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第37回海と希望の学校―震災復興の先へ―

大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。

高校生サミット in 奄美~群島をつなぐ探究学習支援の輪~

大気海洋研究所附属
国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門 准教授
平林頌子
平林頌子
生徒が開会宣言を行っている様子
「高校生サミット in 奄美」開会宣言

FSI事業“亜熱帯・Kuroshio研究拠点の形成と展開”プロジェクト(第30回の記事参照)が2021年に始動し、その専任講師として大気海洋研究所に着任して以来、奄美群島の美しい自然や人情味あふれる人々に魅せられながら、研究や人材育成事業に取り組んでいます。本稿ではプロジェクトの一環として支援している、奄美群島高校探究学習コンソーシアムに関してご紹介します。

奄美群島には12市町村があり、高校は9校ありますが、それらの高校の先生や生徒たちとの話の中で、海水温上昇や赤土流出のサンゴへの被害、大雨や津波への防災対策などに関心を持ち、調査をしたいと考えている生徒がいることがわかりました。しかし、奄美群島には大学がないこともあり、具体的な研究の進め方が分からなかったり、行き詰まってしまうケースもあるようです。また、類似した研究テーマに関心を持つ生徒が各校にいるにもかかわらず、高校間での交流や意見交換の場が少ない状況にありました。

そのような中、奄美群島全体の高校をつなぎ、大学研究者と連携した探究学習の指導体制を構築する「奄美群島高校探究コンソーシアム」が2024年3月に設置されました。そのきっかけになったのは、2023年11月に大気海洋研究所が奄美大島で開催した本プロジェクトのシンポジウムでした。このシンポジウムに参加された地元の大島高校の校長が、奄美群島をフィールドに研究する多くの研究者の姿を目にされたことが大きな転機となり、コンソーシアムの設置に至りました。このコンソーシアムには、奄美群島内の高校9校、7大学、1企業が参加し、大気海洋研究所も参画機関の一つとして高校生の探究学習を支援しています。

2025年3月19日には、第2回「高校生サミット in 奄美」が大島高校で開催され、私も初めて参加しました。各校を代表する生徒たちは、「総合的な探究の時間」での研究成果を発表し、自然、文化、歴史、教育など地域の課題にアプローチしていました。テーマは多様でしたが、その根底には「自分たちの地域をより良くしたい」という熱い奄美愛(郷土愛)や強い意志が感じられました。

高校生の探究学習の成功には、生徒自身の努力は勿論のこと、地域の大人たちの支援も欠かせません。多くの地元企業が協賛し、地域サポーターとして高校生の調査取材に協力し、研究に関する助言を行い、彼らの提案を実践する場を提供しています。こうした支援があるからこそ、奄美群島高校探究コンソーシアムは成り立っています。

高校生サミット終了後、コンソーシアムに参画する大学、企業、自治体が集まり意見交換会が開かれたのですが、その会場に飾られていた掛け軸の言葉が心に残っています。それは「箪笥を売り 田を売り 家を売り たらいを売り 全てを売り貧しくても 子供を育てる」というものです。聞けば、オーナーは元中学校校長で、島外に出た(島立ちした)奄美の若者が帰郷した際に集まれる場所を作りたいと考え、定年後に店を開いたとのこと。この日の経験を通じて、奄美群島の人々の、若者の教育への熱意と地域を守り支える気概を感じました。私たちの活動を通じて、奄美群島の環境保全や地球環境を守るために取り組む若者たちが増えることを願っています。

体育館で椅子に座っている大勢の学生の様子
各校の発表を熱心に聞く高校生たち
教室内でテーブルに座り語り合う学生たちの様子
発表終了後、お互いの地域やこれからの奄美について語り合う様子
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UTokyo バリアフリー最前線!第33回

障害がある職員のお仕事拝見⑧自転車整理スタッフの巻
ことだまくん

数千台の自転車を美しく整理

本郷キャンパスの駐輪場は100ヵ所以上、駐輪許可登録されている自転車は5000台以上。それらを整理し、整然とした美しい状態にしているのが2007年に発足した施設部環境課の自転車整理スタッフ。聴覚障害がある職員5名とコーディネーター1名のチームです。本郷、浅野、弥生、病院地区をバランス良く巡回し、雑多に置かれた自転車の位置を整理し、未施錠の自転車には注意書きを貼り付け、周辺の美化や看板などの管理も行っています。

制服を着た職員がテーブルに座って打ち合わせする様子
打ち合わせは、音声認識ソフトや手話通訳を介して行います。

「利用者が自転車を出し入れしやすいような間隔を意識しながら整理しています」と話すのは2024年に入職した小林百笑夏さん。基本は自転車の向きをまっすぐに並べていくことですが、台数が多い駐輪場では斜めに置き、歩行者が通りやすいように整理しています。前輪の角度を調節したりといったコツをつかむのがなかなか難しいと話すのは2年目の瀬口沙良さん。「先輩方から指導を受けて日々頑張っています」

作業は8時半から15時半まで。悪天候の日は室内でデータ入力や掲示物の作成などを行います。パワーポイントを駆使して様々な掲示物を作成している安江武祥さんは、2021年に入職してから使い方を習得したそうです。屋外での作業中には、観光客などから道を聞かれることもしばしば。「どう対応すればいいのか最初は戸惑いました」と9年目の井上英生さん。チームで考え、現在は日英併記の構内マップや音声認識アプリを入れたスマホなどで対応しています。3年目の入澤小次郎さんは手作りのコミュニケーションカードも携帯し、指差しなどでやりとりすることも。手話で「おつかれさま」は、右手の握りこぶしで、左手の手首をトントンと2回軽くたたく動作。構内で見かけたら、「おつかれさま」と声をかけてみてください。

緑色の作業服を着た6人が手話で「おつかれさま」のポーズをとり集合写真に映る様子
左から、瀬口沙良さん、入澤小次郎さん、コーディネーターの中田槙さん、井上英生さん、小林百笑夏さん、安江武祥さん。「おつかれさま」の手話でポーズ。
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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第55回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

「移牒」の話―公文書に記された古代の言葉?

「通牒」と「移牒」が記された公文書の写真

本学のシンボルは銀杏の木ですが、今回はそのイチョウのことではありません。昭和20年代の「文部省往復」という本学と文部省(現文部科学省)との往復文書綴りのうち、ある文書に「移牒いちょう」と記されていました。移牒とは、一つの官庁から管轄の異なる官庁への通知や、その文書のことです。

今から1,300年ほど前、7世紀末から整備された基本法である「律令」の「公式令くしきりょう」では、公式様文書くしきようもんじょという行政文書について定めています。ここに含まれる「」は直属関係にはない官庁が取りかわす文書、「ちょう」は官庁から、それに準じる所または官庁ではない所に出す文書でした。明治時代以降、「移」「牒」のふたつを組み合わせて「移牒」を用いることにしたようです。

当館のデジタルアーカイブでは、件名に「移牒」が含まれていても中身の公文にはない文書があります。また、明治39(1906)年の「文部省往復」には、米国から外務省への「通牒」(文書による通知)が文部省に「移牒」され、澤柳政太郎文部次官から浜尾総長あてに進達された文書が綴られています。通牒と移牒を使い分けた例です(S0001/Mo128/0033)。

古代の律令制を模した明治の太政官制のもと、官庁どうしの通知は「移牒」とされ、戦後まで受けつがれたのでしょうか。ある官庁職員によると「30年を超える公務員生活で、(移牒という用語は)一度も使ったことがない」とのこと。一体、いつから使用されなくなったのでしょう。

(学術専門職員:寺島宏貴)

東京大学文書館

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第227回

工学系・情報理工学系等事務部
学務課総務・学生支援チーム
前原里咲

ゆめ

前原里咲
HASEKO-KUMA HALLにて

こんなひとでありたい こんなふうに仕事をしたい

そんな理想や憧れが、日々の原動力です。

東大に就職して、もうすぐ3年。たくさんの人の背中を見て、たくさんの影響を受けました。東大はこうして支えられているんだなぁという場面を数々見て、自分もそうなりたい、そればかり日々考えています。

昨春に着任した工学部では、大学職員の顔ともいえる学生支援業務を担当しています。総務・学務・教務にまたがる業務を広くこなす毎日は試行錯誤の連続です。従来の体制も大切にしつつ、手を加えられる所は効率化をはかったり、そんな継承と進化のバランスに悩んだりもします。窓口に来た学生さんの対応、行事の企画運営、奨学金や学費免除の事務、教職。通勤電車と寝る前の30分は資格取得の勉強をしたり。大変なこともあるけど、応援してくださる上司・先輩・同期に恵まれて本当に幸せでがんばってよかったなと思います。自分がいることで、社会にとって何かプラスになり、ひとのためになれたら嬉しいなと思います。

桜が咲く木のそばに立つ前原里咲さん
京都・鴨川の滸にて
得意ワザ:
書道・クラシックギター・動画編集
自分の性格:
「まっすぐ」とよくいわれます(笑)
次回執筆者のご指名:
市川 祐さん
次回執筆者との関係:
前部署(財務部契約課)の後任
次回執筆者の紹介:
面白くて頼れるしごできお兄さん
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第45回

史料編纂所助教畑山周平

「島津家本」にもご注目を!

面高真連坊頼俊日記の1ページ
面高真連坊頼俊日記/島津家本のうち

史料編纂所の所蔵品のうち、著名なものの一つに国宝「島津家文書」がありますが、これと似た名前の「島津家本」という史料群も存在します。島津家本は、近代になって旧鹿児島藩主島津家が設置した、公爵島津家編輯所に蓄積された史料群で、近世後期から近代の作成にかかる冊子体の写本が主体となっています。

島津家文書が源頼朝や豊臣秀吉など、中世以来の著名人の古文書原本を含み、「武家文書の白眉」と称されているのに比べると、写本ばかりの島津家本は一見地味に思えます。ところがよくよく見てみると、その中には、他にはない中世史料の写や、近世・近代の歴史研究の足跡がうかがえるような貴重な史料も含まれているのです。そこで史料編纂所では、東京大学デジタルアーカイブズ構築事業を活用して、島津家本のデジタル化に取り組み、活用促進を図っているところです。

島津家本の重要性を示すべく、一つ史料を紹介しましょう。『面高真連坊頼俊おもだかしんれんぼうらいしゅん日記』は画像を見れば明らかなとおり、罫紙にほぼ楷書で記された、それほど古くはなさそうにみえる史料です。ところが内容を検討してみたところ、これは戦国時代の1580年代、使者として四国・中国地方に赴いた、島津家臣の日記の写だと判明しました。そのため本史料からは、当時の九州・四国・中国の交通ルートや、長宗我部元親・毛利輝元などの戦国武将の動向といった、非常に貴重な情報が拾えるのですが、実はこの史料、一見近代史料のようにみえることもあってか、これまでほとんど存在が知られていませんでした。

このように、島津家本にはまだまだ「未知のお宝」が埋まっている可能性があります。その画像は上記日記も含めて、史料編纂所データベースおよび東京大学デジタルアーカイブポータルを通じて順次公開しますので、ぜひご活用ください。

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インタープリターズ・バイブル第212回

総合文化研究科 客員教授
科学技術コミュニケーション部門
青野由利

字になるか、ならないか

長年、新聞社で科学記事や科学コラムを書いてきた(という話は以前も書いた)。その結果、「職業病」のように身についてしまった癖がいくつかある。

定時のニュースを聞かないと落ち着かないこと、いつも電話が気になること、お昼も夜もご飯を食べる時間が遅いこと。こういった習慣は3年前に退社してから徐々に抜けたが、先日、「これはなかなかしぶとい」と気づいた癖がある。

どこに行っても、何を見ても、何を聞いても、「これは字になるか、ならないか」を反射的に価値判断してしまうことだ。

「字になる」とは、つまり「記事にできるかどうか」。駆け出しの記者だったころネタ探しにとても苦労した。それが高じて、「字になるかどうか」を瞬時にふるいにかけるセンサーが脳内にできてしまったのだ。

新聞社勤務だったころは、その脳内センサーに疑問を抱いたことはなかった。むしろそれがなければ仕事に支障が出ただろう。

でも最近、これってまずいんじゃないの、と反省するようになった。記事にならなくても、重要だったり楽しかったりすることはいくらもある。なのに、「字にならない」と判断したとたん、その対象への興味を失いがちであることに気づいたのだ。

そんなことを思いつつ、3月末、駒場で開かれた「科学技術インタープリター養成プログラム」の修了式をのぞきにいったら、反省を忘れて脳内センサーが作動してしまった。「字になりそう」なテーマが満載だったからだ。

たとえば『チ。―地球の運動について―』を題材に、科学史の史実と異なるフィクションを含むマンガが学問への導入に資するかどうかを分析した研究。自ら短編SF小説2編を書いて、数学を学ぶ動機付けへの小説の影響を分析した研究等々。いずれもユニークな視点が刺激的だった。

それとは別に、もうひとつ感じたことがある。学生たちがお互いに言いたいことを言い合いながら、(たとえ苦しい場面があったとしても)楽しく課題に取り組んだ様子が伝わってきたことだ。

もちろん、「字になるかどうか」より、これが大事なのだ。

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第66回

ディベロップメントオフィス
シニアディレクター
庄司英里

『卒業生の東京大学ガイドブック』制作

卒業生の東京大学ガイドブックの表紙

希薄だといわれている卒業生と東大の関係を深めるため、この度初めて「卒業後の東大歩き方ガイド」を作りました。制作担当メンバーのコメントです。

東大出身を楽しんでほしい、このことをいちばんに企画編集。全学に散らばっている宝物のような情報をぎゅっと詰め込みました。ある世代には懐かしい「はみ出し」にもご注目を!(庄司)

みんなが知ってる東大。卒業生ならより深く知ってるものと思っていたが、実はそうでもないらしい。多彩な卒業生たちが母校に思いを寄せてくれることを祈っています。(二瓶仁志)

全体デザインを担当。閉鎖的で固い印象を持たれがちな東大ですが、卒業生はもちろん実は地域に開かれたキャンパスでもあります。そんな温かい印象を感じられるよう工夫を重ねました。細部までご覧くださるとうれしいです!(野口勝央)

イラストを担当。表紙には東大ゆかりの方がさりげなく登場しているので、ぜひ探してみてください。誌面の内容とあわせて、イラストも楽しんでいただけたら嬉しいです!(野田百花)

このガイドはTFT登録卒業生に郵送しています。TFTは教職員・在学生も登録できます。この機会にオール東大のコミュニティにご参加ください。
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ようこそ、おかえり、東大へ 東京大学ホームカミングデイ

10/18(土)は東京大学ホームカミングデイです!

母校に卒業生を迎えてのオール東大の祭典。ディベロップメントオフィスでは4月から準備を開始、企画参加を同窓会、部局、在学生団体に呼びかけていきます。どなたでも楽しめる企画のほか、卒業の節目を迎える方々を安田講堂にご招待しての周年祝賀式典を行います(卒業10~60周年までの10年毎の学年が対象)。同日に行われる周年懇親会の幹事団を募集中です。教職員として東大に勤務している卒業生のみなさま、ぜひ幹事に立候補ください(こちらは卒業10~60周年までの5年毎の学年が対象)。

詳細は右記二次元コードよりご確認ください→
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