東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ロボットの機体の写真

書籍名

ASAHI ORIGINAL Team KUROSHIO ロボットで深海に挑む

著者名

朝日新聞出版 (編集)

判型など

71ページ

言語

日本語

発行年月日

2019年10月18日

ISBN コード

9784022711281

出版社

朝日新聞出版

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Team KUROSHIO

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、ロボットエンジニアとそのユーザーたる海底地球物理などを専門とするサイエンティストとのスリリングな出会いを引き起こす起爆剤となる書物である。
 
私たちは案外この地球の足元を知らない。いまやGoogle Earthで世界中のあらゆる場所を眺めることができ、もはや探検隊が行く場所はないように思える。けれども、この惑星の大半を占める海の底の正確な地図は実はほとんどない。地球の海底のうち、信頼性の高い水深測定を元にした地図があるところは全体のおよそ2割。Google Earthの表示する海底地形の大半は、衛星から測った重力異常から推定した値にすぎない。正確に地形を測るには、普通は船を出して音波を使った装置 (ソナー) を使う。しかし、深海域ではソナーと海底の距離が数kmあるために分解能を上げることが難しい。また、船の運用にはコストもかかり、そもそも高緯度域の荒れた海には行くことさえ困難だ。そこで、最近一躍脚光を浴びてきたのが、AUV (Autonomous Underwater Vehicle) = 自律型深海探査機の開発と利用である。要は、小型の無人ロボットにソナーを装備して、深海をくまなく走らせて調査をしようという動きだ。
 
本書は、この新しい分野に挑戦した日本人チームの記録である。米国のXPRIZE財団はこれまでも月面探査レースなどの大規模な競技会を開催してきたが、2016年には石油メジャーがスポンサーとなってShell Ocean Discovery XPRIZEがスタート。「水深4000mで24時間以内に250km2以上の海底地形を無人で探査し、48時間で地形図を作成せよ」というレースに賞金7億円を賭けて、世界から32チームが参戦した。日本からは、産官学の若手が組んだTeam KUROSHIOが結成された。東大の生産技術研究所メンバーもチームの重要な一角を担っている。ロボット設計の専門家、各社から参加した通信や管制のスペシャリスト、 AUVを運航しているオペレーションのプロ、そしてデータ処理やロジスティクスの担当者。さまざまな場で働いてきた人々が結集して、3年間にわたる長い挑戦の日々を過ごす。予選を経て、ギリシャでの決勝に進出したのは5チームのみ。ここに至るまでもさまざまな困難を越えてきたのだが、決勝でもまさかの失敗と再挑戦が続く。そしてTeam KUROSHIOは設定された目標を達成し、見事第2位に輝いた。ちなみに、この目標設定は非常に高いもので、完全に達成したのは2チームのみだった (優勝したのは国際チームで、こちらにも日本の若手が参加して重要な役割を果たしている)。
 
本書は、Team KUROSHIOの結成からレース当日までの軌跡を技術的側面まで丹念に取材した実録の部分と、メンバーのインタビューを中心にまとめられている。実録も面白いが、参加したひとりひとりの語る挑戦の日々が生き生きとしていて、本当にうらやましい (当事者たちにとっては次々やってくるトラブルで胃の痛い日々だったかもしれない)。工学的興味を持つ人にも、人間ドラマとしての興味を持つ人にも、どちらにも魅力ある一冊である。女性が全然出てこないのがちょっと悲しいけど…今後の出会いと活躍を期待したい!

(紹介文執筆者: 生産技術研究所 准教授 ブレア・ソーントン、大気海洋研究所 教授 沖野 郷子 / 2021)

本の目次

・高解像度の海底地形図、どう使いますか
   藤崎慎吾(作家)
   沖野郷子(東京大学大気海洋研究所教授)
   今尾恵介(地図研究家)
・Shell Ocean Discovery XPRIZE準優勝 海底探査チーム Team KUROSHIOとは?
   そもそも深海ってどんなところ?
   海底探査がとてつもなく難しいわけ
   Shell Ocean Discovery XPRIZEとは?
   KUROSHIOのメンバーは?
   KUROSHIOのロボットたち
   KUROSHIOの海底地形図を読み解く
   【図解】AUV-NEXT[1]
   【図解】AUV-NEXT[2]
   【図解】ORCA
   勝敗を左右したロジスティクス
   [COLUMN]ライバルの戦略/機体のタイプはいろいろ
・[Document]Team KUROSHIO 3years 挑戦し続けた3年間の軌跡
   こんなレース、不可能でしょ!
   海域試験開始!通信ができない?
   予選は地球の裏側で!?
   Round1突破。でも、次のAUVがない!
   たった半年でAUVを作る?
   Rpund2 いよいよ決戦の地へ
   レース本番、いざ出航!
   リトライ!まさかの探査中断?
   レースはまだ終わっていない
   発表の地は、モナコ
・KUROSHIOメンバーたちのNEXT GOAL
   西田祐也(九州工業大学)
   長野和則(東京大学生産技術研究所)
   稲葉祥梧(海上技術安全研究所)
   各務 均(三井E&S 造船)
   石川暁久(日本海洋事業)
   小島淳一/西谷明彦(KDDI総合研究所)
   進藤祐太(ヤマハ発動機)
   大木 健(海洋研究開発機構)
   中谷武志(海洋研究開発機構)
   MEMBERS

関連情報

関連サイト:
Team KUROSHIO 深海への挑戦
https://www.jamstec.go.jp/team-kuroshio/
 
無人ロボットが拓く海底探査 ~Team KUROSHIO地球のラストフロンティア深海への挑戦の軌跡~ (Science Portal 2020年6月25日)
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20200625_w01/
 
JAMSTEC最前線:日本代表で準優勝した、TEAMクロシオ(KUROSHIO)とはなに? どんな競技で、どんなチームで、どんなマシンが参加したの? (Motor-Fan.jp 2019年11月24日)
https://car.motor-fan.jp/article/10012530
 
深海、過酷な「レース」に挑む挑戦者たち - いまだ私たちは「地球の3分の2」を知らない (東洋経済ONLINE 2017年12月22日)
https://toyokeizai.net/articles/-/200384?page=3
 
深海の“未知”切り開くロボコン魂、若手タッグが世界に挑む (DIAMOND online 2017年7月12日)
https://diamond.jp/articles/-/128958
 
賞金7億円! 無人機たちが過酷な深海の探査技術を競うShell Ocean Discovery XPRIZE! (ROBOT NAUT 2017年6月7日)
https://robotnaut.net/archives/7345
 
国際大会に挑戦! 日本の海底探査チーム「Team KUROSHIO」に勝算はあるか – 代表・中谷武志博士に聞く (academist Journal 2017年3月30日)
https://academist-cf.com/journal/?p=3905
 
深海探査の国際コンペに東大・JAMSTECらのチームが出場決定 - 無人探査ロボットで東京ドーム1万個分の海底地図を描く (マイナビニュースTECH+ 2017年2月20日)
https://news.mynavi.jp/article/20170220-teamkuroshio/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています