東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に12人の専門家の顔のイラスト

書籍名

阪大リーブル57 世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ

著者名

大槻 文蔵 (監修)、天野 文雄 (編集)

判型など

318ページ、並製

言語

日本語

発行年月日

2016年7月

ISBN コード

978-4-87259-439-3

出版社

大阪大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ

英語版ページ指定

英語ページを見る

美少年アイドルが、天才少年詩人を兼ねるくらいなら、世間でもそう珍しくないだろう。しかし、その人間が、のちにマルチな演劇人として、つまり第一級の役者として、座長として、演出家として、さらに劇作家として、はたまた演劇評論家として大成したとしたら、それは世界でも稀な現象にちがいない。
 
そういうことが、日本中世に、世阿弥 (1363~1443) という肉体を通して実現されていたのだ、ということを日本人はもっと誇っていいだろう。
 
この世阿弥という稀有な多面体に、現在の十二人の知を結集させ挑もうとしているのが、『世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ』という本である。
 
大阪の大槻文藏氏が主宰する大槻能楽堂自主公演での、世阿弥能の公演と並んで行われた講演や対談や座談会が編集されて、この本は成った。
 
情報化社会の真っ只中の現代において、能の存在理由を問う鈴木忠志氏 (「『能』に期待する」)や、フランスの演劇・思想を一つの鏡として能や世阿弥に迫る渡邊守章氏 (「世阿弥、その理論」) らが先鋭な発言をし、梅原猛氏 (「世阿弥と私」)、馬場あき子氏 (「『実盛』——世阿弥が確立した『軍体』の能」)、山折哲雄氏 (「世阿弥の亡霊 (シテ) 演出法」) らがそれぞれの立場から世阿弥を語り、日本中世の説話が専門の田中貴子氏をコーディネーターとして、宮本圭造氏 (能『頼政』)、松岡心平 (能『恋重荷』)、渡邊守章氏 (能『班女』)、大谷節子氏 (能『融』)、天野文雄氏 (能『井筒』) らが、それぞれの世阿弥能について詳しく解説する、といった内容である。
 
ちなみに、私、松岡は、「悪尉 (あくじょう)」という鬼面をつける『恋重荷』のシテに触れながら、「鬼と世阿弥」というテーマを設定し、古代・中世から近代が生み出されてくる一つの練習問題として「鬼」の処理があり、世阿弥が一生かけて「鬼」と格闘し、どのようにしてこれを近代の方に向けてさばいていったか、について語った。
 
最先端の成果に拠る能楽研究者の解説の中には少し高度な内容も含まれるが、全体に、「語った」内容の活字化なのでわかりやすく、これからますます世界に共有される演劇人になっていくであろう世阿弥についての、格好の手引き書であることはまちがいないだろう。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 松岡 心平 / 2017)

本の目次

刊行にあたって (大槻文藏)
「能」に期待する (鈴木忠志)
世阿弥にどう向き合うか (鈴木忠志・観世銕之丞・天野文雄・大槻文藏)
 
第一部 世阿弥の人と芸術
世阿弥、その生涯 (宮本圭造)
『頼政』をめぐって (宮本圭造・田中貴子)
世阿弥、その作品と芸風 (松岡心平)
『恋重荷』をめぐって (松岡心平・田中貴子)
世阿弥、その理論 (渡邊守章)
『班女』をめぐって (渡邊守章・田中貴子)
世阿弥、その先達と後継者 (大谷節子)
『融』をめぐって (大谷節子・田中貴子)
世阿弥、その環境 (天野文雄)
『井筒』をめぐって (天野文雄・田中貴子)
 
第二部 世阿弥の能、その魅力
世阿弥と私 (梅原 猛)
『実盛』――世阿弥が確立した「軍体」の能 (馬場あき子)
『松風』――世阿弥が仕上げた「幽玄無上」の能 (天野文雄)
世阿弥の亡霊 (シテ) 演出法 (山折哲雄)
「記念能」を語る (大槻文藏・天野文雄)
 
能作史年表
本書のもとになった大槻能楽堂自主公演企画一覧
編集をおえて (天野文雄)
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています