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白とグレーの表紙

書籍名

「極限」を使いこなす 微積分・微分方程式・確率統計

著者名

小谷 潔

判型など

244ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2017年10月31日

ISBN コード

978-4-13-063903-3

出版社

東京大学出版会

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「極限」を使いこなす

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急速に変化する現代社会では、専門分野や文理を問わず、蓄積されたデータを数学を用いて操る能力が必要になります。一方で、現在の数学教育に目を向けると、大学で習う数学は高校までの数学よりも厳密な側面があり、高校数学とは大きく異なるとも言われています。そのため、大学での数学に興味を持ちにくい学生も少なからずいるようです。高校数学と大学数学のギャップを埋めるには、学んだ数学を実際の物理学、生命科学などの具体例に活用することで、その概念の有用性を十分に感じるプロセスが必要だと考えております。それによって、さらに厳密な思考の必要性にも触れ、新たなモチベーションも生まれることでしょう。
 
本書では、大学数学で「解析学」と呼ばれる分野の内容を扱っています。「解析学」は微積分を含めた極限や収束という概念を用いる分野で、身の回りの様々な現象を理解したり予測するための基礎となっています。はじめに少ない前提と直感的な説明によって高校までの数学を復習し、その後実用的な問題を扱いながらその都度進んだ考え方を紹介する構成となっています。
 
第1講では、高校数学と大学数学どちらでも主要な単元となっている「微積分」を扱うことで、解析の基礎を高校数学の内容から身に着けます。第2講では「微分方程式」を扱います。世の中の法則を微分方程式で表し解くことは解析学の醍醐味の一つです。ここでは惑星の運動や神経細胞の電気活動などの実例を通して、現象から導かれた微分方程式がどのように振る舞うかを読み解く手法を身につけます。第3講では「確率統計」として中心極限定理や仮説検定、クイズ番組から生まれた問題 (モンティ・ホール問題) などを扱うことで、実際の確率統計の問題を考える上で、「測る」「極限をとる」という解析学の考え方をきちんと用いることが重要であることを身に着けます。第4講では基礎的な解析学教程の中で1-3講で扱ってこなかった偏微分や重積分の補強を念頭におきつつ、1-3講で扱った内容を組み合わせることで幅広い問題に対応できることを概観します。一般的な解析学の教科書では扱わない、疑似乱数を用いた面積 (積分) の計算方法などの話題も取り入れました。「そういう考え方もあるんだ!」と思って頂くことができれば幸いです。
 
実用面では人工知能についてやコンピュータを活用した計算法に関するコラムがあり、また付録では読後にギャップなく主要な解析学の入門書に進んでいくための情報を掲載しております。大学数学における講義の副読本としても、また数学と私たちの生活を繋ぐ読み物としても活用していただけると思います。
 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 准教授 小谷 潔 / 2020)

本の目次

はじめに
基本的な記号と演算ルール
第1講 極限をあやつる――微積分
 1.1 数を入れると数が出てくる箱――関数
 1.2 まがった線とまっすぐな線――微分と微分公式
 1.3 面積を計算しよう――積分と積分公式
 1.4 解析に役立つ「発散」と「波」の関数
 1.5 「N!」ってどのくらい大きいの?――スターリングの公式
 コラム1 演算を表す記号の工夫について

第2講 世の中の現象を読み解く――微分方程式
 2.1 力学系の基礎
 2.2 コンピュータに式を解かせる――数値解法
 2.3 力学系を図を使って理解するための基礎知識
 2.4 世の中の現象の根底には発散と波の関数――連続時間線形力学系はexp(t),cos(t),sin(t)
で答えが書ける
 2.5 1変数非線形力学系――非線形力学系の分岐理論
 2.6 2変数非線形力学系――神経細胞のしくみ
 2.7 3変数非線形力学系――「流れ」の複雑さ
 コラム2 ニューロン新生
補 講 次のステップに進むために――いくつかの積分公式
 補講1 部分積分・置換積分
 補講2 ガンマ関数とベータ関数

第3講 ランダムさと秩序との間に――確率統計
 3.1 確率的な現象とその評価手法
 3.2 正規分布を使いこなそう
 3.3 「独立」な事象とその扱い
 3.4 神はサイコロを丁寧に振る!?――モーメント母関数から見た中心極限定理と大数の法則
 3.5 標本による推定・検定のこころ
 3.6 その差を信じてよいのか?――t検定をやってみよう
 3.7 最尤法――母集団の特徴をピンポイントで当てる
 3.8 ビッグデータ時代の統計手法――ベイズ統計
 コラム3 乱流はどのようにして起こる?
 コラム4 ニューラルネットワーク

第4講 だから世界は美しい――数学の法則は分野をこえる
 4.1 かけ算とたし算をつなぐ――ネイピア数eと大きな数の扱い
 4.2 指数関数と三角関数をつなぐ――世界で最も美しい式eiπ〔iπはeの肩に乗る〕=-1
 4.3 確率分布と円周率をつなぐ――ガンマ関数によるΓ(1/2)=√π
 4.4 テイラー展開と数値解法をつなぐ――修正オイラー法
 4.5 コンピュータで理想のランダムさに迫る――メルセンヌ・ツイスターと擬似乱数
 4.6 ランダムさと積分をつなぐ――モンテカルロ法とビッグデータ解析
 コラム5 三角関数の数値計算――少しの記憶と,少しの計算と,大いなる創造力と
 コラム6 コンピュータが得意なこと,苦手なこと

付 録

関連情報

講座:
高校生と大学生のための金曜特別講座「微積分でよみとく脳・生命・社会」 (東京大学教養学部 2018年7月13日)
http://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_time/2018s/2018s_6.html
 
書評:
若狭徹『解析学「全部のせ」』を完食しよう (『数学セミナー』2019年3月号P84数セミメディアガイド)
 
書籍紹介:
小谷潔「東大教師が新入生にすすめる本」 (東京大学出版会『UP』4月号 2018年6月)
https://kw.maruzen.co.jp/nfc/featurePage.html?requestUrl=toudai2018/06/
 

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