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書籍名

東大連続講義 歴史学の思考法

判型など

240ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年4月24日

ISBN コード

9784000614061

出版社

岩波書店

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歴史学の思考法

「歴史を学んで何になるんだろう」――年号や人名の暗記に苦しんだ受験勉強の最中に、そんな風に思ったことはないだろうか。しかし歴史学とはもちろん暗記ではない。「史料に基づき過去の人間生活の事象を研究する学問」である。それは専門的な学問領域であると同時に、“歴史学的にみる・考える”という普遍的な思考力を身につけるためのトレーニングでもある。つねに物事を長期的な視野で見る姿勢、経験不可能な物事に対するリアルな推測力、「現在」を相対的に視る力――歴史学によって必然的に養われるこれらの力 (=歴史学的思考力) は、過去を振り返るときだけでなく、今を生き、未来を踏み誤らないためにも必要不可欠のものであり、歴史家にかぎらず誰もがしっかりと身つけ、必要に応じていつでも起動できるように備えておくべきものであろう。
 
こうした認識に基づき、東京大学教養学部前期課程の学生 (1・2年生) が、歴史学的思考法とは何かを知り、“歴史学的にみる・考える”力を養うことができるよう、教養学部の歴史学教員はオムニバス形式の講義を開始することにした。さらにこれと並行してこの講義のエッセンスをまとめたテキストも作成することにした。広く教養 (リベラル・アーツ) を身に付けることを教育目的とする前期課程において、歴史学の講義は必ずしも専門家の養成を目指しているわけではない。受講生のなかには後期課程 (3・4年生) や大学院において歴史学を専攻する学生も含まれるが、大半の学生にとって前期課程の講義とは、歴史学に触れるいわば「人生最後」の機会なのである。そうした学生たちに対し、社会に出る上でこれだけは知っておいてほしい、これだけを学んでおけば歴史学の真髄から当たらずといえども遠からざるものに触れたことになるのではないか――という不変的価値のある内容を提供することをモットーに、執筆者陣が二年ほどかけて、互いの講義を見学し合い、草稿を読み合い、議論を重ねながら執筆を進め、コロナ禍のさなかにようやく刊行に至ったのが本書である。
 
本書は計4部12章からなる。第一部「過去から/過去を思考する」では、歴史の法則性や時間の観念、痕跡としての史料のとらえ方を論じ、第二部「地域から思考する」では、人びとの「まとまり」という視点から国家・地域を、グローバリゼーションや植民地主義の観点から現代社会の成り立ちをとらえなおす。第三部「社会・文化から思考する」では、世界像や儀礼・表象・感性、日常史から社会の常識や通念を相対化し、第四部「現在から/現在を思考する」では、近代の歴史学を概観しつつ、歴史叙述の在り方を問いなおし、歴史対話の可能性を模索する。各章末には「より深く知るために」として関連文献の紹介も添えた。
 
本書は、第一義的には受講生向けのテキストであるが、実際には、今を生きるすべての人びとを想定して書いた。一人でも多くの方に、いつでも、どこからでも、何度でも、読んでいただければと願っている。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 渡辺 美季 / 2020)

本の目次

はじめに
第I部 過去から/過去を思考する
第1章 歴史に法則性はあるのか――歴史と変化の理論 ……………桜井 英治
第2章 過去の痕跡をどうとらえるのか――歴史学と史料 ……………渡辺 美季
第3章 時間をどう把握するのか――暦と歴史叙述 ……………田中 創
 
第II部 地域から思考する
第4章 人びとの「まとまり」をとらえなおす――歴史の中の国家と地域 ……………杉山 清彦
第5章 現代社会の成り立ちを考える――グローバリゼーションの歴史的展開 ……………黛 秋津
第6章 植民地主義と向き合う――過ぎ去らない帝国の遺産 ………………岡田 泰平
 
第III部 社会・文化から思考する
第7章 世界像を再考する――イスラームの歴史叙述と伝統的世界像……………大塚 修
第8章 内なる他者の理解に向けて――儀礼と表象、感性の歴史学 ……………長谷川 まゆ帆
第9章 当たり前を問う、普通の人びとを描く――日常史と民俗学 ……………岩本 通弥
 
第IV部 現在から/現在を思考する
第10章 「近代」の知を問いなおす――歴史学・歴史叙述をめぐる問い ……………井坂 理穂
第11章 アナクロニズムはどこまで否定できるのか――歴史を考えるコトバ ……………山口 輝臣
第12章 「私たちの歴史」を超えて――ともに生きる社会のために ……………外村 大

 

関連情報

書評:
本の棚: 藤岡俊博 (地域文化研究/フランス語・イタリア語) (『教養学部報』622号 2020年11月4日)
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/622/open/622-03-2.html
 
長谷川貴彦 評「歴史学の現状、変容する姿を捉える」 (『週刊読書人』 2020年7月17日)
https://dokushojin.com/review.html?id=7345
 
上里隆史 評「知と思考の枠組み新たに」 (『琉球新報』 2020年6月21日)
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1142315.html
 
本村凌二 評「歴史学的な見方の獲得へ 事例豊富な連続講義集」 (『週刊エコノミスト』 2020年6月9日号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200609/se1/00m/020/014000c

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