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黒い表紙に生物や植物のイラスト

書籍名

ダーウィン「種の起源」を漫画で読む

著者名

チャールズ・ダーウィン (著)、マイケル・ケラー (編)、ニコル・レージャー・フラー (イラスト)、夏目 大 (訳)、 佐倉 統 (監修)

判型など

192ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2020年5月

ISBN コード

9784900963894

出版社

いそっぷ社

出版社URL

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ダーウィン「種の起源」を漫画で読む

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科学史上最大の発見のひとつ、進化論。人類が他の生物ひとつながりでそれらから進化してきた存在であるという事実は、人は神の子であり他の動物とは異なるというキリスト教的な人間観・生命観を根底から否定しました。
 
その進化論の立役者が、19世紀イギリスで活躍したチャールズ・ダーウィンです。彼が進化のメカニズムとして自然選択を提唱した『種の起源』は、まさに世界の見方を根本からひっくり返した革命的な書でした。必読中の必読です。
 
が、しかし。この本、とてつもなく読みにくい。とっつきにくい。ダーウィンはとにかく論理の飛躍を嫌います。だから、一歩一歩、いや、半歩半歩、ゆっくりゆっくりと足場を固めながら進んでいく。正直、読み進めるのはかったるい。なにせ160年以上前の本、今から見れば当たり前のことも書かれているし、言い回しも古くさい。
 
それらの艱難辛苦を乗り越えて、分厚い『種の起源』を読み終えれば、あなたの目の前には今までになかった新たな知的世界がぱーっと啓ける──とはなりません。そういうカタルシスが得られる書き方はされていないんだから。
 
しかし、だからといって、『種の起源』の知的メッセージを受け取らないのは、なんとももったいない。この本のエッセンスを知らずに生きていくなんて、人生半分損したようなものです。
 
そこで『種の起源』の内容はそのままに、読みにくい文章を回避して漫画で表現するという素晴しい企てを実現したのがこの本です。ダーウィンの原書の構成を忠実になぞりつつ、科学ジャーナリストのマイケル・ケラーがわかりやすくしかし科学的に正確な文章や台詞に翻案し、科学イラストレーターのニコル・レジャー・フラーが陰影のある絵で表現しました。
 
内容は『種の起源』にとても忠実で、章立ても原書のままです。さらに、ダーウィンが『種の起源』を出版するまでの科学史的な経緯やダーウィン以後の進化論の発展についても簡潔にまとめられていて、このあたりは原書より付加価値が多くなっています。なお、ぼくは日本語版の監修を担当していて「あとがき」を書いていますが、これも付加価値と言えるかどうかの御判断は読んだ方にお任せします。
 
その「あとがき」にも書きましたが、『種の起源』の結びの一文は、ダーウィンが進化論によって到達した新しい世界観、自然観を美しく謳い上げています。


「この[進化によって地球上の生命はすべてつながっているという]生命観は壮大なものである。(中略) 重力の普遍の法則に従ってこの惑星が回転している間に単純なものから始まり、極めて美しく素晴らしい生物が際限なく生まれ、進化してきたが、今もなおそれは続いているのである」([ ]は佐倉による追加)


現在話題になっているSDGsや人新世 (Anthropocene) も、根っこはすべてここ、『種の起源』にあります。その真髄を、本書で気軽に味わってほしいと思います。

 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 佐倉 統 / 2022)

本の目次

第1部 進化論の誕生
 
第2部 種の起源
 第1章 飼育栽培種における変異 
 第2章 自然界での変異 
 第3章 生存競争 
 第4章 自然選択、あるいは適者生存 
 第5章 変異の法則 
 第6、7章 学説の問題と様々な異論  
 第8章 本能 
 第9章 雑種形成 
 第10章 地質学的記録の不完全さについて 
 第11章 生物の地理的分布について 
 第12、13章 地理的分布 
 第14章 生物相互の類縁性、形態、発生、痕跡器官 
 第15章 要約と結論 
 
第3部 おわりに
 
解説◉『種の起源』とは何か/佐倉統
 

関連情報

原著:
『Charles Darwin's On the Origin of Species: A Graphic Adaptation』 (Rodale Books刊 2009年)
https://www.amazon.co.jp/Charles-Darwins-Origin-Species-Adaptation/dp/160529697X/

書評:
須藤 靖 評 (朝日新聞掲載 2020年9月5日)
https://book.asahi.com/article/13697478
 
書籍紹介:
ダーウィンのおすすめ本・書籍6選【伝記から有名著作まで】 (Rekisiru 2022年3月14日)
https://rekisiru.com/5998
 
ダーウィンはどんな人物? 自然学者としての人生や発見について紹介 (マイナビニュース 2021年5月23日)
https://news.mynavi.jp/article/20210523-1880847/
 
リーダーの本棚: 東大時代に挫折した『種の起源』 漫画でやっと腹落ち (NIKKEI STYLE 2020年11月7日)
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO65921770W0A101C2MY6000/

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