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書籍名

クライエントの言葉をひきだす認知療法の「問う力」 ソクラテス的手法を使いこなす

著者名

石垣 琢麿、 山本 貢司 (編)、東京駒場CBT研究会 (著)

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年6月1日

ISBN コード

9784772417013

出版社

金剛出版

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本書は、ソクラテス的手法を具体的に解説する第1部と、短期認知療法適合度尺度 (Suitability for Short-Term Cognitive Therapy Rating Scale: SSCR) を紹介する第2部の2部構成になっている。ソクラテス的手法とSSCRは、それぞれが独自の背景を持ち、互いに無関係に発展した。しかし、両者はきわめて重要な点を共有している。それは、「認知療法で必要とされる『問う力』とは何か?」を問うていることだ。
 
すべての心理療法 (psychotherapy) はクライエントとセラピストとの治療的コミュニケーションによって進展する。このコミュニケーションには、まなざしや姿勢のような非言語的要素ももちろん含まれるが、本書の中心的テーマは言語的要素である。そして、言語的コミュニケーションにおいて、認知療法ではクライエントの話をていねいに聴くことは当然ながら、とりわけ「問う力」が求められる。セラピストはなによりもまず「適切に問う力」を身につけなければならない。認知療法で必要とされる「問う力」とその意義を、ソクラテス的手法をキーワードにしてまとめたのが第1部である。
 
一方、短期間で認知療法を終了できる、つまり短期間で問題を解決できるクライエントを抽出する方法として1980年代後半にアメリカで開発されたのがSSCRである。認知療法はさまざまな対象に対して有効性が証明されているが、それは統計上のことであり、各クライエントを考えれば、だれに対しても、どのような心理的問題に対しても短期間で効果が出るわけではない。短期間の認知療法が有効なクライエントの具体的な特徴と、彼らをみつけるために、どのように「問う」べきかを教えてくれるSSCRを日本に紹介することは、日本における今後の認知療法の教育やトレーニングのために有意義だと筆者は考えた。
 
ただし、本書は海外の尺度や研究の単なる翻訳や紹介ではない。筆者の仲間である、認知療法の経験が豊富な中堅臨床家たちが、ソクラテス的手法とSSCRが認知療法にとって大切な理由や、『問う力』を育む方法を、自らの経験に基づいて解説している。つまり、本書には認知療法家としての各執筆者の成長プロセスが反映されており、それぞれの体験に基づいた、認知療法の先輩から初学者への「紙上指導」の場にもなっている。
 
本書は基本的に、セラピストからクライエントに問う状況を想定して書かれているが、クライエントが自分自身に、あるいはセラピストが自分自身に問いかける際にも大いに役に立つだろう。とくにソクラテス的手法には、自らが抱えている問題を明確にしたり、偏りの少ない思考を育んだり、自らをより深く洞察したりするためにきわめて重要な問いが含まれている。したがって、認知療法だけでなく心理療法全般の入門書として、あるいはセルフヘルプ用としても本書は活用できると考えている。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石垣 琢麿 / 2020)

本の目次

第1部 ソクラテス的手法とは?
はじめに
第1章 問いかけることで面接を組み立てよう! ―系統的質問
第2章 多くの情報を引き出して吟味するための質問法―帰納的推論
第3章 物事の本質を見つけ出し,クライエントの気づきを高める―普遍的定義
第4章 「私は知っている」という思い込みをなくすには―知識の否認
第5章 自分らしくあることを支援しよう! ―自己変革
 
第2部 短期認知療法適合性尺度の活用
はじめに
第1章 自動思考のとらえやすさ
第2章 感情の自覚と弁別
第3章 自己責任の承諾
第4章 認知理論への理解
第5章 治療同盟への潜在力1 (セッション内の証拠)
第6章 治療同盟への潜在力2 (セッション外の証拠)
第7章 問題の慢性度
第8章 防衛的操作
第9章 焦点性
第10章 治療に対する楽観主義・悲観主義

 

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