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山里清内路の古地図

書籍名

山里清内路の社会構造 近世から現代へ

著者名

吉田 伸之

判型など

416ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年9月

ISBN コード

978-4-634-52025-7

出版社

山川出版社

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山里清内路の社会構造

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本書は、長野県下伊那郡の南西端に位置する清内路に伝来してきた歴史資料群を素材とし、2003年以降9月以降、本学名誉教授・吉田伸之氏を中心とする「清内路-歴史と文化」研究会が行った史料調査活動を基礎にした共同研究の成果である。
 
吉田伸之氏は、本論文集の主たる企図を、次の2点にまとめている。第一に、歴史学研究の「最前線」が、フィールドワーク調査の現場=地域社会にあることを示し、その意味・意義を再確認することである。第二に、清内路という一つの山里の歴史を通時代的、また多面的に研究する中で、その多様で複雑な地域社会の構造と変容を具体的かつ精緻に明らかにすることである。
 
本稿の著者・赤川は、吉田伸之氏が行っている研究活動に、社会学の立場から参加した。そして清内路に存在する2つの集落 (上清内路 / 下清内路) の住民を対象に、2012年に質問紙調査を実施した。その目的は、人口減少社会における地域社会の維持可能性が、ソーシャル・キャピタル (社会関係資本) によっていかに担保されるかを実証的に検討することであった。とりわけソーシャル・キャピタル (Social Capital, SC) のどの要素が、両地域に居住する人々の健康 (主観的健康感) に影響を与えるかを探索的に検討し、その結果を本書14章で報告した。
 
ソーシャル・キャピタルの測定にあたっては、自治会・町内会・清掃活動・ボランティアといった社会活動への参加頻度と、生活の諸側面 (生きがい、家族関係、友人関係、家計など) に対する満足度を利用した。特に本章では、友人関係に対する満足度は個人の社交ネットワークに対する自己評価の一つを表し、家族関係に対する満足度は家族内SCに対する自己評価を表していると解釈し、これが主観的健康に与える影響の度合いを検証した。
 
主観的健康感に関しては、持病による体調不良、老化による体調不良、風邪など持病以外による体調不良、けが、精神的憂鬱をどれだけ感じるかを5件法 (とても感じる / 少し感じる / どちらともいえない / あまり感じない / ほとんど感じない) で回答してもらい、この得点を単純加算した。ちなみに主観的健康感は、客観的健康状態と強く相関することが知られている)。分析対象者は40歳以上の回答者である。
 
上清内路、下清内路それぞれの地区ごとに、主観的健康感を従属変数とし、性別、年齢、社会活動の参加頻度、生きがい・友人関係・家族関係・家計に対する満足度を独立変数とする重回帰分析を行なった。その結果、上清内路では、生きがいに満足すればするほど主観的健康感が高いこと、下清内路では、生きがいに満足するだけでなく、友人関係に満足すればするほど健康度が高まるという特徴が明らかになった。つまり上清内路は、生きがいに満足すればするほど健康度が高くなる「生きがい健康集落」、下清内路は、友人関係に満足すればするほど健康度が高くなる「友人健康集落」と命名することができた。
 
本章は、社会学に基づく実証研究であるが、その他の章では、吉田ゼミに集う若手歴史学研究者による、重厚な歴史的史料の解読と分析が行われている。ぜひ、そちらも参照願いたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 赤川 学 / 2021)

本の目次


第I部 清内路の近世
1章 近世清内路村の構造転換           吉田伸之
2章 榑木成諸村の年貢収納            前澤 健
3章 近世清内路における部落運営         坂本広徳
4章 千村平右衛門預所・知行所における七里役   小野歩実
5章 清内路関所と清内路村            千葉拓真
6章 十九世紀清内路煙草の生産流通構造      竹ノ内雅人
7章 土佐屋の櫛取引ネットワーク         角和裕子
8章 真宗寺院と清内路門徒            芹口真結子

第II部 清内路の近現代
9章 近世から近代初期における共同体機能の変遷  田中 光
10章 近現代村落における合意形成の方法     坂口正彦
11章 三等郵便局史料からみた地域社会      小島庸平
12章 明治後期専売制における清内路煙草     中西啓太
13章 『村誌』に書かれなかった招聘村長     本島和人
14章 清内路の地域力を比較する         赤川 学

補説『清内路村誌』編纂の経緯           藤田壮介

【付録3】清内路史料調査活動記録
【付録2】清内路関連文献一覧
【付録1】旧清内路村関係の史料郡
清内路村絵図
一八八〇年代の下伊那と清内路
索引
 

関連情報

書評:
小林延人 評 (『歴史と経済』第247号 2020年4月)
https://seikeishi.com/wp-content/uploads/2020/04/24762-3-%E7%9B%AE%E6%AC%A1.pdf
 
書籍紹介:
多和田雅保 紹介 (『歴史評論』第837 2020年1月号)
http://www.maroon.dti.ne.jp/rekikakyo/magazine/contents/kakonomokuji/837.html

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