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書籍名

憲法研究叢書 憲法裁判権の動態 [増補版]

著者名

宍戸 常寿

判型など

424ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年1月

ISBN コード

978-4-335-30337-1

出版社

弘文堂

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憲法裁判権の動態 [増補版]

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本書は、2000年3月に本学法学政治学研究科に提出したいわゆる助手論文を、『国家学会雑誌』に加筆修正の上で連載した論文を中心にした、私の初めての、そして今のところ唯一のモノグラフィーである。初版は2005年に刊行されたが、15年経って増補版を出すに当たり、3つの補論を追加した。
 
本書は、ドイツの憲法裁判の制度や判例、学説をとにかく勉強して、自分なりの像を描こうとしたものである。本書のポイントの一つは、ドイツの憲法裁判制度を理解する上では、立憲君主制時代の、大臣弾劾や憲法争議の裁判という国事裁判所の伝統が重要だということである。違憲審査制というと、人権を制限する法律の合憲性を裁判所が審査するというイメージが強い。しかし、国家機関同士の憲法上の権限をめぐる争いの解決という手続 (機関訴訟) がドイツの連邦憲法裁判所にはあり、それこそがドイツの憲法裁判制度の成立過程を理解する上で重要ではないか、少なくとも他国の研究者が比較憲法の観点からアプローチする際には留意すべきではないかという点を強調したのである。
 
ドイツにおける法律の合憲性の審査のあり方をめぐる議論の内容と文脈を明らかにした(と自分では思っている)というのが、本書のもう一つのポイントである。違憲審査制の母国アメリカに関するこの種の研究は日本の学界でも相当の蓄積があるが、ドイツについては、ドイツ憲法の専門家が暗黙のうちに共有していた知見にとどまっていたように思う。社会民主党中心の政権が推進する社会改革立法に対して、連邦憲法裁判所が盛んにブレーキをかけたことを背景に、憲法裁判の限界をいかに画定するかという問題設定で議論が展開されたこと、それが権力分立の捉え方の見直しと結びついていたこと等を、提示したものである。
 
このように自分で紹介してみて、本書はとにかく大それた試みであって、文献調査も不十分なものであったことを、改めて痛感する。具体的な研究計画を立てて着実に成果を出してという現在の風潮からすれば、よくもこれで助手論文として提出したと反省もするし、よく通していただいたものだと当時の先生方には感謝するしかない。とはいえ、助手論文報告会では、先輩の憲法研究者やドイツ法の先生方から厳しいご指摘を受けて立ち往生したことを、いまでも時々、恐怖とともに思い出す。雑誌連載に加えて、本書初版の刊行に当たって、大幅に手を入れたことで、はじめてそれなりに満足がいくものになった。
 
そこで満足したのが良くなかったのだろうが、私の研究関心はその後、憲法学全般や、情報法の研究に拡散していき、本書の内容を深めるとか、文献を含めてその後の展開をフォローするということは全く怠っていた。このたび、ありがたいことに出版社から再版のお申し出を受けて読み返すと、粗さが目立つものの、基本的なものの見方を含めて、研究者としての自分を形成したのが本書であることを改めて実感する。増補に当たって収録した、日本の違憲審査制に関する論文3つが、そのことを如実に示していると思う。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 宍戸 常寿 / 2021)

本の目次

序 論
 
第1部 憲法裁判権の制度と理解
第1章 「憲法裁判権」の源流
 第1節 「帝国国制」の崩壊
 第2節 ラントにおける「憲法裁判権」の源流
 第3節 ドイツ帝国と「憲法裁判権」
第2章 ワイマールにおける「憲法裁判権」の展開
 第1節 一般の裁判官の審査権
 第2節 ライヒ国事裁判所
 第3節 「憲法裁判権」の完成とワイマール国法学
第3章 ボン基本法における憲法裁判権の成立
 第1節 「憲法裁判権」と連邦憲法裁判所
 第2節 基本法適合的な憲法裁判権の理解
 中間総括
 
第2部 現在の憲法裁判権の問題状況
第1章 裁判官の規範拘束
 第1節 裁判官の規範拘束
 第2節 初期の限界画定論争
第2章 基本権論と憲法裁判権の限界画定
 第1節 「価値体系」論
 第2節 防御権と憲法裁判権
 第3節 基本権の「客観法的側面」と憲法裁判権
第3章「機能法的考察」
 第1節 機能法的考察とは何か
 第2節 機能秩序における連邦憲法裁判所
 第3節 具体的な問題領域
 第4節 批判と検討
結 論
 
補論1 日本憲法史における「憲法裁判権」
補論2 司法のプラグマティク
補論3 統治行為論
補論4 司法権=違憲審査制のデザイン
 

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