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書籍名

Freiburger Rechtsgeschichtliche Abhandlungen, Neue Folge, Bd. 77, Abt. B: Abhandlungen zur Deutschen Rechtsgeschichte Königliche Gerichtsbarkeit und regionale Konfliktbeilegung Die Regierungszeit Ludwigs des Bayern (1314-1347)

著者名

Masaki Taguchi

判型など

439ページ

言語

ドイツ語

発行年月日

2017年

ISBN コード

978-3-428-14544-7

出版社

Dunker & Humblot

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Königliche Gerichtsbarkeit und regionale Konfliktbeilegung

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中世後期 (13世紀後半から15世紀) ドイツの国王裁判権は、19世紀以来のドイツ法制史学によって非常に低く評価されてきた。国王宮廷全般からの裁判所の分化が不十分で制度的発達に乏しく、国王が国内の貴族・都市に多く与えた特権によって裁判管轄も狭められていき、判決を実現する手段も不十分であった、というのである。しかし、こうした見方は、中世の国王裁判権を近代的基準によって評価するものであった。
 
それに対して本書の基本的な発想は、当時のドイツの各地域で展開されていた紛争解決のさまざまな試みを背景に置いて、そのうえで国王裁判権の活動を理解しようというものである。そのために、史料状況がそうした検討に最も適している14世紀前半の国王ルートヴィヒ4世の時代について、王権と地域との関係について異なるタイプを示すと思われる3つの地域 (中部ライン、エルザス・上部ライン、ヴェストファーレン) を選び出し、当時の国王裁判権の主な利用者であった諸侯・貴族・都市レベルの紛争がどのように扱われているかを、各種の証書を素材として、未公刊史料も含めて広く観察した。
 
紛争のタイプと当事者に応じて、封建裁判所や教会裁判所で解決が試みられることもあったが、特に盛んに用いられたのは当事者の合意に基づく仲裁であり、仲裁裁判官の人選、仲裁が行われる場所、仲裁判決までの期間などについて、細かな取り決めがなされた。そうした紛争解決の試みはランダムに生起していたわけではなく、地域の秩序形成をリードする覇権的諸侯、親戚関係などで結びついた貴族間の結合、都市間で定期的に締結される同盟という各地域で形成されつつある構造の中で発生していたが、そこではどのアクターも決定的な影響力を行使できたわけではなく、紛争当事者が自らの実力に訴えて紛争解決をはかる余地も常に存在していた。
 
そして国王裁判権も、このような状況の中で機能していたのであり、仲裁的要素を強く持っていた点や、決定を紛争当事者に押し付けることが難しい点は、地域における紛争解決と同様であった。また国王裁判権が地域の紛争当事者にとってどのような意味を持っていたかは、覇権的諸侯と国王との関係、国王直轄領の存続の程度、巡行する国王宮廷の地域への登場頻度、より一般的に当該地域と王権との関係の歴史などによって大きく異なっており、紛争当事者が国王宮廷における交渉や決定を普通に用いられうる紛争解決手段として織り込んで行動している地域 (中部ライン) もあれば、国王直轄領に関わる案件を除けば国王裁判権と関係なく紛争解決が試みられていた地域 (ヴェストファーレン) も存在した。以上のように、限られた材料を用いてではあるが本書は、近代国家の裁判を基準とするのではなく、当時の世界により即した形で、中世後期ドイツの国王裁判権の再評価を試みたのである。

 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 田口 正樹 / 2021)

本の目次

A. Forschungsstand und Fragestellung
I. Die Zeit Ludwigs des Bayern
II. Königliche Gerichtsbarkeit im deutschen Spätmittelalter
III. Fragestellung und Quellen
 
B. Mittelrhein
I. Mittelrhein als historische Landschaft
II. Wege und Techniken der Konfliktbeilegung in der Region
III. Konfliktbeilegung im Mittelrhein-Gebiet: Strukturen, Beispiele und Entwicklungen
IV. Königliche Gerichtsbarkeit und regionale Konfliktbeilegung
 
C. Elsass und Oberrhein
I. Strukturen in der Region
II. Beispiele der regionalen Konfliktbeilegung
III. Königliche Gerichtsbarkeit und regionale Konfliktbeilegung
IV. Zusammenfassung
 
D. Westfalen
I. Strukturen in der Region
II. Konfliktbeilegungen in der Region
III. Berührungen mit der Königsgerichtsbarkeit
IV. Zusammenfassung
 
E. Schlussbetrachtung

関連情報

受賞:
第110回 (令和2年度) 日本学士院賞 (日本学士院 2020年4月6日)
https://www.japan-acad.go.jp/japanese/news/2020/040601.html
 
書評:
Hendrik Baumbach 評 (『Zeitschrift für Historische Forschung』vol.44, No.4 2017年)
https://www.jstor.org/stable/26647881?refreqid=excelsior%3A8e97896584d38788c96d5f0cba9a8930&seq=1#metadata_info_tab_contents

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