

第38回
大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。
世界規模の気候変動を地域で考える
国際・地域連携研究センター
地域連携研究部門 教授


大槌沿岸センター(以下、センター)に着任して2年が経ちました。前職(北海道大学)から一貫して、気候変動が海洋生物や沿岸社会に及ぼす影響の評価・予測・対策に関する研究をシームレスに行うことを意識してきました。地球温暖化や海洋酸性化は地球規模で起こっている現象ですが、地球温暖化は大雨などの局所的な極端現象や、それに伴う洪水などの災害の頻度や強度を増大させること、また沿岸域では海洋酸性化に加えて陸域からの物質の流入が海水のpHを下げる沿岸酸性化という現象も起こっていることが知られています。つまり、これらの問題の解決には、世界中で人為起源CO2の排出削減に取り組むことに加え、地域の実情に応じた対策を地域ごとに講じる必要があるということです。
地球温暖化や海洋酸性化の問題を自分ごととして捉えるためには、まずは目の前で起こっていることを知ることが大切です。そこで、大槌高校はま研究会との共同研究として、地元の高校生と一緒に海水分析や海洋観測機器を用いた連続観測を行い、大槌湾での地球温暖化や海洋酸性化の進行状況を調べることから始めました。これらの現象の長期傾向を明らかにするためには、観測を長期間継続してデータを蓄積していく必要があります。この高大連携の研究は今後も継続していく予定で、今後は市民科学的な要素も加えて実施していきたいと考えています。
センターは三陸ジオパークのエリア内にあり、その縁もあり「ジオパーク認定ガイド」認定講座の講師や日本ジオパーク全国大会のパネリストなど、ジオパーク関連の仕事をお引き受けする機会も増えてきました。地球惑星科学科出身ということもあり、元々ジオには興味がありましたが、趣味の域に留まっていたところ、世界ジオパークネットワークでも「気候変動への関心を高めること」が重点分野のひとつに掲げられていることを知り、仕事としての大義名分を得られた安堵感をもって取り組んでいます。最近は大分県のおおいた姫島ジオパークや鹿児島県の三島村・鬼界カルデラジオパークの海底から火山性のCO2が噴出している海域を、海洋酸性化が進行した「将来の海」に見立て、その海域の生態系を詳細に調べることで海洋生物の海洋酸性化影響を推測する研究を、地元の関係者や他大学・研究機関と行っています。
日本のジオパークの多くはいわゆる地方に存在するため、ジオパークに関する雇用は自ずとその地域に生まれます。博士課程修了後にジオパーク専門員としてそれぞれの地域に就職するケースもあり、数値では測れないものの、多様なキャリアや高い専門性を有する有為な人材の存在はそれぞれの地域に好影響をもたらしていると思います。地域の研究拠点の一員として、そして大学院教育に携わっている者として、地域から学びつつ、地域に根差した諸学術分野の専門家の人材育成を通じて地域に貢献できないかと模索しているところです。

(前列左から2人目が筆者。写真は大会報告書より転載)
