
書籍名
Routledge Research in Human Rights Law Civil and Political Rights in Japan A Tribute to Sir Nigel Rodley
判型など
202ページ、ハードカバー
言語
英語
発行年月日
2019年2月5日
ISBN コード
9780815385844
出版社
Routledge
出版社URL
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「日本の市民的・政治的権利」は、日本の人権、中でも市民的・政治的権利の実情を人権の各分野の専門家が英語で書いた、稀有な書籍です。人権の父とも言われるナイジェル・ロドリー卿が亡くなった際に、彼を師とした多くの人権専門家に声をかけ、キハラハント准教授が発起人となったプロジェクトの集大成です。ロドリー卿は、国連人権委員会 (国連で各国の市民的・政治的権利の状況を検証し、勧告をする機関) の議長だった折、日本が同委員会の勧告を多く無視し続けており、委員会の時間と労力の無駄とも言えると発言しましたが、これに編者の高橋宗瑠氏や著者の多くが危機感を募らせ、この書籍を作成することとなりました。
この書籍は市民的・政治的権利の中でも、刑事司法制度、差別、福島の被害者への救済、軍の性的奴隷、難民と避難民、マスメディア、監視、女性のエンパワーメントやヘイトスピーチ、など多岐にわたる分野について実態を検証しています。
刑事司法制度についての章では、法制度と実際のケースの分析から、検察側の圧倒的な優位性が描きだされています。ヘイトスピーチの章では、ヘイトスピーチを禁止する法規が国際人権法で求められる水準に達しない状態が明らかにされました。女性や同和問題と言われる差別問題を扱う章では、事態を改良しようとする日本の動きが差別を解決するに至らない状況が詳らかになりました。日本軍の性的奴隷の問題について検証する章は、性的奴隷の問題が人権の問題として扱われておらず、解決には至らない現状を浮き彫りにしました。福島の原子力発電所の事故は記憶に新しいですが、被害者への非司法的救済の諸作について、第九章では批判的な検証が行われています。難民と避難民の保護については、特に近年政策に動きのある分野ですが、彼らの人権が十分に保護されていないことが第十章で描かれています。
キハラハント准教授の執筆した機動隊と海上保安庁の武力行使についての章では、法執行機関が抗議活動に対する際に守るべき人権の指標を踏襲し、その指標をもって沖縄の米軍基地反対抗議運動に対する武力行使の内容と度合いを検証しました。もう1つの章では婚姻と家族生活にまつわる日本の法規が制度的に女性を差別していることが描かれ、最高裁判所がこれらの法規を合憲であると結論づけていることに疑問を呈しています。
これら、各章で挙げられている日本の市民的・政治的権利における問題点は、日本が国際人権法に則って行動しようとする姿勢が薄れている近年、より深刻な問題となっていると思われます。
この書籍が国内法・政策や実際のケースをもとに、問題点を国際人権法に照らし合わせて正確に検証していることで、読者には分かりやすく実態が伝わるでしょう。批判的・検証的な執筆の仕方、特に人権の分野における検証の方法を学ぶための教科書としてもお勧めします。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 キハラハント 愛 / 2020)
本の目次
2: Introduction;
3: Introductory Comments;
4: Chapter 1 - Hate speech and the false human rights narrative in Japan;
(第一章 日本におけるヘイトスピーチと人権 ナラティブ)
5: Chapter 2 - Media in Japan: the Muzzled Watchdog;
(第二章 日本のマスメディア)
6: Chapter 3 - Criminal Justice Reform of 2016: A Solution to the Infamous Problems in Japanese Criminal Procedure?;
(第三章 2016年の刑事司法制度改革)
7: Chapter 4 - An Examination of the Force Used by Kidoutai (riot police) and Japan Coast Guard;
(第四章 機動隊と海洋保安庁による武力行使の検証)
8: Chapter 5 - Women’s Empowerment and Gender Equality in Japan;
(第五章 女性のエンパワーメントと壇上平等)
9: Chapter 6 - Discrimination against Women in the Sphere of Marriage and Family Life;
(第六章 婚姻と家族生活における女性差別)
10: Chapter 7 - Dōwa Project Policies as unfinished human rights business - from Dōtaishin to Ikengushin;
(第七章 未解決の人権問題としての同和プロジェクト政策)
11: Chapter 8 - Blanket Police Surveillance of Muslims: a Chilling Precedent;
(第八章 警察によるイスラム教徒への監視活動)
12: Chapter 9 - The Fukushima Diaspora: Assessing the State-Based Non-Judicial Remedies;
(第九章 福島からの避難者:国による非司法的救済策の検証)
13: Chapter 10 - Stratification of Rights and Entitlements among Refugees and Other Displaced Persons in Japan;
(第十章 難民と避難民の人権と権利の層別化)
14: Chapter 11 - Japan’s military sexual slavery: Seeking reparations as on-going human rights violations;
(第十一章 日本軍の性的奴隷:人権侵害への救済策を探る)
15: Chapter 12 - Japan and the international human rights procedures: the ‘han-nichi’ narrative;
(第十二章 日本と国際的人権システム:「反日」ナラティブ)
16: Index
牽引