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グリーン系の表紙

書籍名

Taking Stock of Industrial Ecology

著者名

Roland Clift, Angela Druckman (編)

判型など

362ページ

言語

英語

発行年月日

2016年

ISBN コード

978-3-319-20570-0

出版社

Springer International Publishing

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Taking Stock of Industrial Ecology

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本書の表題のTaking Stockという語には、辞書では、在庫調べ、棚卸しなどの訳語があてられていることが多いが、ここでは、研究分野のこれまでの歩みを振り返る、という意味である。Industrial Ecologyは産業エコロジーと訳するのが一般的であるが、片仮名を使わないとすれば「産業生態学」と呼ぶべきだろうか。生態学が、生物同士や生物と環境との関わりをとらえることにならって、産業相互間や産業と環境との関係をとらえるのが産業エコロジーの考え方である。とくに、産業活動を構成する生産プロセス間の物質やエネルギーのやりとりに着目し、食物連鎖などの生物間のつながりや生物の物質代謝との類似性から学ぶことで、産業活動をより持続可能なものに転換していくことを目指すことが、この研究分野の出発点である。その性質上、工学や自然科学系の環境学を中心としつつも、経済学、経営学、政策学などの社会科学系の学術・研究とも関わりの深い学際的な研究分野である。
 
産業エコロジーは新しい研究分野であり、この呼称のもとでの研究分野の発展は、1990年代の米国が中心となった。その後、欧州でもこの語を用いた専門教育が行われるようになり、国際的な論文誌の刊行、国際学会の設立とあいまって、世界的に広がった。本書の前書き部分に書かれたそうした歴史も含め、産業エコロジーとは何か、具体的にどのような研究が行われてきたのかを概観できるのが本書である。本書は、2001年に設立された産業エコロジー国際学会の隔年の世界大会が、2015年に英国のサリー大学で開催されるのを機に、大会実行委員長を務めた同大学のローランド・クリフト教授らが編集したものである。産業エコロジーという研究分野を構成する主要な研究手法、研究課題の歩みを記した第1部と、実務への利用も含めた事例を紹介した第2部の計19章から構成されている。本書は電子書籍として、全編無料で閲覧可能な、オープンアクセスe-bookとしても提供されている。
 
紹介者は、立命館大学の橋本征二教授との共著によって、第12章「物質フロー分析と廃棄物管理」を分担執筆した。物質フロー分析 (Material Flow Analysis) は産業エコロジー分野の代表的な手法の一つで、資源、製品、廃棄物、これらに含まれる特定の元素など、あらゆる物質のフローを定量化する手法の総称である。廃棄物を再び資源として利用する、いわゆるリサイクルが重要な課題となる中で、物質フローを体系的に把握することで、廃棄物のリサイクルや適正な処理のための基礎情報を提供することができる。
 
近年、日本では循環型社会、欧州や中国では循環経済という語が、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済社会から、より持続可能な経済社会への転換先を示唆するキーワードとして使われている。物質フロー分析をはじめとする産業エコロジーの手法開発や事例研究は、そうした経済社会の実現のための具体的な道筋に貢献するものである。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 森口 祐一 / 2019)

本の目次

Introduction (Roland Clift and Angela Druckman)
 
Part I State-of-the-Art and Discussions of Research Issues
1 Industrial Ecology’s First Decade (T. E. Graedel and R. J. Lifset)
2 Prospective Models of Society’s Future Metabolism: What Industrial Ecology Has to Contribute (Stefan Pauliuk and Edgar G. Hertwich)
3 Life Cycle Sustainability Assessment: What Is It and What Are Its Challenges? (Jeroen Guinée)
4 Industrial Ecology and Cities (Christopher A. Kennedy)
5 Scholarship and Practice in Industrial Symbiosis: 1989–2014 (Marian Chertow and Jooyoung Park)
6 A Socio-economic Metabolism Approach to Sustainable Development and Climate Change Mitigation (Timothy M. Baynes and Daniel B. Müller)
7 Stocks and Flows in the Performance Economy (Walter R. Stahel and Roland Clift)
8 Impacts Embodied in Global Trade Flows (Thomas Wiedmann)
9 Understanding Households as Drivers of Carbon Emissions (Angela Druckman and Tim Jackson)
10 The Social and Solidarity Economy: Why Is It Relevant to Industrial Ecology? (Marlyne Sahakian)
11 Industrial Ecology in Developing Countries (Megha Shenoy)
12 Material Flow Analysis and Waste Management (Yuichi Moriguchi and Seiji Hashimoto)
 
Part II Case Studies and Examples of the Application of Industrial Ecology Approaches
13 Circular Economy and the Policy Landscape in the UK (Julie Hill)
14 Industrial Ecology and Portugal’s National Waste Plans (Paulo Ferrão, António Lorena, and Paulo Ribeiro)
15 The Role of Science in Shaping Sustainable Business: Unilever Case Study (Sarah Sim, Henry King, and Edward Price)
16 Practical Implications of Product-Based Environmental Legislation (Kieren Mayers)
17 Multinational Corporations and the Circular Economy: How Hewlett Packard Scales Innovation and Technology in Its Global Supply Chain (Kirstie McIntyre and John A. Ortiz)
18 The Industrial Ecology of the Automobile (Roland Geyer)
19 Quantifying the Potential of Industrial Symbiosis: The LOCIMAP Project, with Applications in the Humber Region (Malcolm Bailey and Andrew Gadd)
 

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