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大きな木の写真の表紙

書籍名

Philosophy and Religion Critique as Critical History

著者名

Bregham Dalgliesh

判型など

252ページ、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2017年

ISBN コード

978-3-319-61008-5

出版社

Palgrave Macmillan

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Critique as Critical History

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Critique as Critical History (批判的歴史学としての批判) は、フーコーによる批判を、カントが要請する理性の哲学的考古学の伝統のうちに位置付ける。これと並行して、フーコーの思想がハイデッガーよりもニーチェに、さらに権力の存在論に対して理性の枠組みに重きを置いていることを示す。本書で筆者は、フーコーの作品 (œuvre) の中心には批判的歴史学の哲学的方法論があると主張する。批判的歴史学の課題は、思考を駆動させる知への意志それ自体を、問題として、なかんずく我々の統治性を規定する真理の体制として、意識化することである。知、権力、倫理という統治性の構成要素の偶然性を明らかにすることで、筆者は、批判的歴史学が啓蒙思想の知的遺産の単一的な読解に対するオルタナティブな批判様式を提供するものであること、また我々の必然的な限界について闘技的な (agonistic) 自由の概念を育てるものであることを指摘する。
 
本書の前半では、政治哲学の知的枠組みの中にフーコーを位置づける。バルトの「バロック」の概念を導入することで、フーコーの作品が批判的歴史学の探求の場を確立し、その形式を規定していること、一方でその内容は、知、権力、倫理の分断、あるいは真理の体制としてのこの三者の交錯によって特徴づけられることを論じる。その後、フランスでの批判の歴史を素描し、フーコーの批評家の誤解を説明し、さらになぜ批判的歴史学が批判のオルタナティブな様式を提供するのかを述べる。次に、主体に基礎づけられた認識論的な批判についての読解を提示する。啓蒙思想を成熟への義務とし、そこからさらに経験の形而上学と、自律性を道徳と関連付ける自由の概念を発展させたカントの議論について論じる。カントのこの考えこそ、ヘーゲルをして、精神の客観的経験の現象学を通じて乖離を緩和し、同時に倫理的な生における主体の認識の穏健化を図ろうと駆り立てたものである。最後に筆者は、ロールズやテイラーといった、現代哲学における主体に関する思想家が、いかにしてカントと同様に権利の主体を政治的な批判の基盤として考えているのかを論じる。政治的自由主義という形であれ、認識の政治学という形であれ、英米の政治理論は主体の自律性と認識という概念を支持し、自由を権力のアンチテーゼとする見方を採っている。
 
本書の後半では、フーコーに関する独自の解釈を提示する。まず、カントとヘーゲルのフランス哲学への導入、ドレフュス事件がもつ批判の実践に対する意味合い、そしてコジェーヴやイポリットによる実存主義的・マルクス主義的なヘーゲル解釈を描出することで、フーコーの知の考古学を分析する。認識論の基盤の座からカント的・ヘーゲル的な主体を追い出した、フーコーの唯名論的な考古学の骨子をたどりながら、筆者は、1968年5月以降のフーコーが権力の系譜学の内に知の考古学を位置づけていると主張する。この意味では、狂気に関するフーコーの研究は、異質な人々の監禁という形での、認識と自律性による代償を批判する、原-系譜学である。その後、フーコーは身体を構成する検査の技法や規律訓練のメカニズムを暴く毛細血管様の (capillary) 権力、あるいは身体権力に対する系譜学的な批判を洗練させていく。同様に筆者は、生を育む告解の技術と規制のメカニズム、生権力をフーコーがどのように掘り起こしているのかも示す。その後、フーコーの統治性としての権力の解釈についても説明する。統治性は身体権力の行使を生権力に結び付けるものであり、服従化 (subjection) を生み出す。こうしてフーコーは批判的歴史学の概念へ至り、コード指向の道徳から倫理指向の道徳を峻別することになる。倫理指向の道徳は、自己との闘技的な関係を要求し、その時代の真理のゲームを前にして成熟のモデルを提供する。最後に、筆者は哲学者の知的実践に言及して本書を締めくくる。筆者は、カント的なエートスとニーチェ的な生成によって特徴づけられる、批判的歴史家としてのフーコーの役割を明らかにする。フーコーにとって自由とは、私たちが直面する限界に関する闘技的な実践である。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 ブレガム・ダルグリーシュ / 2018)

本の目次

1. Introduction
2. Critique and the subject of knowledge
3. Critique and the subject of right
4. Archaeology and knowledge    
5. Genealogy and power
6. Critical history and ethics
7. Critique as critical history
 

関連情報

A) 「本書は、フーコーは反啓蒙の思想家であるという見方に対する決定的な反論である。ニーチェからロールズまでを射程とする優れた学術的分析を通じて、ダルグリーシュは哲学上の批判者からフーコーを擁護し、 <批判的歴史学> がどれほど強力で、時代に即した批判様式であるかを実証している」キンバリー・ハッチングス博士、英国、ロンドン大学クイーン・メアリー校
 
B) 「ダルグリーシュによるフーコーの作品の優れた調査は、フーコーを『啓蒙の批判的思想のオルタナティブな様式の模範例』として示す。ダルグリーシュは現代へのフーコーの批判的歴史学のアプローチを明快に説明し、説得力のある擁護をしている。フーコーのカント主義とニーチェ主義の新規性と相補性を、この3人の偉大な思想家全員についての再考を促す形で示している」ポール・パットン博士、オーストラリア、シドニー、ニューサウスウェールズ大学。
 

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