東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

クリームイエローの表紙

書籍名

合意形成モデルとしてのASEAN 国際政治における議長国制度

著者名

鈴木 早苗

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2014年2月19日

ISBN コード

978-4-13-036253-5

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

合意形成モデルとしてのASEAN

英語版ページ指定

英語ページを見る

多数決制とならび、国際社会で一般的に採用されている意思決定方法としてコンセンサス制があります。コンセンサス制の下では、参加各国に拒否権が与えられるため、合意がなかなか成立しないという問題が生じます。にもかかわらず、これまで国際社会では多くの合意がコンセンサス制にもとづき成立してきました。では、参加国は、どのような条件で与えられた拒否権の行使を控えるのか。本書は、東南アジアの地域機構である東南アジア諸国連合 (ASEAN) を事例に、拒否権の不行使のメカニズムの解明に取り組んでいます。ASEANでは設立以来、コンセンサス制が採用されてきました。拒否権行使が担保されているにもかかわらず、加盟国は利害を対立させる中でも、拒否権を行使せず、合意を作ってきました。本書では、議長国制度が拒否権の不行使を促す機能を果たし、合意形成に寄与してきたことを実証しました。
 
議長国制度とは、加盟国が一定のルールのもとで会議の議長を担当し、議事運営を担う利害調整に関する制度です。本書では、議長担当ルールの定着をもってこの制度の成立を確認しています。ASEANの場合、議長国は全加盟国が持ち回りで担当します。議長国制度はASEAN設立後、比較的早い段階で成立し利害調整ルールとして機能し始める一方、明文化がなされなかったという意味で長く不文律の制度であり続けました。この制度がASEAN諸国の利害調整にどのような帰結をもたらしたかについて、本書が明らかにしたのは以下の二点です。第一に、議長国制度のもとでは、制度が不在の時と比べて、拒否権の不行使の傾向がみられることです。つまり、合意成立を容易にするために議長国が議事運営を担うことを加盟各国が互いに了解したため、拒否権の不行使を促すための協議の場が議長国によって設定されればされるほど、合意が成立しやすくなるということです。第二に、議長国制度のもとでの利害調整の帰結は、少なくとも議長国の不利にならない傾向があることです。議長国の議事運営上の権限の強弱は、加盟国間の共通了解によって規定されます。数少ない加盟国で運用する輪番制という特徴をふまえると、ASEANの議長国の権限は比較的強いと考え、強い権限のもとで議長国は自国の利害を帰結に反映しやすい点を明らかにしました。
 
本書が事例としたASEANでは、加盟各国が平等な立場で意思決定に参加することが重視されてきました。コンセンサス制の採用や輪番制の議長国制度は、平等性を担保した制度であるといえます。ASEANのような組織は、国家間の主権平等を原則とする国際社会において、最も基本的な国家間の協力形態です。その意味で、本書は、国家間の合意が形成されるメカニズムの一つを提示したともいえます。

 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 鈴木 早苗 / 2021)

本の目次

序 章 ASEANにおける合意形成
1. 国際レジームとしてのASEAN
  2.ASEANの意思決定はどのように分析されてきたのか
  3.本書の議論と構成——合意形成と議長国の役割
 
第1章 ASEANと利害調整ルールとしての議長国制度
1.ASEANとはどのようなレジームか
  2.利害調整ルールとしての議長国制度
  3.利害対立下での議長国の立場
 
第2章 事務局の設置と権限に関する合意形成
1.事務局の設置と権限をめぐる利害対立
  2.事務局の設置をめぐる駆け引き
  3.事務局の権限をめぐる攻防
  4.小括——議長国制度の成立
 
第3章 カンボジア紛争における対ベトナム強硬路線の策定
1.対ベトナム強硬派と柔軟派の対立
  2.親ベトナム路線の模索と挫折
  3.反ベトナム路線の確立
 
第4章 カンボジア紛争におけるベトナムとの対話路線の策定
1.ベトナムとの対話路線の再開
  2.ASEAN対話者・インドネシアによる対ベトナム外交と対話の模索
  3.小括——議長国制度の定着
 
第5章 ミャンマー・カンボジアの加盟承認
1.新規加盟をめぐる利害対立
  2.ミャンマーの早期加盟に至る協議
  3.カンボジアの加盟遅延に至る紛糾
 
第6章 内政不干渉原則の見直し論議
1.ASEANの組織原則をめぐる対立
  2.内政不干渉原則の見直しをめぐる応酬
  3.内政不干渉原則の再確認と相対化の試み
  4.小括——議長国制度の持続
 
終 章 国際合意の形成と議長国制度
1.拒否権の不行使と議長国に不利にならない帰結
  2.2000年以降のASEANと議長国制度の持続
  3.国際政治における議長国制度の有用性
 

関連情報

本書は、公益財団法人大平正芳記念財団第27回学術研究助成費にて出版
http://ohira.org/27-research-grant/
 
書評:
大矢根聡 評 (『アジア経済』第57巻 第2号 2016年)
https://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Ajia/201606.html
 
大賀 哲 評 (『国際政治』2015巻180号 2015年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kokusaiseiji/2015/180/2015_180_149/_article/-char/ja/
 
関連記事:
助川成也 (国士舘大学政経学部 准教授)「停滞する東ティモールのASEAN加盟問題」 (『世界経済評論IMPACT』 2019年4月15日)
http://www.world-economic-review.jp/impact/article1336.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています