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ブルーの表紙

書籍名

現代独仏民事責任法の諸相

判型など

592ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年4月

ISBN コード

978-4-7857-2780-2

出版社

商事法務

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現代独仏民事責任法の諸相

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本書は、編著者が研究代表者を務めた科学研究費・基盤研究 (A)「現代独仏民事責任法の融合研究-日本法の再定位を目指して」(2015年度~2019年度、課題番号15H01924) の研究成果を集めたものである。
 
本研究課題は、日本の民事責任法学において常に重要な参照対象とされてきた (時としてそれぞれの学派を形成する感すらあった) ドイツ及びフランスの民事責任法の研究を進める若手研究者が集まり、両者の位置関係について再考察をすることを目的とするものである。ヨーロッパ全体の法統一動向も存在する中で、独仏民事責任法それぞれの現在の姿はどのようなものか、両者間に接近傾向・接近可能性はあるか、なお残る両者の相違は何に由来するのか。このような観点からの考察は、両者の表面的な美点を取捨選択しモザイク的な法形成が行われてきた感のある日本法の体系的正統性を問い直すとともに、ヨーロッパでは現実には困難な独仏融合を果たしてきた日本法の成果を積極的に再評価・発信することにもつながるのではないか。
 
もっとも、これらの課題は容易に達成できるものではない。各メンバーが特定のテーマについてドイツないしフランスの状況を掘り下げて考察し、他のメンバーがそれまで自らが蓄積してきた各国法の知見をもとに率直に論評・議論する、あるいは、比較法的知見に富む独仏の研究者を日本に招いて講演を行ってもらい、日本の研究者が自らの主たる研究対象たる外国法 (さらには日本法) の観点から彼らに率直な疑問を投げかける。本研究課題は、内外の研究者間の交流から得る刺激を、各メンバーが自己研鑽に活かすというものにほかならない。
 
かくして完成した本書の第1部 (論考) は、本研究課題のメンバーの寄稿論文から成り、その多くは本研究課題の枠組みで開催された研究会での報告をもとにしている。各人が取り上げたテーマは、民事責任の体系、民事責任の周辺諸制度との関係、民事責任の要件論・効果論、民事責任の隣接制度である不当利得など、多岐にわたる。また、第2部 (講演) は、本研究課題の一環として日本に招聘した外国人研究者による講演原稿9篇の日本語訳である。フランス法及びドイツ法の個別テーマのみならず、フランス・ドイツにおける比較法の役割やヨーロッパの法統一動向などに関する第一線の研究者による貴重な論考が収録されている。本書に収められた論考・講演のそれぞれが日本における民事責任法学の進展に貢献し、また、このような若手研究者主導の研究活動そのものが日本における法学研究の1つの起爆剤となることを願っている。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 准教授 中原 太郎 / 2020)

本の目次

第I部 論 考
第1章 「機会の喪失」論の比較法的位相〔中原太郎〕
第2章 2つのcohérence 論からみるフランス不法行為法―保険と刑事責任との狭間で〔大澤逸平〕
第3章 フランス民事責任法における損害軽減義務をめぐる議論の動向〔荻野奈緒〕
第4章 フランス法上のいわゆる「不安損害」について―携帯電話基地局訴訟とアスベスト訴訟とを例に〔齋藤哲志〕
第5章 ドイツにおける衡平責任(Billigkeitshaftung)―責任無能力者による加害行為への法的対応〔田中 洋〕
第6章 「家族の責任」に関する覚書〔長野史寛〕
第7章 民事責任能力の意義に関する基礎的・比較法的考察―ドイツの学説による議論を手がかりとして〔根本尚徳〕
第8章 ドイツ不法行為法の構造と体系に関する近時の議論〔山本周平〕
第9章 フランスにおける競争法と不法行為法―損害の捉え方の変容とその課題〔酒巻修也〕
第10章 フランス不法行為法における一般損害概念論の展開―損害概念区分論を中心に〔住田守道〕
 
第II部 講 演
第1章 不法行為責任と契約責任の関係〔パトリス・ジュルダン/荻野奈緒〔訳〕〕
第2章 フランス人身侵害賠償法〔アンヌ・ゲガン=レキュイエ/荻野奈緒〔訳〕〕
第3章 私法における利益の吐出し―現状の確認と将来の展望〔アンドレ・ヤンゼン/根本尚徳〔訳〕〕
第4章 21 世紀におけるドイツ民法の領域にとっての比較法の意義〔アンドレ・ヤンゼン/田中洋=山本周平〔訳〕〕
第5章 フランス民事責任法改正へのもう一つの視線―その関与者およびプロセスが改正の性質および内容に及ぼす影響〔ジャン=セバスティアン・ボルゲッティ/大澤逸平〔訳〕〕
第6章 今日のフランスにおける比較法的考察の妥当性〔ジャン=セバスティアン・ボルゲッティ/大澤逸平〔訳〕〕
第7章 人身損害《法》は存在するか?〔オリヴィエ・グー/住田守道〔訳〕〕
第8章 ドイツ法の観点から見たフランスおよびベルギーの民事責任法改正〔パスカル・アンセル/中原太郎〔訳〕〕
 〈資料1〉 「民事責任改正案―2017年3月」(フランス司法省・2017年3 月13 日)
 〈資料2〉 「新民法典に契約外責任に関する規定を挿入する法律準備草案」(ベルギー責任法改正委員会・2017 年9 月30 日)
第9章 ヨーロッパ不法行為法の平準化〔シュテファン・ローレンツ/長野史寛〔訳〕〕
 

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