東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白と水色のシンプルな表紙

書籍名

Las versiones castellanas medievales de la “Consolatio Philosophiae” de Boecio (ボエティウス『哲学の慰め』中世スペイン語版)

判型など

Volume I: 15~520ページ、Volume II: 531~937ページ、25x17.5cm、ソフトカバー

言語

スペイン語

発行年月日

2017年

ISBN コード

9788415722762

出版社

Funcas

出版社URL

書籍紹介ページ

英語版ページ指定

英語ページを見る

ボエティウスは中世後期のスペインにおいて最も影響力のある著述家の1人であった。彼の最も重要な著作『哲学の慰め』は、最も翻訳されたテキストであり、残った民衆語写本の中で最もよく発見されるものの1つであり、さらにインキュナブラ期 (グーテンベルクが活版印刷術を発明してから1500年までの間) において民衆語に最も印刷された古典古代の著作である。『哲学の慰め』を典拠としてあるいは形式や内容に主要な影響を与えた作品として引用している著者の中には、ベルナト・メチェ、フランセスク・アシメニス、エンリケ・デ・ビリェナ、アルフォンソ・デ・カルタヘナ、ファン・デ・メナ、ホルヘ・マンリケ、フェルナンド・デ・ロハス等、カタルーニャおよびカスティーリャ文学の一線級の著述家が含まれる。ボエティウスはまた、予定説、運、自由意志、高潔さなど15世紀文学で最も人気を博していたジャンルのいくつかにおいて、および慰めの文学において、絶対的な存在感を放っている。
 
中世後期のイベリア文学と思想におけるボエティウスと『哲学の慰め』の影響力は、ラテン語のテキスト以上に、カタルーニャ語とカスティーリャ語への様々な翻訳を通じて圧倒的なものとなった。どちらの場合も、ボエティウスの原典は解説文を伴うかそれに置き換えられた。これらの解説文は、広範囲に及ぶボエティウス研究の豊かな伝統に基づいており、『哲学の慰め』の複合的な諸側面―哲学的、歴史的、神学的、詩的、修辞学的、天文学的等―を発展させている。同書が様々な版を通じて広まる中、これら解説用の手段は、しばしば原典には殆ど関係のない独立したテキストを生み出しつつ、読者をある特定のイデオロギーや視点、特定の主題へと振り向けることになった。
 
本書は、スペイン中世におけるボエティウスの『哲学の慰め』の民衆語におけるあり様を精査し、その驚くべき広まり方と影響力とを説明しようとするものである。第I巻は3章構成になっている。1章では、ボエティウスの人物、作品『哲学の慰め』とその中世ヨーロッパにおける普及について論じている。2章「中世におけるボエティウスと『哲学の慰め』」は、中世に流布したボエティウスの様々なイメージ―政治家、詩人、哲学者、天文学者、数学者、教育者、神学者、無神論者、愛の伝道師、とりわけ英雄と聖者―を取り上げる。3章では同書のイベリア諸語版の研究に焦点をあてる。中世におけるボエティウスの人物像の研究、およびいくつかの版でみられる政治的な適用に、特に注目する。『哲学の慰め』の著者に共鳴する中世の著述家たちは、自分たちのイメージを高めるために彼の名声と自分たちのそれを重ね合わせ、自身を「ボエティウスの人物像」のごとく描いた。この文学的慢心、すなわち、いくつかの版が作られた背景をなす個々にないし集団としてボエティウスに自らを重ね合わせるという政治的アジェンダこそ、本書の尋常ならざる普及の主要な、おそらくは最も重要な動機となっていると私は考える。第II巻は、14世紀から15世紀にかけて作られた中世カスティーリャ語版『哲学の慰め』の8つのテキストの中で、主なものを載せている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 アントニオ・ドニャス / 翻訳:受田宏之 / 2019)

本の目次

第I巻:研究
謝辞
序文
略語と記法
1章 ボエティウスと『哲学の慰め』
  1.1 ボエティウス研究史
  1.2 5、6世紀のイタリアにおける政治と宗教
  1.3 ボエティウスの生涯
  1.4 ボエティウスの著作
  1.5 付録
2章 ボエティウスと中世における『哲学の慰め』
  2.1 先行研究の検討
  2.2 中世におけるボエティウスのイメージ:数学者、哲学者、神学者、愛の伝道師、英雄、聖者
  2.3 『哲学の慰め』の普及と影響力
3章 『哲学の慰め』の中世イベリア語版
  3.1 序文
  3.2 先行研究の検討
  3.3 諸版の研究
    3.3.1 カタルーニャ語版とカスティーリャ語への翻訳
    3.3.2 Nicholas Trevetのラテン語注釈のカスティーリャ語版
    3.3.3 ユダヤ移民による匿名版
    3.3.4 Ruy López Dávalos編のカスティーリャ語版
  3.4. 付録
結論
参考文献
 
第II巻:テキスト
4章 テキスト
  4.1 序文
  4.2 中世における主要な訳書
  4.3 編集の規則について
  4.4 略語一覧
  4.5 諸版
    4.5.1 カタルーニャ語版のカスティーリャ語訳
    4.5.2 Nicholas Trevetのラテン語注釈のカスティーリャ語版
    4.5.3. ユダヤ移民による匿名版
    4.5.4. Ruy López Dávalos編のカスティーリャ語版
 

関連情報

本書は、FUNCASにより人文科学分野の最も優れた博士論文に授与される「2015-16年度エンリケ・フエンテス・キンタナ賞」を得て、出版されたものである。
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています