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アブラヤシ農園で水やりする人の写真

書籍名

アブラヤシ農園問題の研究II【ローカル編】 農園開発と地域社会の構造変化を追う

著者名

林田 秀樹 (編著)、 永田 淳嗣ほか (著)

判型など

316ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月10日

ISBN コード

9784771034341

出版社

晃洋書房

出版社URL

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アブラヤシ農園問題の研究II【ローカル編】

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日本ではアブラヤシと聞いてその姿やオレンジ色の果実がぎっしりと詰まった果房を思い浮かべることができる人は少ないかもしれない。アブラヤシから作られるパーム油も日本のスーパーの食用油売り場で見かけることはまずない。しかし、スナック菓子やチョコレートなどの食品、石鹸や洗剤の原料に用いられる植物性油脂として、パーム油・パーム核油は日本の消費者にとっても実は身近な存在である。
 
アブラヤシは年中高温多雨の熱帯雨林気候地域での栽培に向いている。とりわけマレーシア、インドネシアを中心とする東南アジアで、1970年代以降、世界の油脂需要の高まりに牽引される形で急激に栽培面積が拡大した。マレー半島やスマトラ島、ボルネオ島では、代表的な作物であったゴムに置き換わり、さらに未開発の丘陵・山岳地帯や低湿地帯にまでその拡大は及んだ。プランテーション (大農園) での生産だけでなく農民による小規模な農園での生産も盛んである。こうした事態は、農園開発のための森林火入れに伴う大量の煙が他の要因とも相まって東南アジア島嶼部の広い地域を覆った1997年の大煙霧災害を機に、地域社会のみならず広く国際社会の耳目を集めることとなった。未開発地域での農園拡大は熱帯林減少の裏返しでもあり、生産現場の労働環境にも注目が集まって、地球環境や人権に関わる重要な問題として広く認知されるようになったのである。
 
本書は、姉妹編として同時出版された『I グローバル編』とともに、2009年~2018年にかけてほぼ月1回のペースで、多様な分野の研究者、実務家を巻き込んで開催された「アブラヤシ研究会」のメンバーが中心となって、アブラヤシ農園拡大という現象の全体像と問題の所在、将来に向けた指針を示すべく編集されたものである。研究会では専門や立場を超えて熱のこもった議論が展開されたが、私や、私と一緒に現地調査を進めてきた執筆者を多く含むのが本書『II ローカル編』である。副題には「農園開発と地域社会の構造変化を追う」とある。アブラヤシ農園問題といえば、熱帯林消失や労働者の人権といった点に焦点が当てられることが多く、これらの問題への対処が重要なことは言うまでもないが、私が執筆にあたって強く意識したことは、好むと好まざるとに関わらず、過去50年という年月を経て、マレーシアやインドネシアのとりわけ周辺的な地域において、地域の経済・社会、生態環境の中にアブラヤシ農園産業が広く深く根を下ろしているという現実である。農園の現場に足を運べば、そこにはアブラヤシとの関わりで日々の生活や人生の戦略を練る無数の労働者や従業員、農民や経営者、そしてその家族の姿がある。こうした人々の行動や考え方に深く接する時、アブラヤシ農園開発が良いとか悪いとか議論することの空虚さを感じるに違いない。本書からアブラヤシ農園問題研究の奥深さを感じ取って頂ければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 永田 淳嗣 / 2021)

本の目次

はしがき
 
第1部 アブラヤシ小農増大の社会的枠組みと趨勢
 
第1章 アブラヤシ栽培・流通における「産業と社会のジレンマ」とその調整方向―タイの事例から一
生方 史数
 
第2章 インドネシアにおけるアブラヤシ農園企業による小農支援方式(PIR)の変遷
河合 真之
 
第3章 インドネシアにおけるアブラヤシ栽培の空間的展開プロセス
小泉 佑介
 
第2部 アフラヤシ農園開発の先進地域―インドネシア・リアウ州の事例―
 
第4章 リアウ州におけるアブラヤシ農園産業の拡大と構造変化
永田 淳嗣
 
第5章 アブラヤシ農園企業における農園労働者の存在形態―リアウ州PTPN Vの事例分析―
新井 祥穂
 
第6章 在地住民によるアブラヤシ栽培への参入過程と生計活動の再編―リアウ州内2地域の比較から―
増田 和也
 
コラム1 住民によるアブラヤシ利用の原風景―西アフリカ・ギニアのフィールドから―
山越 言
 
第3部 小農アブラヤシ農園開発の変容過程―インドネシア西カリマンタン州の事例―
 
第7章 小農によるアブラヤシ栽培の受容をめぐって―ゴム栽培との比較から考える―
加藤 剛
 
第8章 小農アブラヤシ栽培の発展の軌跡―国営農園会社プラスマ入植者の事例から―
加藤 剛
 
第9章 西カリマンタン州における小農アブラヤシ農園の拡大過程―サンガウ県パリンドゥ郡の事例から―
林田 秀樹
 
コラム2 バイク,家,そして教育―「アブラヤシ収入」の使途の是非―
林田 秀樹
 
第4部 アブラヤシ農園開発のフロンティア
 
第10章 焼畑民によるアブラヤシ農園開発の多様な意義づけ
寺内 大左
 
第11章 小規模農家を対象としたRSPO認証の課題と可能性
寺内 大左
 
第12章 タイ農業の「すきま」を埋める―アブラヤシと現代タイ農村の社会生態空間―
藤田 渡
 
コラム3 アブラヤシ農園と祈祷師―ブリトゥン島の事例―
北村 由美
 
あとがき
 

関連情報

書籍紹介:
環境の本 (一般財団法人 地球・人間環境フォーラム『情報誌グローバルネット』 2021年5月号)
https://www.gef.or.jp/globalnet202105/globalnet202105-14/
 
新刊紹介 (フェアウッド・マガジン第199号 2021年3月2日)
https://fairwood.jp/fairwood-backnumber/1068/
 
イベント:
ボルネオカフェZOOmトーク with 林田秀樹氏 (認定NPOボルネオ保全トラスト・ジャパン 2021年11月27日)
https://www.bctj.jp/events/hidekihayashida-211127/
 
関連記事:
〈特集〉アブラヤシ農園拡大の政治経済学―アクター,言説,制度の視点から― (『東南アジア研究』55巻2号 2018年1月)
https://kyoto-seas.org/wp-content/uploads/2017/07/550203_Okamoto.pdf

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