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第72回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

広告のプロたちとともに学内で大学の外に出よう!

全学自由研究ゼミナール/東京大学×電通「企画の研究所」

総合文化研究科教授
社会連携部門

桑田光平
桑田光平

――電通とのコラボによる授業ですね。

そもそもは近所のバーでコピーライターの吉村優作さんと出会ったのが発端でした。電通と組んで授業をという話が盛り上がり、プランナーの尾上永晃さんと話すうちに企画の研究所というコンセプトが浮上しました。プランナーとはまさに企画者。ものの見方を変えたり社会課題に取り組んだりすることも企画には含まれます。学生に少し違う頭の使い方をしてもらう授業を目指し、2024年4月に開講しました。企画で社会を少しでもよくするための研究所という体裁です。学生は研究所の所員。第一線のクリエイター陣が毎回講師として指導します

「3つの目」を鍛える実地調査

ものの見方を学ぶため、所員たちはフィールドワークを通して虫・鳥・魚の「3つの目」を体感していきます。最初に取り組むのは、キャンパスを1時間歩き、小学4年生の視点で遊び方を見つけること。たとえば、教室に多数放置された新歓ビラで紙飛行機を折り、収集箱に飛ばして入れる「ビラ飛行機シューティング」というアイデアが出てきました

――遊びを入れれば掃除も楽しい、と。

別の回では、チームごとに渋谷を歩き、人により異なる街の見え方を地図にしました。街宣車の音や店のBGMなどの人工音が聞こえる領域のみを渋谷と捉える地図や、監視カメラに映らない死角を集めた地図などを作ることで、見慣れた街が新鮮に映る体験を味わう。広告コピーや短い動画を制作してプロに評価してもらう試みも繰り返し行いました。授業は1回2時間半。毎週課題も出されます

学食でメニュー別に売上を競う

Sセメでの訓練を経て、Aセメは実践を行います。一例が東大生協と連携した学食企画。副菜メニューをいくつか選び、チームごとに売上の向上策を競いました。オクラのお浸しを担当したチームは、オクラと扇風機を置き、食堂に匂いを充満させる実験中だと貼り紙でPRしました

――オクラって匂いませんよね?

はい。カレーの匂いを嗅ぐとカレーの口になるなどと言われることを意識した策ですね。鶏のレバー煮のチームは、文学調のストーリーを原稿用紙風ポスターにして料理受取エリアに掲出。冷奴のチームは、現代アートのような四角い白い物体を構内の随所に展示。そんななか、売上率を最も上げたのは、温泉卵のチームでした。「なかやまきんにくんが一日5個食べる」というコピーとシズル感のあるビジュアル展開が効いたようです

――駒場祭も授業の一環だったとか。

もやけ屋敷という企画を出展しました。カラオケで歌い始めると皆がトイレに立つ、猫カフェで自分だけ猫が来ないなどもやもやを形にした展示です。来場者は自分のもやもやも付箋に書いて貼り出す。もやもやを他人と共有すればすっきりすることを踏まえた企画でした

学生は社会経験がまだ少ないせいか、NGが出て当然のポスターを作ったり、炎上必至の案を出したりもします。駒場祭ならきちんと届けを出すとか、予算管理やシフト調整などの事務も欠かせません。思いつきやノリだけでは企画が実践できないと知り、要望と現実を擦り合わせることは、貴重な経験となるはずです

社会連携部門の教員として伝えたいのは「大学の外に出よう」ということ。学歴も成績の優劣も担当教員の評価も関係なく、ここではアイデアがステークホルダーに認められるかどうかこそが重要です。大学にいながらにして外の社会が味わえる授業かなと思っています

テーブルの上に置かれた扇風機とオクラがあり匂いを充満させオクラの口にする実験の様子 レバー煮のことが書かれたポスター 冷奴を使ったアート作品。黒いランチョンマットの上に冷奴と箸が置いてある 「なかやまきんにくんが一日5個食べる」とコピーの入ったポスター
「もやけふぁみりー」と書かれたキャラクターの顔ハメパネル 中央に黒いマーカーが描かれた黄色と黒のサイン
Xで599万回表示されるほどの大反響を呼んだオクラチームの企画ですが、売上は思ったより上がらなかったとか。「そこが面白いところです」(桑田)。レバー煮チームのポスター。白鳥くんと蒼翔さんは幼馴染の関係です。駒場博物館の協力も得て展示された冷奴アート。「無限の想像力を人間にかきたてる無垢の白さ」が特徴。食欲をそそる写真ポスターとキャッチーなコピーの合わせ技で結果を残した温玉チーム。駒場祭で人気を博した「もやけ屋敷」。顔ハメ位置の低さももやもやの一つ。授業の報告書はいわゆるZINEスタイル。編集後記はChatGPTとの対話スタイル。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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UTokyo バリアフリー最前線!第40回

障害がある職員のお仕事拝見⑮日光植物園の巻
ことだまくん

除草から日光花しおり作りまで

2010年4月に発足した障害があるスタッフ6人とコーディネーター2人で構成される日光植物園環境整備チーム。園路とトイレの清掃から始まったチームの業務は徐々に拡大し、現在では高山植物が植栽されたロックガーデンの除草や屋内清掃、園内の花を使ったしおりやマグネット作りまで多岐にわたっています。その貢献が認められ、2023年度には業務改革総長賞の理事賞を受賞しました。

10月上旬頃から冬にかけて、サクラ類、ブナ、カエデ類、ツツジ類などの紅葉が徐々に進んでいく園内。それらの色づいた落ち葉を掃き集める作業が好きだと話すのは2016年に入職した竹内晨さん。「美しい紅葉を見ながら熊手で落ち葉を回収していると、とても気分がよくなります」

草取りも重要な作業の一つだと話すのは昨年入職した菊池瑠磨さん。園路周辺を中心に、鎌などを使って根っこから刈っていくそうです。2016年に入職した大毛忠好さんは、生い茂っていた雑草が綺麗に刈り取られた後はすっきりとして気持ちがいいと言います。約2,200種類の高山植物や寒冷地の植物を育成する園内の作業では、大切な植物を誤って抜いてしまわないように「落ち着いて取り組むことが大切です」と説明するのは今年で10年目の大門陽一さん。

天候が悪い日は屋内作業を行います。その一つが、園内やUTCCで販売している「日光花しおり」や「日光花マグネット」の製作です。春から夏にかけて園内の花を摘み、それらを押し花にしたものを使っています。

「ぜひ日光植物園に来園してほしい」と話すチームメンバーたち。昨年入職した福田日向子さんのおすすめスポットはミズバショウ池。「池の周りには東屋やベンチもあり、小川のせせらぎも聞けてすごく気持ちがいいです」。2019年に入職した日下滉太さんによると、春やお盆、秋は混雑するため、ゆっくりと園内を周りたい場合はそれ以外の閑散期がおすすめだそう。綺麗に整備された植物園を訪れてみてください。

公園のベンチに座っている3人とその後ろに立つスタッフの写真
(前列左から)大門陽一さん、菊池瑠磨さん、日下滉太さん。
(後列左から)大毛忠好さん、福田日向子さん、竹内晨さん。
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#We Change Now

第16回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

女子中高生のための説明会を開催

10月25日(土曜日)に、女子中高生および保護者を対象とした、オンラインイベント「中高生のための東京大学説明会」を開催しました。当日は、女子中高生およそ80人、保護者およそ10人が参加しました。

説明会では、はじめに、林香里理事・副学長から開会のごあいさつで女子中高生に、さまざまなことにチャレンジしてほしいという励ましのメッセージをいただきました。薬学系研究科の後藤由季子教授からは、東京大学の概要について説明がありました。そのあと、在学生2名の話題提供があり どうして東大を目指したのか、東大ではどんなふうに勉強やサークル活動をしているのか、留学の体験など、等身大の東大生のお話をしていただきました。

後半では、藤井輝夫総長のお話、参加申し込みの際に中高生からいただいた質問への回答があり、そのあと、今回の説明会の主要な企画である現役東大生と女子中高生との交流がありました。希望者は藤井総長と直接交流があり、活発に議論が行われました。

参加した生徒さんからは、「自分のほかにも全国に東大に興味のある中高生がこんなにいるんだと励みになりました」「少しハードルが高いように感じていた東大について、説明会を通して少し身近に、自分にもありえる選択肢だと感じることができました」といったご意見をいただきました。

女子中高生のための東京大学説明会のポスター
説明会のポスター

今回のイベントは、全国の様々な地域から中高生、保護者の方にご参加いただきました。参加したみなさんが、東京大学をより具体的にイメージし、将来の選択肢を広げる貴重な機会となったものと考えております。今後も当オフィスでは、中高生に向けて情報発信、サポートを続けてまいります。どうぞご期待ください。

(特任研究員 久保京子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第234回

情報学環総務チーム
一般職員
加藤良隆

今、必ず誰かがどこかで死んでいる

加藤良隆
情報学環25周年式典でのひとコマ
「ワタシのオシゴト」本編のQRコード

「ワタシのオシゴト」本編については、QRコードよりぜひご一読ください。ここからは「ワタシのオシゴト」特別編になります。

2017年12月1日、父が死んだ。享年60歳。私が父と過ごした日数を数えてみたら、9,115日だった。その日々の中で特別な思い出があったか、思い出そうとしてみたが思い浮かばなかった。生前、面と向かって何かを語り合うこともなかった。たくさん後悔があるが特に悔やんでいることが1つある。父に“ある言葉”を言えなかったことだ。心には抱いていたが結局口にできず父は死んだ。

森の中の階段を上る二人の写真
「あんちゃんたちよ、変えちゃえよ。時代」

通夜・葬式、多くの方に参列いただいた。たくさんの方が父の死を悼んでくれ、その時に初めて父の偉大さを知った気がした。その日は満月、今でも満月を見るとあの日のことを思い出す。空を見上げると今日も満月だ。何を書くか迷っていたが父のことを書くのは運命だったのかもしれない。

父さん、色々あったけど何とかやれてるわ、もう少しだけ頑張るわ。最後に1つだけ言わせて。今まで、本当にマジで“ありがとう”。

得意ワザ:
100mを9.42秒で走ることができる
自分の性格:
すぐ嘘をつく
次回執筆者のご指名:
石田美里衣さん
次回執筆者との関係:
先端研在籍時の先輩です!
次回執筆者の紹介:
シゴデキで音楽もできちゃう神!
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第40回
農学部3年山﨑美怜

城跡から松倉を考える

北は富山湾、南は立山連峰に連なる山地に囲まれた富山県魚津市は蜃気楼で有名な町です。私たちはそんな魚津市の山あいにある松倉地区で1年間活動を行いました。

松倉地区には越中最大の山城である松倉城跡があります。松倉城は南北朝時代頃に築かれたとされる歴史ある山城で、上杉謙信や織田信長などの争いの舞台にもなりました。山城ならではの入り組んだ地形や、魚津市を一望する絶景に驚きました。

私たちの活動のテーマは「越中最大の松倉城跡を中心とした里山の暮らしと地域の再興」でした。夏休みには松倉城跡の調査はもちろん、金山坑道の見学や松倉地区の刀踊りなどの伝統文化の学習、藍染めや棚田での農業といった松倉の自然との関わり方を学びました。松倉地区の方との交流会では、地域への愛情や責任感を強く感じました。松倉地区を維持するために人を呼ぶ、今住んでいる人たちが幸せに暮らすために地域活性化を進める、という、私にとっては新たな地域おこしの視点でした。

1回目の現地活動を通じて地域を盛り上げる提案内容を考え、秋に行った2回目の現地活動では地区の文化祭で中間発表を行ったり、地域の伝統的な食文化体験を行ったりしました。それらの活動を通じて、「松倉城址を小学生の遠足場所に」、「地域の幸を活かしたアイスクリームの製造・販売」、「空き家の企業向け貸出」、「コミュニティセンターの活用」、「狩猟サークルなどの若者誘致」の5つの提案をさせていただきました。

人口減少や耕作放棄地など地方が抱える課題の複雑さや里山集落ならではの繋がりの強さを感じました。人が温かくパワフルで景色が美しい富山県魚津市へぜひ一度訪ねてみてください。私もまた訪ねようと思います!ほんならねー!

伝統的な踊りに使う道具を持ち写る5人のメンバー達。
地域の方との交流会で伝統的な踊りを教わる
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インタープリターズ・バイブル第219回

カブリ数物連携宇宙研究機構/情報学環教授
科学技術コミュニケーション部門
横山広美

サステイナブルAI、グリーンAI

AIを使うと、遠く離れたデータセンターで多くの電力が消費される。様々な試算があるが、Google検索の20から30倍の電力に相当するという報告もある。テキスト生成よりもイラスト生成により多くの電力が消費されるのは想像の通りだ。これがAI時代の新たな環境問題として注目を浴びている。これまで別々に研究をされてきたAI倫理と環境倫理がマージする、興味深い議論である。筆者たちの調査で、この件に関する認知度は韓国で51%なのに対し、日本では22%しかないことがわかった。

AIはすでに私たちの日常の一部、研究活動の一部になっている。もともと画像認識を使っていた方々も多いと思うが、生成AIが出てきてコードのバグ取りがしやすくなったという声も聞く。英文チェックはもちろん、調べものに使う教職員も多いと思う。教育にどの程度使ってよいかは議論が分かれるところだが、学生も日常的に使っている。つまり我々はAI利用の当事者として、この問題に一定の責任がある。

すでに今年、政府は第7次エネルギー基本計画にて、AIを含めた理由によって原発及び再生エネルギーを最大限に利用することを宣言した。東日本大震災および福島原発事故以降、社会は原発を使うことを否定したが、ウクライナ戦争以降の急激な電気代値上がりを受け、原発利用もやむなしと考える人が増えてきた。AI利用は思いもよらず、電力供給の源として原子力発電利用の問題にも発展する。

電力を消費するAIをサステイナブルにしていこうというドイツの倫理学者の呼びかけで、サステイナブルAI研究が始まっている。さらに具体化したグリーンAIというコンセプトも提示されている。グリーン by AIと、グリーン in AIがあり、前者はAIによってスマート農業などグリーン化を進める一方、後者はAI自体をグリーン化していく活動で、最近は富士通が電力消費を抑えたチップの開発に成功した。

スマホやノートPCで使う電力は小さいことから、AI利用によって大量のエネルギーや水を使っている実感は薄い。実感を伴った科学コミュニケーションが必要になっていくであろう。

(参考)
Cho, Y., Wang, S., Kinoshita, S. Yokoyama, H. Linking publicawareness to RRI pathways for sustainable AI: a survey fromJapan and South Korea. AI and Ethics (2025).
https://doi.org/10.1007/s43681-025-00822-5

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第73回

ディベロップメントオフィス
アソシエイトディレクター
宮田祥英

大学周辺で広がる150周年応援の輪

「東大って2027年で150周年なんだ!」、「赤門って閉まっているのですね」。私は驚愕した。なぜならこれらの言葉が長年本郷通りで事業を営むお店や企業の方々が発した言葉であったからだ。

私は今年の4月よりディベロップメントオフィスに所属し、個人や企業の方々に寄付を通じた大学へのご支援を訴求する仕事を行っている。寄付を通じて多くの方々に応援してもらえる大学になることが、今後の持続可能性における重要な課題であることはもはや言及するまでもないだろう。

最もご支援をいただける可能性のある方々は誰になるかと考えたときに、真っ先に思い浮かんだのは大学近隣の方々であった。彼らは何らかの形で大学と関わりを持っているはずであり、大学の最大の理解者だと予想した。そして近隣で事業を営む50以上の個人や企業を訪問した。

結果は先に述べた通り、150周年や赤門の現状について認知していないという層が多数存在した。大学の成長を身近な方々が応援してくれていないというのは、大変悲しい現実であった。しかし同時に、150周年は新しいつながりを築くチャンスでもある。この素晴らしい機会に改めて関係構築を行い、応援の輪を広げていくことが重要だ。

町内会の掲示板でたくさんのポスターが貼られている様子
「本郷同四会」の掲示板

現在、ディベロップメントオフィスではコミュニケーション戦略課など他部門と連携し、文京区役所や商店街連合会、町内会などと地域連携を強化しており、大学の現状やご支援の必要性に理解、共感いただくことでご寄付や認知拡大のための広報活動にご協力をいただいている。町内会の掲示板で赤門のポスターが掲示されているのを見た職員の方々もいることであろう。

着々と応援の輪は広がってはいるがまだ足りない。この150年に一度の機会に1人でも多くの方々に認知、共感をいただき支援者を増やしたいと心より願っている。そのためには全部局一丸となって取り組む必要性がある。皆様には大学のことを大学外に話をする機会に、どうか大学の現状を伝えてほしい。