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書籍名

社会的認知 現状と展望

著者名

唐沢 かおり

判型など

250ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年11月10日

ISBN コード

9784779515071

出版社

ナカニシヤ出版

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社会的認知

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社会的認知は、社会的情報処理過程に焦点を当てた研究領域である。他者、自己、集団などの「社会的な存在」が、心の中に描き出される際の法則性やバイアス、社会的要因の影響を議論するのである。社会的な対象に関する情報処理は、様々な社会的行動の基盤となり、人間関係や集団間関係、社会的な諸現象のありかたを決める。また同時に、規範、制度、文化などのマクロ構造も、情報処理過程に影響する。従って、社会的な心が持つ基礎的なメカニズムの解明と、社会的な諸課題のなかでそれが果たす役割に関する議論が、社会的認知研究の役割となる。
 
本書は、社会的認知領域における、これまでの研究成果と、展開の方向性を議論したものである。上に記載した特徴を踏まえ、「第一部:社会的認知の基礎」と「第二部:社会的認知の展開」から構成されている。
 
第一部では、まず「対人認知」、「ステレオタイプ」、「自己」の各章で、他者、集団、自己に対する情報処理特性を論じている。これらは社会心理学が初期から論じていたテーマであり、古典的な問題意識が、社会的認知研究でいかに展開し、成果を挙げてきたかを明らかにしている。続いて、「認知と感情・動機」、「自動的処理と統制的処理」の章では、対象にかかわらず、社会的な情報処理全体に通底する問題を議論している。これらを通して、「情報処理主体としての人間」について洞察を深めることを狙っている。
 
第二部では、第一部で述べた基礎的な知見が、他の研究領域や応用領域との連携のなかで、展開する状況を考察する章から構成されている。
 
「心と文化の相互構成過程」、「神経科学と社会的認知」の章は、ミクロ・マクロ変数の相互影響過程の解明に、社会的認知が果たしてきた、また今後果たしうる役割を明らかにする。また文化心理学や脳神経科学が得た最前線の知見紹介ともなる。続く「ウェル・ビーイングと社会的認知」、「ロボット・AI工学と社会的認知」、「組織における社会的認知」、「実験哲学と社会的認知」では、社会的認知の知見が実践知、人文知として持ちうる可能性について考察する章となる。健康心理学、工学、組織心理学、哲学という領域との接点における知見や、融合的な学問分野を開拓する可能性についても、考察を深めていく。
 
最後に、「結果の再現性問題」と「人間知と実証的根拠に基づく公共政策」の章で、方法論に関わる議論を行っている。前者は、科学としての心理学への信頼に関わる重要な問題における社会的認知研究の立場を、また後者では、政策立案を実証的根拠に基づいて行う営みにおける、社会的認知の関与について考察している。
 
各章の執筆に当たるのは、テーマに対する高い専門性を持つ研究者である。社会的認知の現状と展望の理解が、心の社会性と、その研究が持つ実践的意義への洞察につながることを願っている。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 唐沢 かおり / 2021)

本の目次

まえがき(唐沢かおり)

第1章 社会的認知とは (唐沢かおり)
    1. はじめに
    2. 目的とテーマの構造
    3. 認知革命と社会的認知
    4. 問題意識の展開:キーワードと人間観を軸として
    5. 社会心理学に何をもたらしたのか
    6. 新たな地平に向けた議論へ

第1部 社会的認知の基礎

第2章 対人認知 (宮本聡介)
    1. はじめに
    2. 対人認知における対応バイアス
    3. 各種の特性推論
  
第3章 ステレオタイプ (田戸岡好香)
    1. ステレオタイプとは
    2. ステレオタイプの内容とその影響
    3. ステレオタイプ・偏見の維持過程
    4. 偏見・ステレオタイプの低減
    5. おわりに

第4章 自  己 (尾崎由佳)
    1. はじめに
    2. 自己認知
    3. 自己制御
    4. ま と め 

第5章 認知と感情・動機 (橋本剛明)
    1. 感情喚起を規定する要素としての「認知」
    2. 感情が判断に与える影響
    3. 感情と情報処理スタイル
    4. 対人的相互作用の中での感情の効果
    
第6章 自動的処理と統制的処理 (北村英哉)
    1. 印象形成の文脈効果:社会的プライミング
    2. 動機づけの関与
    3. ステレオタイプの自動性と統制性
    4. 偏見と潜在態度
    5. 2過程モデル
    6. おわりに:統制可能性をめぐる考察

第7章 心と文化の相互構成過程 (橋本博文)
    1. 文化の定義
    2. 文化の開梱アプローチ
    3. 文化心理学のアプローチ
    4. 心や行動の文化的多様性:その具体例
    5. 文化的多様性の説明を目指す近年の試み  
    6. 心と文化の動的な関係を再考する
    7. ま と め 

第2部 社会的認知の展開

第8章 神経科学と社会的認知 (柳澤邦昭・阿部修士)
    1. 脳機能イメージングにおける解析手法の発展:
     単変量解析から多変量解析へ
    2. 他者の心の理解
    3. 社会的表象
    4. おわりに:今後の展望

第9章 ウェル・ビーイングと社会的認知 (堀毛一也)
    1. ウェル・ビーイングの定義と測度
    2. ウェル・ビーイングの理論と社会的認知
    3. ウェル・ビーイングの判断のプロセスに関する研究
    4. ウェル・ビーイングの統合的モデル
    5. おわりに

第10章 AI・ロボット工学と社会的認知 (谷辺哲史)
     1. 社会的認知の対象としてのAI・ロボット
     2. 人工物の振る舞いに知覚される心
     3. 心の知覚の2次元構造と道徳判断
     4. AI・ロボットの道徳的責任
     5. AI・ロボットの道徳的権利
     6. 日常場面における人とロボットの相互作用
     7. おわりに

第11章 組織における社会的認知 (池田 浩)
     1. はじめに  167
     2. 社会的認知の視点から見たリーダーシップ過程
     3. リーダーの社会的認知とリーダー行動
     4. フォロワーによるリーダー/リーダーシップ認知
     5. リーダーによる原因帰属とリーダー行動
     6. おわりに

第12章 実験哲学と社会的認知 (鈴木貴之)
     1. 実験哲学とは
     2. 心知覚の社会心理学と実験哲学
     3. 自由意志の社会心理学研究と実験哲学研究
     4. 道徳の社会心理学と実験哲学
     5. 哲学・実験哲学・社会心理学

第13章 結果の再現性問題 (藤島喜嗣)
     1. 科学としての社会心理学とその課題
     2. 再現性の危機
     3. 再現性はなぜ低いのか?
     4. 自浄作用と研究の再考

第14章 人間知と実証的根拠に基づく公共政策 (白岩祐子)
     1. 人間知の展開
     2. 政策策定プロセスにおける実証研究
     3. 課題と展望

索引

 

関連情報

著者インタビュー:
INSPIRATIONS 社会イノベーションをめぐる対話 vol.06「社会イノベーションに欠かせない多面的な視点と地道な対話」(前編) - 社会心理学者は加速するデジタル社会をどう見ているのか (日立評論 創刊100周年記念サイト)
https://www.hitachihyoron.com/jp/100th/inspirations/06_1.html
 
INSPIRATIONS 社会イノベーションをめぐる対話 vol.06「社会イノベーションに欠かせない多面的な視点と地道な対話」(後編) - 大学と企業が挑むオープンイノベーションの新しい形 (日立評論 創刊100周年記念サイト)
https://www.hitachihyoron.com/jp/100th/inspirations/06_2.html

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