
書籍名
岩波新書 桜が創った「日本」 ソメイヨシノ 起源への旅
判型など
236ページ、新書、並製
言語
日本語
発行年月日
2005年2月18日
ISBN コード
978-4-00-430936-9
出版社
岩波書店
出版社URL
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桜は日本を象徴する花である。毎年春になると、東京のような大都市から地方の町や村、そして人里離れた山野までもが、美しい花で飾られる。その景観は世界的にも有名だが、もう一方で、桜には多くの誤解や勝手な思い込み、不確かな伝承の拡散が常につきまとってきた。
本書では、日本の桜のなかでも代表的な品種である染井吉野を中心に、植物学や生態学の研究もふまえつつ、桜をめぐる日本の社会の営みがどんな歴史をたどってきたのか、そして現在どのように変わりつつあるのかを、独自の調査と研究にもとづいて解き明かした。文芸や文化史だけではなく、園芸や景観、さらに国家的な儀礼やメディア・イベントなどまでふくめた幅広い視野で、なおかつ、できるだけ一次史料にさかのぼって、現実の姿を具体的に描き出した。その点が本書の大きな特徴の一つである。
例えば、従来の日本文化論では染井吉野は、日本近代の軍国主義や、近代化にともなう単一化 (モノカルチャー化) の事例として語られてきた。その影響で、染井吉野の文化的・社会的な意義を低く評価する人も少なくない。園芸品種であることをことさらに強調し、自然種である山桜 (ヤマザクラ) と対照化した上で、「山桜こそが日本の本当の桜」「染井吉野は本来の桜でない」とする語りもしばしば見られる。
しかし、実際には、日本列島の桜の大部分を染井吉野が占めるようになるのは、第二次大戦の後からである。染井吉野の普及と軍国主義との間には、強い関連性はない。また、山桜が「日本を代表する桜」という言説が日本語圏で一般化するのは、二〇世紀以降である。山桜は植生上、西日本などの温暖な地域で生育する。染井吉野が (沖縄諸島を除く) 日本列島のほぼ全域に植えられて、花を咲かせるようになるまで、そもそも「日本を代表する桜」は存在しなかった。したがって、山桜を「日本を代表する桜」とする語りは、それ自体が染井吉野の影響を強く受けたものであり、いわば染井吉野が普及して以降の通念 (信憑) だと考えられる。
本書は2005年に初版が刊行されて以来、2016年10月1日で8刷を重ねている。桜をめぐる日本社会の営みを学術的に研究した著作として、さらに、その成果を一般的な読者に読みやすい形で提供した作品として、長く広く読まれてきた。この点が本書のもう一つの大きな特徴である。文芸史や文化史、社会学などの専門的な研究でしばしばとりあげられるだけでなく、植物学の本格的な事典でも重要な参考文献としてあげられており、幅広い分野で読者をえている。新聞などのマスメディアの記事や、桜愛好者のSNSでも数多く紹介されてきた。
そうした点で、社会科学から人文学へ、さらに自然科学へも横断する学際的な研究として、そして一般社会への学術成果の新たなアウトリーチに成功した出版物としても、高く評価されている。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 佐藤 俊樹 / 2017)
本の目次
I. ソメイヨシノ革命
1. 「桜の春」今昔
2. 想像の桜 / 現実のサクラ
II. 起源への旅
1. 九段と染井
2. ソメイヨシノの森へ
3. 桜の帝国
4. 逆転する時間
III. 創られる桜・創られる日本
1. 拡散する記号
2. 自然と人工の環
あとがき
桜のがいどぶっく・がいど
ソメイヨシノの起源をめぐる新たな展開 - 本書五刷に際して (二〇〇九年一二月)