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ライトグレーの表紙に動物たちのイラスト

書籍名

Nature and the Environment in the Middle Ages Restoring Creation: The Natural World in the Anglo-Saxon Saints’ Lives of Cuthbert and Guthlac

判型など

323ページ、23.4x15.6cm、ハードカバー

言語

英語

発行年月日

2019年6月

ISBN コード

9781843845300

出版社

D.S. Brewer

出版社URL

書籍紹介ページ

その他

古英語、アングロ=ラテン語を含む

本書は、自然界 (天地創造) と人間との関係を、初期イングランドの聖カスバートと聖グスラックについてアングロ=ラテン語及び古英語で書かれた伝記を通して探究するものである。自然界と人間との関係は、堕罪以後の世界における天地創造の現状に関して広く浸透している神学的解釈を通してこそ最も理解が深まるというのが論旨である。この解釈は、『創世記』についての聖アウグスティヌスの解釈に基づいているが、尊者ベーダが韻文形式の『聖カスバート伝』で書いたアウグスティヌスからの翻案部分を通して、聖人たちに関する伝記の伝統的テクストとして組み込まれていったものである。アウグスティヌスもベーダも、わずかな違いはあるものの、以下の三点を主張している。堕罪以後の天地創造は、しばしば聖人たちを含めた人間を、より高次元の聖性へと促すように機能すること。堕罪は、人類と天地創造との関係の断絶を生み出したこと(実際のものか存在論的かを問わず)。堕罪の影響は、神聖さによって、天地創造の一部を堕罪以前の状態に戻すことで一時的に取り除くことができること。この解釈上の立場の共有により、一晩じゅう海で祈りを捧げたカスバートの足を乾かしたラッコから、羊飼いに羊が集まるようにグスラックの周りに集まる鳥や魚にいたるまで、聖人たちが自然界において奇跡を起こす環境が生み出される。
 
第一章では、匿名で書かれた『聖カスバート伝』が、修道院の規律化をエデンの園での調和の回復に結び付けながら、天地創造を復元するカスバートの能力を修道士の服従のテーマと結合させていることを示す。匿名の『聖カスバート伝』はまた、テクストと空間との境界線を独特なかたちで曖昧にしているが、これは読者が確認できるようなカスバートの奇跡の効果を強調することで、ファーンとリンディスファーンの景観の中に潜在的な素人の巡礼の場所を作ろうとしているためである。第二章では、ベーダの韻文形式の『聖カスバート伝』が、ベーダの初期の試み、すなわち、カスバートの聖務日課に対する服従に焦点を当てることによりカスバートをイギリスの主要聖人に仕立てようとしていることを明らかにし、そのうえで天地創造の復元が、修道士の思索のための道具として機能していることを論じる。第三章では、後に書いた散文形式の『聖カスバート伝』において、ベーダがエウァグリウスの『聖大アントニオス伝』に影響を受けて、カスバートの神聖さの性質を静的なもの (彼は常に聖人である) から発展的なもの (彼の神聖さが高まる) へと変容させていることと、さらに天地創造がカスバートの進歩を推進するものとして、またその証拠として機能するよう適応されたことを示す。第四章では、フェリックスの『聖者グスラックの生涯』の中で、グスラックの霊的発達が、生き生きと描写される自然界と意図的に関連づけられていること、そして、ここで天地創造の復元がベーダの『聖カスバート伝』よりもさらに優れた段階まで引き上げられていることを示す。第五章では、『古英語散文形式のグスラック』の著者が、現代の境界条項 (中世の勅許状における土地単位の境界の説明) と共有される景観の語彙を利用することにより、聖人と創造された世界との間の関係がここでより大きな力を持つように、カスバートについてのベーダの二つの伝記を根拠づけていることを論じる。さらに『グスラックA』が、グスラックの隠遁地への到達と堕罪以前のエデンの園の回復との間の関連を統合しながら、独自にグスラックを置換神学と結び付けていることも論じる。
 
結果として、初期の中世文学における物質界の役割が再び中心化され、非人間界についての前近代的概念とのより微妙な関係の基礎を築くこととなる。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 特任講師 ブリトン・ブルックス / 2019)

本の目次

1. Monastic Obedience and Prelapsarian Cosmography: The Anonymous Vita Sancti Cuthberti.
2. Ruminative Poetry and the Divine Office: Bede’s Metrical Vita Sancti Cuthberti.
3. Bede’ Exegesis and Developmental Sanctity: The Prose Vita Sancti Cuthberti.
4. Enargaeic Landscapes and Spiritual Progression: Felix’s Vita Sancti Guthlaci.
5. Landscape Lexis and Creation Restored: The Old English Prose Life of Guthlac and Guthlac A.
Conclusion: Afterlives of Cuthbert and Guthlac.
 

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