東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

水色の表紙にオレンジ、黄色、黄緑の丸のイラスト

書籍名

開発途上期日本の農村金融発展 戦前の農村信用組合を中心として

著者名

万木 孝雄

判型など

188ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2019年3月

ISBN コード

978-4-89732-404-3

出版社

農林統計出版

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開発途上期日本の農村金融発展

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本書は、第二次大戦前における日本の農村金融について、現在の途上国と比較するために農村部で金融の事業を営む産業組合を主要な対象として (本書はそれを農村信用組合と定義し、その多くは戦後に総合農協へと改組されて現在に至っている)、筆者がこれまで分析してきた成果をまとめたものである。学術雑誌を中心に発表された7つの論稿に加筆・修正が行われ、それに1章と終章を新たに加えて再構成がなされている。分析の方法は、産業組合に関する様々な経営情報を取りまとめてきた政府統計書を用いて、信用事業としての成果、経営の収益性、資金の貸付が農業を中心とする産業にどのように貢献したのか、といった課題について経済学的に検証する、というものである。
 
本書の学術的な意義は、日本の農村金融による経験を途上国にどのように活かせるのかという観点から、分析を行っている点にある。従来の研究では、農村金融における政策的な役割を捉えたものが中心であったが、本書は数量経済史的な分析を通して農村部においても金融市場の形成が重要であり、農村信用組合もそこでの自立した金融機関としての特徴を持っていたことを明らかにした。そして、金融市場における持続的な金融機関の成立が農村金融の発展を可能にしたことが、結論として示されている。ただしその一方では、政府による間接的な指導・監督や統計数値の整備・公表など市場に親和的な政策が採用されていたこと、そして農村社会における住民間での結束や経済情報共有などの文化的あるいは歴史的な背景が有利に働いたことも、共に重要な要因であったして説明されている。
 
本書での分析を通して、日本の場合には西側先進国で見られるような効率的で公正な政府による金融支援政策が戦前期から確認され、また日本の農村社会では全家計の参加による協調行動や情報共有などが容易であったという、市場経済を促進する上では有利な条件に恵まれていたことが確認された。本書の社会的な意義として、もし途上国において日本や西側先進国で見られたような条件を整えることが難しい場合には、バングラデシュのグラミン銀行による (地域住民の全員参加には必ずしも拘らず、また政府や政策からの手厚い支援も必要としない) マイクロファイナンスでの手法で見られたように、各地域における文化や価値規範に則した発展の方策を見出すべきではないか、という提言を示したことが挙げられる。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 准教授 万木 孝雄 / 2019)

本の目次

1章  戦前期日本の農村金融発展に関する課題の設定
2章  農村信用組合の事業と経済的自立性
3章  農村貯蓄動員の進展
4章  農村信用組合の形成過程
5章  農村信用組合の収支構造
6章  農業生産要素投入量の推移に関する再検証
7章  農村信用組合による貸付と農業生産
8章  農村信用組合の育成政策
終章
 

関連情報

ブックガイド:
青柳 斉 評 (『農業と経済』vol.85 No.12 2019年12月号)
http://www.showado-kyoto.jp/book/b487544.html
 

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