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書籍名

公認心理師カリキュラム準拠シリーズ 臨床統計学 公認心理師カリキュラム準拠「心理学統計法・心理学研究法」

著者名

石井 秀宗、 滝沢 龍 (編)

判型など

248ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月

出版社

医歯薬出版株式会社

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書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

臨床統計学

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「臨床」とは「床に臨む」というところからきた言葉であり、床に横たわらざるをえない人に対して「何か手助けすることはありませんか?」と問うことから始まる。心理専門職が臨床の現場において対することになる心に関する問題は、一つ一つは個別性が大きく、柔軟に対応していくことになる。一方で実践を重ねていくと、少し離れたところから見直してみると、ある「まとまり」や「パターン」が見えてくるようになる。その「まとまり」を用いて説明し、それに基づいて一緒に対処を考えるようにすると、うまくいくことを実感するようになる。これまで積み上げられてきた実践知を参考にすると、さらに「まとまり」が形になって明確になってくることがある。
 
こうした実践知には、過去の著名な臨床家の執筆物であることも多く、それはそれで味わい深いものであり、とてもしっくりきて参考になることもある。一方で、その筆者の視点によるバイアスも入っていることが多く、実際には臨床現場でいかしきれない場合や、どういかしてよいのかわからない場合もある。これは、筆者側の問題もあろうが、読者側の問題もあるのだろう。
 
そうした中で、心の問題に対する臨床においても、科学的証拠に基づく実践が注目されている。これは臨床家が現場で行っている心の問題に対する相談・介入の根拠を説明できるようにする。「科学」とは様々な定義があるが、「同じ手法で行えば、誰がどこで行ってもだいたい同じことがおこる、つまり再現性がある」ということだとすると、さきほど述べた「まとまり」や「パターン」をみていることになる。ある「まとまり」としての共通性や普遍性のある部分を心理学研究法や統計法で明らかにする、もしくはそこから読み取れる実践知を臨床現場で応用できることが理想的である。本書は、こうした科学的証拠に基づく実践を、臨床現場で応用するための基礎知識を学ぶものである。
 
本書「臨床統計学」は、広く心理学を学ぶ学生や、基本的な心理学研究法や統計法を学び直す方のために、公認心理師のカリキュラムに準拠する形で編集してみた。心理学研究法や心理学統計法の教科書は、これまでにも良書が多数あるが、今回は敢えて「臨床」に役立つ「統計学」を目指して、臨床・パーソナリティ・発達の分野を専門にする若手心理学者に執筆陣に加わってもらった。初級の臨床家にもわかりやすいように、教員と学生の会話調のイントロ、達成目標、コラムなどを設けてあり、試験対策に限らず広く利用できるはずである。
 
最後に、序章での本文の一部を抜粋して、本書の紹介をしめたいと思う。「臨床統計学の目指すところは、臨床にいきる統計学である。それは、論文を書くための研究メソッドや統計ソフトの操作スキルではなく、論理的に考えることや合理的に判断する力を涵養し、心理専門職をはじめとした臨床の現場にかかわるすべての者が臨床における課題に対応し、問題を解決することにつながる研究法や統計法である。」
 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 准教授 滝沢 龍 / 2021)

本の目次

序章. 臨床統計学の目指すところ (石井秀宗・滝沢 龍)
1章. 臨床研究法の理解 (シュレンペル レナ・滝沢 龍)
2章. データの収集 (出野美那子・滝沢 龍)
3章. データの構造 (稲吉玲美・滝沢 龍)
4章. データの記述 (齋藤 信)
5章. 量的変数間の関連の記述 (中村杏奈・滝沢 龍)
6章. 構成概念の測定 (谷 伊織)
7章. 統計的推測 (1) 統計的推定(石井秀宗)
8章. 統計的推測 (2) 統計的検定 (野村あすか)
9章. 平均値の比較 (1) 1要因分散分析 (川本哲也)
10章. 平均値の比較 (2) 2要因分散分析 (天井響子・滝沢 龍)
11章. ノンパラメトリック法 (二村郁美)
12章. 分割表の分析 (山内星子)
13章. 回帰分析 (浦野由平・滝沢 龍)
14章. 因子分析・構造方程式モデリング (鈴木雅之)
15. 新しい時代の研究と統計 (伊藤大幸)

関連情報

滝沢龍研究室ホームページ
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/~takizawa-lab/

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