東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。
広告のプロたちとともに学内で大学の外に出よう!
全学自由研究ゼミナール/東京大学×電通「企画の研究所」
社会連携部門
桑田光平
――電通とのコラボによる授業ですね。
「そもそもは近所のバーでコピーライターの吉村優作さんと出会ったのが発端でした。電通と組んで授業をという話が盛り上がり、プランナーの尾上永晃さんと話すうちに「企画の研究所」というコンセプトが浮上しました。プランナーとはまさに企画者。ものの見方を変えたり社会課題に取り組んだりすることも企画には含まれます。学生に少し違う頭の使い方をしてもらう授業を目指し、2024年4月に開講しました。企画で社会を少しでもよくするための研究所という体裁です。学生は研究所の所員。第一線のクリエイター陣が毎回講師として指導します」
「3つの目」を鍛える実地調査
「ものの見方を学ぶため、所員たちはフィールドワークを通して虫・鳥・魚の「3つの目」を体感していきます。最初に取り組むのは、キャンパスを1時間歩き、小学4年生の視点で遊び方を見つけること。たとえば、教室に多数放置された新歓ビラで紙飛行機を折り、収集箱に飛ばして入れる「ビラ飛行機シューティング」というアイデアが出てきました」
――遊びを入れれば掃除も楽しい、と。
「別の回では、チームごとに渋谷を歩き、人により異なる街の見え方を地図にしました。街宣車の音や店のBGMなどの人工音が聞こえる領域のみを渋谷と捉える地図や、監視カメラに映らない死角を集めた地図などを作ることで、見慣れた街が新鮮に映る体験を味わう。広告コピーや短い動画を制作してプロに評価してもらう試みも繰り返し行いました。授業は1回2時間半。毎週課題も出されます」
学食でメニュー別に売上を競う
「Sセメでの訓練を経て、Aセメは実践を行います。一例が東大生協と連携した学食企画。副菜メニューをいくつか選び、チームごとに売上の向上策を競いました。オクラのお浸しを担当したチームは、オクラと扇風機を置き、食堂に匂いを充満させる実験中だと貼り紙でPRしました」
――オクラって匂いませんよね?
「はい。「カレーの匂いを嗅ぐとカレーの口になる」などと言われることを意識した策ですね。鶏のレバー煮のチームは、文学調のストーリーを原稿用紙風ポスターにして料理受取エリアに掲出。冷奴のチームは、現代アートのような四角い白い物体を構内の随所に展示。そんななか、売上率を最も上げたのは、温泉卵のチームでした。「なかやまきんにくんが一日5個食べる」というコピーとシズル感のあるビジュアル展開が効いたようです」
――駒場祭も授業の一環だったとか。
「「もやけ屋敷」という企画を出展しました。カラオケで歌い始めると皆がトイレに立つ、猫カフェで自分だけ猫が来ないなどもやもやを形にした展示です。来場者は自分のもやもやも付箋に書いて貼り出す。もやもやを他人と共有すればすっきりすることを踏まえた企画でした」
「学生は社会経験がまだ少ないせいか、NGが出て当然のポスターを作ったり、炎上必至の案を出したりもします。駒場祭ならきちんと届けを出すとか、予算管理やシフト調整などの事務も欠かせません。思いつきやノリだけでは企画が実践できないと知り、要望と現実を擦り合わせることは、貴重な経験となるはずです」
「社会連携部門の教員として伝えたいのは「大学の外に出よう」ということ。学歴も成績の優劣も担当教員の評価も関係なく、ここではアイデアがステークホルダーに認められるかどうかこそが重要です。大学にいながらにして外の社会が味わえる授業かなと思っています」








