間的にも長く広きにわたる活動は自律分散的に行われてきたが、これだけ多くの活動が行われている地域は岩手県を除いて他に例をみない。
今回の連携項目を見てみると、地域の課題対応のための学術研究の推進など5項目が並ぶが、協議の段階ではより多くの連携項目がリスト化され、一つ一つに対応する部局が割り当てられた。ここまで具体的に詳細に活動内容が詰められることはまれで、岩手県ふるさと振興部の方々と連携責任部局の兵藤晋所長の熱意の賜物である。主な活動は被災地域である沿岸部であるが、エネルギーや林業といった取り組みが、内陸部に広がっていくことが計画されている。
締結式典の朝、盛岡のホテルで朝食をとっていると近くの席の男性が、「今朝、玄田先生に会ったよ」と話している。当然、式典の関係者と思ったが式典にはその男性はいなかった。道田さんは式典で多くの古い友人と握手を交わし、遠野市在住の青山潤センター長は、県職員から「あなたは東大側ではなく県側の席に着くべきではないか」とからかわれていた。この連携は上手くいく、そう確信した。

