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白とアクアブルーの表紙

書籍名

岐路に立つ自営業 専門職の拡大と行方

著者名

仲 修平

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年11月

ISBN コード

978-4-326-60313-8

出版社

勁草書房

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岐路に立つ自営業

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みなさんにとって「自営業」という言葉から連想する人びとは、どのような仕事を営んでいるでしょうか。日常生活では自営業と縁がないという人がいるかもしれませんが、これまでの人生の中で自営業とずっと無縁であったということはほとんどないと思います。ところが、自営業者として働く人びとがいつ事業を始めたのか、廃業したあとに何をしているのかという素朴な疑問を持つと途端にわからなくなります。本書はそうした自営業の謎に対して、社会学の立場から検討したものになります。
 
社会学の社会階層研究では、雇用された人びとを主な研究対象として、その内部で生じている収入や地位の移動機会の格差/不平等を捉えることが重要な研究テーマとなっています。それでも雇用されない人びとに焦点を定めてきたのは、雇用労働において生じている様々な問題 (長時間労働や過労死など) を考えていくためには、より自由な暮らしを実現する可能性のある「自営的な働き方」を理解しておく必要があると考えてきたためです。
 
本書は、このような問題関心に基づいて取り組んできた一連の研究をまとめたものです。一言でいえば、戦後日本の自営業がどのように変容してきたのかを、全国規模の社会調査データを用いて、計量社会学的な方法を通じて明らかにするものです。とりわけ、本書が着目したのが、「自営専門職 (専門的な職業に従事する自営業) です。この概念は、職業分類の「専門的・技術的職業」と就業形態の「自営業」を合成したものです。この概念によって、自営業の長期的な趨勢を一つの軸に沿って描き直す道筋が見えると考えました。とはいえ、自営業の内実は非常に複雑で、どの視点からどこに焦点を当てるかによって、その姿は大きく異なります。
 
「自営専門職」という独自の視点から見ると、自営業の内実は職人的な技能を必要とする熟練的職業を軸としつつも、専門的職業へと徐々に変容していく過程にあることを明らかにしました。それを示すために、誰が自営業へ参入しているのか/自営業から退出しているのか、という職業移動の問題と同時に、自営業と専門職の結びつきが雇用労働のそれと比べて強まっているのか、さらにはその趨勢が労働市場の構造変動を踏まえたとしてもいえるのか、という職業構成の問題を量的データに基づいて分析しています。
 
本書では、なぜ自営業が専門職化しているのかを、自営専門職として働く人びとの労働時間や収入の状況に加えて、本人たちが仕事や暮らし方にどのような意味を付与しているのかなども考慮しつつ説明することを試みました。その説明を踏まえて、自営専門職という働き方がこれからの日本社会において働くこと/生活することに対して投げかけていることを最後に考察しています。本書は、「雇われて働き続けること」が自明ではなくなりつつある社会において、いかにして働くかに対して問題提起を試みたささやかな成果となります。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 助教 仲 修平 / 2019)

本の目次

序  章  日本の自営業を読み解く――自営専門職に着目する意図
 1.姿を変えて日常に見え隠れする自営業
 2.本書における自営業の定義
 3.統計データから見る日本の自営業
 4.自営業,とりわけ自営専門職に着目する現代的意義
 5.本書の構成
 付記 本書で用いる社会調査データ
 
第1章  自営業の見方・測り方――社会階層研究の蓄積と残された研究課題
 1.自営業の認識をめぐる問題
 2.諸外国の研究動向
 3.日本の研究動向
 4.本書の検討課題――職業移動/職業構成/職業経歴/所得
 補論1 自営業研究におけるその他の対象
 補論2 統計データから見る自営業比率・失業率・雇用保護指数
 
第2章  自営業への/からの移動――失業率との関係に着目して
 1.問題の所在――自営業は失業の受け皿になりうるのか
 2.方法
 3.分析結果
 4.失業の受け皿とはなりえない日本の自営業
 
第3章  自営業の職業構成の趨勢――職業構造の変動を考慮して
 1.問題の所在――自営業の職業構成は専門的・技術的職業へと移行しているのか
 2.方法
 3.分析結果
 4.専門職化する自営業
 
第4章  自営専門職の職業経歴――職歴パターンとその条件の探索
 1.問題の所在――自営専門職を経験する人びとの職業経歴の特徴は何か
 2.方法
 3.分析結果
 4.複線的なルートを持つ自営専門職
 
第5章  自営業の所得構造とその推移――職業間の比較
 1.問題の所在――自営専門職は非専門職に比べて稼げるようになっているのか
 2.データと変数
 3.分析結果
 4.自営専門職の内部に生じる所得格差
 
第6章  自営専門職の所得格差――従業上の地位間の比較
 1.問題の所在――自営専門職は常時雇用専門職に比べて稼げるのか
 2.方法
 3.分析結果
 4.自営専門職の両義的な所得構造
 
終 章  結論と今後の課題――自営専門職から見る働き方の未来
 1.各章の要約
 2.本書の目的に対する結論
 3.専門的職業における自営業という働き方
 4.社会階層研究に対する貢献
 5.今後の課題と展望
 6.おわりに
 
参考文献
あとがき
人名索引・事項索引
初出一覧
 

関連情報

受賞:
第34回 (令和元年度) 冲永賞 (公益財団法人 労働問題リサーチセンター)
https://www.lrc.gr.jp/recognize

著者インタビュー:
新刊著者訪問 第35回 『岐路に立つ自営業―専門職の拡大と行方』 (東京大学社会科学研究所 2019年6月27日)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/interview/publishment/naka_2019_06.html
 
書籍紹介:
けいそうビブリオフィル | あとがきたちよみ『岐路に立つ自営業』 (勁草書房編集部ウェブサイト 2018年12月6日)
https://keisobiblio.com/2018/12/06/atogakitachiyomi_kironitatsujieigyo/
 

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