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5枚の中国の写真

書籍名

中国・新興国ネクサス 新たな世界経済循環

著者名

末廣 昭、田島 俊雄、 丸川 知雄 (編)

判型など

384ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年12月25日

ISBN コード

978-4-13-046126-9

出版社

東京大学出版会

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中国・新興国ネクサス

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21世紀に入ってから中国が世界経済のなかで急速にその存在感を高め、実質的な経済規模では中国はすでにアメリカと肩を並べている。
 
中国の世界経済のなかでの位置も大きく変化した。今世紀が始まったころ、中国は「安くて豊富な労働力」に強みを持つ国とみなされていて、先進国の市場へ向けて安い消費財を大量に送り出す国であった。「中国は『世界の工場』」というフレーズが日本から世界へ広まっていったのも21世紀初めのことである。
 
だが、21世紀初めには世界銀行の基準でいう「低所得国」から「低位中所得国」になったばかりだった中国は、その後「中所得国」の段階を早足で駆け抜け、いま(2019年)から10年以内に「高所得国」の仲間入りをするだろう。14億の人口をもつ高所得国が出現すれば、それは疑いなく世界で最大の消費市場だということになる。
 
そうした変化に伴い、中国の貿易の内容や方向も大きく変化した。21世紀初めには、中国は先進国から機械や重要部品を輸入し、大勢の労働力を利用して製品に組み立て、それを先進国市場に輸出するという貿易のパターンが中心だった。つまり、先進国に依存していたのである。
 
しかし、今日の中国は先進国(西欧、北米、日本)以外の世界との貿易のほうが多くなっている。それらの国々との間では中国は鉄鉱石、石油、大豆といった原材料を大量に輸入し、スマホやパソコンをはじめとするハイテク機器から衣服にいたるまでのさまざまな工業製品を輸出している。
 
例えば、中国は主に国内の膨大な鉄鋼需要をまかなうために、世界の鉄鋼生産の半分を占めるほどの鉄鋼を作っている。そのため、中国は国際的に取引される鉄鉱石の3分の2も輸入しているのである。また、日本では中国でアップルのiPhoneが組み立てられていることがよく知られていて、そのことが中国は「安価な組立工場」だというイメージの形成につながっているが、ヨーロッパや東南アジア、インドでは中国ブランド(Huawei, ZTE,OPPO, vivo, Xiaomiなど)の存在感が大きい。
 
このように先進国以外の世界から見た場合、中国は原材料を大量に輸入して、主に自国ブランドの工業製品を大量に輸出する国というイメージになりつつある。
 
本書は世界経済のなかでのこうした中国の位置どりの変化に着目し、中国と先進国以外の世界(それを本書では「新興国」と総称している)との経済関係を分析したものである。中国の新興国に対する積極的な関与を目指した一帯一路構想、東南アジアへの南進、中国による大豆、石炭、鉄鉱石の輸入が新興国に与えるインパクト、雑貨と携帯電話における中国製品の新興国への浸透などを分析した。
 
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 丸川 知雄 / 2019)

本の目次

序 章 世界経済の構造変化と中国・新興国ネクサス (丸川知雄)
 
第I部 変わりゆく中国の立ち位置
第1章 中国・新興国ネクサスと「一帯一路」構想 (伊藤亜聖)
第2章 中国との貿易が新興国経済に与えるインパクト (丸川知雄)
 
第II部 中国とASEANの水平・垂直関係
第3章 東南アジアに南進する中国 (末廣 昭)
第4章 深化・分化する中国・ASEAN貿易 (宮島良明・大泉啓一郎)
 
第III部 「世界の工場」中国がもたらす対外衝動
第5章 中国の食生活の向上と新興国への影響 (李 海訓)
第6章 中国の石炭輸入転換による国際市場秩序と新興国へのインパクト (堀井伸浩)
第7章 中国の鉄鋼超大国化と輸出競争力の源泉 (丸川知雄)
第8章 中国セメント産業の発展と技術選択・産業組織 (田島俊雄)
第9章 雑貨と携帯電話における新興国市場の開拓と専業市場 (丁 可・日置史郎)
 
終 章 米中拮抗の時代へ (丸川知雄)
 

関連情報

書評:
(エコノミスト2019年3/19号 2019年3月11日)
https://www.fujisan.co.jp/product/214/b/1792528/
 
(日本経済新聞朝刊 2019年2月9日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO41072150Y9A200C1MY7000/
 

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