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四谷コーポラスの窓際の写真

書籍名

四谷コーポラス 日本初の民間分譲マンション 1956-2017

著者名

志岐 祐一、松本 真澄、 大月 敏雄 (編)

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月

ISBN コード

9784306085633

出版社

鹿島出版会

出版社URL

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四谷コーポラス

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英語でマンションといえば、戸建ての豪邸を意味する。が、日本でマンションと言えば法的には区分所有できる不燃造の集合住宅を指す。つまり、縦方向にも横方向にも立体的につながった集合住宅の住戸を、一つ一つ個人が所有する形式の住宅であり、厳密には賃貸アパートのような集合住宅はマンションとは呼ばない。ところが、2000年あたりから、賃貸アパートでも鉄筋の構造をしているような形式だと、普通にマンションと呼んでしまうような言葉の遣い方をしばしば見かける。言葉の意味とは、このように時代によって少しずつ変わっていくものである。
 
では、なぜ日本では、集合住宅なのにマンションと呼ばれるようになったのか。日本で初めて個人向けの分譲マンションが登場したのは1956年であった。その物件の名が、本書のタイトルにもなっている「四谷コーポラス」であるが、ここにはマンションという名はない。実は、この四谷コーポラスが人気を博したために、その後次々に東京で同様の分譲集合住宅が登場したのだが、その中に1959年に誕生した信濃町アジアマンションという物件があった。ここで初めて集合住宅がマンションと名付けられたのだが、業界ではこれが受け、マンションを名乗る物件が次第に増えていって、いつの間にか分譲集合住宅を指す一般名詞として市民権を得るようになったのだ。この現象は、マンションという名称があまりにも一般化したために、賃貸アパートまでマンションと呼ばれるようになったことに似ている。
 
さて、現在日本の住宅総数は6,000万戸強。そのうち、いわゆる分譲マンションの占める割合はざっとその1割。住宅全体におけるシェアは年を追うごとに増え、都市部であれば、その割合は高くなる。東京都においては住宅総数の4分の1が分譲マンションである。現在、老朽化したマンションの修繕や建て替えが社会的課題になりつつあるのだが、四谷コーポラスが登場して6年後の1962年に制定された区分所有法を根拠として、マンションの管理がなされている。四谷コーポラスはこの区分所有法の制定に際しても、大きな役割を果たしていたことを、本書では突き止めている。
 
本書は、2017年に建て替えが決まった日本初の個人向け分譲マンションの魁である四谷コーポラスがどのように誕生し、その後のマンション業界やマンション管理のあり方に、どのような影響を与えたかを紐解いたものである。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 大月 敏雄 / 2021)

本の目次


1章──前史と計画
2章──管理とサービス
3章──四谷コーポラスに流れた時間
4章──建て替えまで
5章──再生へ
あとがき

関連情報

書籍紹介:
ほんやのほん:マンションの「普通」をめぐるドキュメンタリー『四谷コーポラス』 (朝日新聞デジタル 2018年10月1日)
https://www.asahi.com/and/article/20181001/400048161/

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