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書籍名

文化転移 混合・普及・界面

著者名

葛西 康徳

判型など

271ページ

言語

日本語

発行年月日

2022年3月

ISBN コード

978-4-9911710-3-1

出版社

Bibliotheca Wisteriana

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文化転移

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初版 (2018年6月刊) は私家版

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本書は、これまで著者がさまざまな場で口頭または活字で発表してきたエッセイを集めたものである。対象とするのは三つの分野、すなわち法学 (jurisprudence)、古典学 (classics) および教養 (liberal arts) である。
 
この三つの分野に通底する著者の基本的な問題関心は、19世紀から今日に至るまでわが国における西洋の学問の摂取の方法を、従来のように文化の受け手 (recipient) の立場からではなく、文化のドナーの立場から文化転移として考察するということである。それゆえ、「継受」ではなく「普及」としてこのプロセスを分析する。
 
ここで特に議論の対象とするのは、日本における近代学問の最も重要な方法かつ特徴である翻訳である。翻訳の原語はラテン語のtranslatio (英語のtranslation)) であり、その意味は言語を越えて (trans) 移転 (latio、これは「運ぶ」を意味するラテン語のferreに由来する) することである。その際、元の言葉と翻訳された言葉の意味が等価 (parallel) であることを検証するのは誰か? 日本語をガイジンは検証できないということは、日本語の翻訳書の序文に付された原著者の謝辞を見れば明らかである。つまり、日本の学問は無監査状態で自生してきたのである。実証を伴う自然科学の場合は監査は後からやって来る。そもそも自然科学の分野では発表媒体は英語であり、最近は教育も英語で行われ始めた。本書では、翻訳および監査の問題を、「界面」(interface) という概念を用い、特に日本の法学 (jurisprudence) について分析した。その一部は、外国雑誌でも発表されている。
 
また本書は、このような日本の研究・教育のあり方を単に批判するだけではなく、それを少しでも改善するために著者が1990年代から行ってきたさまざまな実践活動を、その失敗を含めて具体的に報告している。著者が提案する解決策は、昨今の英語によるグローバル教育とは一線を画している。翻訳の弊害を指摘し英語で教育を行えば問題が解決すると信じるほど、著者はhappy manではない。異なる言語および文化を一律に一つの言語ないし文化で理解するのではなく (そのようなことはそもそも不可能)、むしろそれらを競合・競争させることが不可欠である。その結果生ずるものは一種の「混合」というべきものである。これはかつて唱えられた「雑種文化」としての日本文化と同じではない。いくら異なるものを日本が受け入れて雑種となったといっても、日本語でまとめる限り、それは「馴化」(domestication=japanization) されたものなのである。日本のフレンチレストランをフランス料理と見るか、日本料理と見るか。著者の考えによればそれは紛うことなき日本料理である。このことは現地に行って食べて見なければわからない。また反対に、外国に行って日本料理を食べてみれば、それが日本料理でないことはすぐわかる。
 
本書には、ピーター・パーソンズ教授によるオクスフォード大学の古典学の歴史についての貴重な論稿が翻訳されて含まれている。これは当初「your eyes only」として著者に託されたものだが、今回特別の許可を頂いてここに掲載することができた。是非読んで頂きたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 名誉教授 葛西 康徳 / 2022)

本の目次

新版はじめに
初版はじめに
 
第I部 法学
 第1章 幻の「レトリック学科」
 第2章 カレメグダンの丘から
 第3章 日本法の透明化
   I ここがヘン(quirky)だよ日本法
  II 比較法・法制史からのお返し
 第4章 二等国連合
 
第II部 古典学
 第5章 pithanonの航跡
 第6章 西洋古典学への誘い
 第7章 学問の普及と継受
 第8章 「より人間的な学問」Literae Humaniores
 
第III部 教養
 第9章 界面 (インターフェイス) としての教養
 第10章 Mixed Academic System
 第11章 《鼎談》これからの教養教育
 第12章 学士課程の再構築
 
補論1 グレシャム・コレッジ
補論2 フェアーな競争とは何か
おわりに 2022年の挑戦

関連情報

セミナー:
第5回 日本の古典文学と古代ギリシア文学の比較ー詩歌と社会の視点からーギリシア悲劇と能 (東京大学ヒューマニティーズセンター 2018年12月14日)
https://hmc.u-tokyo.ac.jp/ja/open-seminar/2018/greek-tragedy-no-play/

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