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書籍名

ポスト社会主義以後のスラヴ・ユーラシア世界 比較民族誌的研究

著者名

佐々木 史郎 (編)、 渡邊 日日 (編)

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年3月31日

ISBN コード

978-4-894-89226-2

出版社

風響社

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本書は、佐々木史郎氏とともに編んだ、スラヴ・ユーラシア地域における社会主義体制解体の「後の後」を文化人類学的・民族誌的観点から捉えようとする論集である。国立民族学博物館から共同研究の助成 (2008年10月~2012年3月) を受けたもので、筆者 (渡邊) がこれまで携わった、旧ソ連・旧東欧のポスト社会主義の共同研究の第3部に当たる (「ポスト社会主義圏における民族・地域社会の構造変動に関する人類学的研究 - 民族誌記述と社会モデル構築のための方法論的・比較論的考察」2003年、「ポスト社会主義人類学の射程」2008年に続く)、いわば完結編である。
 
本書が立脚しようとするのは「後の後」、「ポスト・ポスト社会主義」という視座である。すなわち、1989~1991年に社会主義体制が瓦解し、1990年代、ベルリンの壁からカムチャッカ半島まで広大な領域で進行したのは、社会主義体制から社会のあらゆる次元で (政治、法、文化など) 脱却、移行することであり、一言で有り体に言ってしまえば混乱であった。社会主義時代が参照枠となり、それとの比較でもって現在が規定される - そのような意味において1990年代は「ポスト社会主義」であった。だが、2000年代にもなると、例えばロシアであればBRICsの一国になった背景も手伝い、もはや社会主義時代・体制は参照枠でなくなり、1990年代と比較してどこまで変化したかが、現在の時代認識を特徴付けることとなった。「ポスト・ポスト社会主義」あるいは「ポスト社会主義以後」とも評しうる時代性の誕生である。
 
それに伴い、分析枠組の刷新が必要であると認識された。ポスト社会主義の人類学を縁取ってきた様々な視点や概念 (所有、エスノ = ナショナリティ、市民社会、宗教復興など) は再吟味を余儀なくされた訳だが、本書は、ロシア連邦、スロヴァキア、カザフスタン、ウズベキスタンモンゴル、中国といった領域で比較研究を行いながらそうした理論的課題にも取り組んだ作品である。
 
期せずして本書で、「ポスト社会主義の人類学」の研究は三部作を構成し、ひとまず終了となった。本書は、文化人類学、比較民族誌のみならず、旧ソ連、旧東欧、さらにはモンゴルや中国の地域研究にも資するであろう。本書の成果が、社会理論にどういうフィードバックを残すのかについてはまだ不十分なところが否めず、今後さらなる検討が必要とされるところであるし、この地域を対象とした人類学的・民族誌的営為のさらなる発展も望まれるところである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 渡邊 日日 / 2017)

本の目次

序論 ポスト社会主義以後という状況と人類学的視座 (渡邊日日・佐々木史郎)
 
社会主義へのノスタルジーの背後 -- スロヴァキア村落部における「革命」の記憶とデモクラシーを実践する試み (神原ゆうこ)
 
教育の現代化と地域主義 -- 民俗音楽におけるモスクワの2つの事例から (柚木かおり)
 
ロシア正教古儀式派教会の展開に見る「伝統」の利用 - ロシア連邦ブリヤート共和国におけるセメイスキーの事例より (伊賀上菜穂)
 
イスラームと民族的伝統の布置 -- 社会主義を経たカザフスタンの事例から (藤本透子) 127頁
 
社会主義とイスラームの狭間で -- ポスト社会主義後ウズベキスタンにおける豚の流通をめぐる調査報告 (今堀恵美)
 
モンゴル国遠隔地草原におけるポスト・ポスト社会主義的牧畜 (尾崎孝宏)
 
年金と自然に生きる村ウリカ・ナツィオナーリノエ -- ポスト社会主義以後の時代の極東ロシアの先住民族社会 (佐々木史郎)
 
中国村落社会における墓と祖先祭祀の変遷 -- ポスト改革開放期における共産党の政策と人々のいとなみを中心に (川口幸大)
 
あとがき (佐々木史郎)
 
索引
 

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