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書籍名

抵当権者の追及権について 抵当権実行制度の再定位のために

著者名

阿部 裕介

判型など

566ページ、A5判、上製カバー付き

言語

日本語

発行年月日

2018年8月

ISBN コード

978-4-641-13788-2

出版社

有斐閣

出版社URL

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抵当権者の追及権について

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債権者は、不動産を所有する債務者または第三者からその不動産に抵当権の設定を受け、これを登記すると、その不動産(抵当不動産)が強制執行等によって換価された際に、換価代金を登記の順位に従って配当されることで債権の優先弁済を受けることができる。そして、抵当権設定者が設定後に抵当不動産の所有権を誰か(第三取得者)に移転したとしても、債権者(抵当権者)はなお抵当不動産の換価代金から優先弁済を受けることができ、これを、抵当権者の追及権と呼ぶことがある。
 
それでは、抵当権者に追及権が認められているのは、なぜだろうか。
 
この問いは、現在の日本の民法学では、ほとんど失われており、それゆえに、抵当権者の「追及権」という概念自体が消滅の危機に瀕している。というのも、抵当権は物権であり、不動産に関する物権の設定を登記するとその物権は万人に主張(対抗)することができるようになるのであって、抵当権者の追及権もその一つの表れにすぎない、と考えられているからである。より具体的には、抵当権者自身による抵当不動産の換価(担保不動産競売)が「抵当権の実行」として抵当権の効力の中心に位置付けられ、抵当権者の追及権は、この効力を第三取得者に対抗して抵当不動産の換価を第三取得者に甘受させるものと考えられているのである。このように「抵当権の実行」が抵当権の効力の中心に据えられている背景には、日本民法学による、所有権を中心とした物権の体系化が存在する。すなわち、所有権が物権の完全形態であり、所有者が目的物を支配するように、その他の物権の権利者も目的物を何らかの(より不完全な)形で支配するのであって、抵当権においては、「抵当権の実行」が抵当権者の抵当不動産に対する支配の表れである、と考えられているのである。
 
しかし、物権の体系に基づく説明は比喩に過ぎず、抵当権者の追及権の姿を正しく捉えるものではない。実際には、日本民法において、抵当権の設定者に対する効力と第三取得者に対する効力(追及権)とは全く同じではない。設定者も第三取得者も、抵当不動産の所有者である点では同じであり、従って同じように抵当権を対抗され抵当権実行を甘受させられそうであるが、第三取得者にだけは抵当権消滅請求制度が用意されており、そのほかにも、代価弁済など第三取得者の特殊性を示すものと解しうる制度が日本民法には存在する。さらに、抵当権者自身が抵当権を実行しなくても、他の抵当権者の申立てによる担保不動産競売や担保権を持たない一般債権者の申立てによる強制執行において、抵当権者は登記の順位に従った配当を受ける一方で抵当権を消滅させられ(消除主義)、買受人は抵当権の負担のない不動産を取得する。こうした諸制度を理解するためには、そもそも抵当権者がなぜ追及権を認められているのかを問い直す必要がある。
 
本書は、抵当権者の追及権を特徴付ける諸制度の沿革に遡り、とりわけ追及権をめぐるフランス法の学説史を検討することで、抵当権者の追及権の存在理由を、優先弁済権との関係において明らかにする。本書はこれにより、抵当権実行を抵当権の効力の中心に据えることや、その背後にある物権の体系について再考を促すものである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 准教授 阿部 裕介 / 2019)

本の目次

序 章
第1章 16世紀Paris慣習法典におけるラントの「割当て」法理と抵当権の誕生──フランス古法(その1)
第2章 17・18世紀フランスにおける抵当権と追及権──フランス古法(その2)
第3章 フランス中間法及び法典編纂期における抵当権と追及権
第4章 19世紀フランスにおける抵当権と追及権
第5章 日本法における抵当権と追及権
結  章
 

関連情報

受賞:
第11回 (2015年度) 商事法務研究会賞受賞 (本書のもととなった法学協会雑誌での論説の連載に対して)
https://www.shojihomu.or.jp/p013
 

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