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書籍名

Economic Foundations for Social Complexity Science Theory, Sentiments, and Empirical Laws

著者名

Yuji Aruka and Alan Kirman (eds.)

判型など

277ページ

言語

英語

発行年月日

2017年

ISBN コード

978-981-10-5704-5

出版社

Springer Singapore

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Economic Foundations for Social Complexity Science

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現在、社会的な活動を行う様々な状況で、我々は大量の情報を使用する場面に日々遭遇している。例えば、オンラインで買い物をするときには、大勢の人々の膨大な購買データから分析された推薦情報を参考にして、どの賞品を買うか決めている。商品の価格も、今までの売り上げデータや原材料に関する情報、将来の天候に関する情報から需要を予測し決定されている。情報を通じて、この世界にある全ての社会経済現象はお互いに関連している。
 
本書は、このような現状を考慮して、社会経済現象の分析の新たなアプローチを提唱している。社会経済現象を、お互いに異なる行動原理や意思決定基準を持つ個人や組織、またはシステムが複数集まり、お互いに影響を及ぼし合うことから発生する現象と見なす。また、個人や組織、システムの行動ルールは、時間とともに情報を集め経験を積むことによって、より環境に適合したものへと変化していく。それにより、社会経済現象の振る舞いも、絶えず変わっていく。このような社会経済現象を、大量の実社会のデータから分析するための技術や、複雑適応系の視点から見た社会経済システムの理論モデル構築に関する研究が、本書の各章で紹介されている。
 
第1章では、複雑系の経済学を最初に提唱し、本分野の第一人者である数理経済学者のAlan Kirman氏による、分野概要の解説と基本的な概念に関する説明がなされている。平易に書かれているので、本分野に始めて触れる読者はぜひ読んで欲しい。
 
次の章からは3部に分かれている。第1部では、複雑適応系のアプローチに基づいた経済現象の理論モデルに関する研究が紹介されている。各章で扱う経済現象は様々であるが、各章の理論モデルに共通しているのは、多数の異質的な行動要素の結びつきによって、経済現象の理論モデルを構築している点である。この観点から、複数の計算機プログラムの集合としてモデル化するエージェント・ベースド・モデルを用いている研究もある。また、物理学での理論を基に経済現象のモデルを構築する経済物理学の研究に関する章もある。
 
第2部では、経済現象に関わる大規模データを分析し、経済現象の解明を行う研究が紹介されている。経済ニュース記事を機械学習の手法を用いて自動的に解析する研究や、千分の一や百万分の一秒以下の高頻度な株式注文データから株式市場の銘柄間の関連性を解析する研究などが含まれる。経済現象の要素間の関係を、大量のデータから解明することを目指しており、大規模データが手に入りやすくなったこの時代だからこそ、発展している研究だと言える。
 
第3部では、金融システムに焦点をあてた実データ分析に関する研究を紹介している。株式市場のデータや企業の財務データを扱った実証研究が含まれる。
 
このように、本書は複雑系の経済学について、理論的基礎から実証研究、そして最新の大規模データ活用まで広く最新の研究を紹介している。本分野に興味を持った人々がぜひ自分の気に入った研究を見つけて、さらに自分で発展させることに挑戦するきっかけとなれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 和泉 潔 / 2018)

本の目次

1 Introduction (Alan Kirman)
Part I. Theoretical foundations.
2: Systemic risks in evolution of the social complex system (Yuji Aruka)
3: Science of Society (Arnab Chatterjee, Asim Ghosh, Bikas K Chakrabarti)
4: The Evolution of Institutional Behavioral Complexity (J. Barkley Rosser, Jr., Marina V. Rosser)
5: Agent-Based Models and their Development Through the Lens of Networks (Shu-Heng Chen, Ragupathy Venkatachalam)
6: Calculus based Econophysics: Applications to the Japanese Economy (Jürgen Mimkes)
7: A stylized model for wealth distribution (Bertram Duering, Nicos Georgiou, Enrico Scalas)
 
Part II. Complex Network and Sentiments
8: Document Analysis of Survey on Employment Trends in Japan (Masao Kubo, Hiroshi Sato, Akihiro Yamaguchi, Yuji Aruka)
9: Extraction of bigraph structures among multilingual financial words using text-mining methods (Enda Liu, Tomoki Ito, Kiyoshi Izumi, Kota Tsubouchi, Tatsuo Yamashita)
10: Transfer entropy analysis of information flow in a stock market (Kiyoshi Izumi, Hiroshi Suzuki, Fujio Toriumi)
 
Part III. Empirical laws in Financial Market
11: Sectoral co-movements and volatilities of Indian stock market: an analysis of daily returns data (Kiran Sharma, Pawan Kanaujia, Anindya S. Chakrabarti, Anirban Chakraborti)
12: The Divergence Rate of Share Price from Company Fundamentals: An Empirical Study at Regional Level (Michiko Miyano, Taisei Kaizoji)
13: Analyzing Relationships Among Financial Items of Banks’ Balance Sheets (Kunika Fukuda, Aki-Hiro Sato)
 

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