現ウフィツィ美術館群に属するウフィツィ彫刻絵画館 (旧ウフィツィ美術館) とピッティ宮殿王侯居住区画・パラティーナ美術館には、オールド・マスター (昔日の巨匠) たちが描いた絵画作品からの数多くのコピーやレプリカが展示、あるいは収蔵庫に保管されている。2011—13年度日本学術振興会科学研究費補助金 (基盤研究 (B))による日伊共同研究として、複製画、あるいは後に複製されることになる昔日の巨匠たちが描いた絵画と思われる約230点の絵画を調査した。同時に、フィレンツェの国立古文書館や美術館資料室で関連の古資料を調査して、46作品に関する資料の書写を実施した。
 
他の王侯コレクションにも言えることだが、こうしたコピーは、トスカナ大公たちやその家族が野心的で類例のない昔日の巨匠たちの絵画コレクション、あるいは啓蒙主義精神に則る「普遍的な美術館」を構築する目的で昔日の巨匠の作品を収集するなかで、一部は意図的に、一部は偶然に集められた。研究では、そのコレクションの形成過程で、17世紀初頭から教会や修道院から昔日の巨匠による有名な祭壇画を入手する合法的な方途として教会財産の「強奪spoliazione」がおこなわれ、強奪した祭壇画の代替としてその優れたコピーが同所に納められたことに特に注目した。
 
イタリア語の本書は、ウフィツィ美術館研究叢書Gli Uffizi: Studi e Ricercheの32として、フィレンツェのCentro Di della Edifimi社からウフィツィ美術館群の経費で刊行された。収録された3章からなる論文および補遺・資料篇は、上記の共同研究の一部を一冊に編んだものである。
 
本書が対象としたトスカナ大公国の時期には、実は、ほかにも多くの複製画が注文され収集されていた。それゆえ、本書はその複製画収集の全容の「氷山の一角」を提示したに過ぎない。特に補遺・資料編は、古文書の精査と書写によって複製画の来歴ばかりか、複製画のタイプや収集のやり方を明らかにしたもので、貴重な学術資料である。とりわけその古文書からは、メディチ家の女性を含めた一部の人々が自分たちのコレクションに刻みつけた興味深い特徴をうかがい知ることができる。
 
本書に「本書紹介」文を寄せたウフィツィ美術館16世紀絵画 (ヴェネト絵画を除く) 担当前学芸員のフランチェスカ・デ・ルーカが述べるように、複製画というユニークな観点から編まれた本書は、ウフィツィ美術館における収集の歴史をよりよく補完することを可能にした。
 
なお、本書の日本語翻訳版 (小佐野重利編著・浦一章監訳『オリジナルとコピー．16世紀および17世紀における複製画の変遷』、三元社2019年) が刊行された。
 

(紹介文執筆者: 相談支援研究開発センター 特任教授 (兼務センター長) 小佐野 重利 / 2019)

本の目次

関連情報

日本語版:
『オリジナルとコピー　16世紀および17世紀における複製画の変遷』　(三元社刊　2019年5月31日)
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/489.htm
 
講演会:
講演会「オリジナルとコピー、そしてカラヴァッジョ」　(イタリア文化会館　2019年7月17日)
https://iictokyo.esteri.it/iic_tokyo/ja/gli_eventi/calendario/2019/07/originali-copie-e-caravaggio-conferenza.html
 
書籍紹介:
(Gallerie Uffizi twitter　2017年12月12日)
https://twitter.com/UffiziGalleries/status/940548152754614272
 
(YouReporter　2017年12月12日)
https://www.youreporter.it/foto_Oggi_agli_Uffizi/

(Libro Co. italia)
https://www.libroco.it/dl/aa.vv/Centro-Di/9788870385526/Originali-e-Copie-Fortuna-delle-repliche-fra-Cinque-e-Seicento/cw897983341769895.html
 

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