東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

サマ・バジャウの人々の生活風景のイラスト

書籍名

An Intimate Journey Finding Myself Amongst the Sama-Bajau

著者名

AOYAMA Waka

判型など

444ページ、B5変、上製

言語

英語

発行年月日

2020年3月

ISBN コード

9784814002788

出版社

京都大学学術出版会 + Trans Pacific Press

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

An Intimate Journey

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本書は、南部フィリピン、ミンダナオ島、ダバオ市に暮らす文化的少数者サマ・バジャウの移民とその子孫から成る6つの家族が困難な状況にありながらも日々の暮らしを生き抜いていく様相を描いている。その最大の特徴として、不在の他者―死者たちや生まれくる子どもたちーに当てた書簡形式の物語であることが挙げられる。
 
本書のもととなっている民族誌的調査は、1997年から2019年の長期に及ぶ。とくに最初の3年半においては、当時、経済学を専攻する博士課程院生であった著者自身がダバオ市に暮らしながら、量的調査と質的調査を組み合わせ、サマ・バジャウの人びとの経済・政治・宗教生活について総合的なフィールドワークを実施した。サマ・バジャウは東南アジア海域世界に生きる「海の民」として人類学的研究を中心に一定の蓄積がある。しかし、南部フィリピンでの紛争による治安悪化により、都市部に移住したサマ・バジャウの生活実態についてはほとんど明らかにされておらず、その点、本書は画期的な作品であり、資料的および史料的価値がある。
 
本書を英語で書いた理由は、何よりもまず、サマ・バジャウの人びとを含め、フィリピンの人びとに届けたかったからである。ただし実際には、英語で書いたからといって調査地の人びとにはほとんど届かない。というのは、調査地の人びとの就学率や識字率はだんだん上がってきているとはいえ、英語で読書するというのは現在のところ生活の一部とはなっていないからである。だから、著者は本来であれば、調査地の人びとが著者にしてくれたように、オーラルで、つまり声で、物語を語るように本書の内容を伝えるべき責を負っている。しかしながら、声によるナラティブよりも文字によるナラティブのほうに圧倒的に親しんできたわたし自身が声で語り出すためには、いったん文字でこの物語を書き起こす必要があった。
 
また、本書では、論理実証科学としての知ではなく物語りとしての知という形を選んだこともユニークである。理由は、本書を執筆し始めた時点で、調査地の人びとが著者に語ってくれたことを著者が語りなおす (ナラティブのナラティブ) ことに意味を見出したからである。語りなおす主体としてのわたしは、語ってくれた人びと (他者) ととの関係のなかで生成される自己としてしか存在しえない。逆にいえば、デカルトがいうように観察対象から自分自身を切り離してしまえば、わたしは語れなくなってしまう。こうした他者との相互作用のなかで生成される自己のあり方や知識生産の方法について、本書のなかでは、アメリカの哲学者トマス・P・カスリスが『インティマシーあるいはインテグリティーかー哲学と文化的差異』(法政大学出版局2016年) で提起した「インティマシーな自己」という概念に依拠して説明している。

 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 青山 和佳 / 2021)

本の目次

Figures
Photos
Author’s Bibliography
Acknowledgements
 
Introductory Letter: Before Embarking on a Long Journey
Letters
 1 The Bajau in Davao City Under Mayor Duterte’s Administration in the Late 1990s
 2 Guwapo’s Family
 3 Mama Biraiya’s Family
 4 Papa Melcito’s Family
 5 Kaluman’s Family
 6 Magsahaya’s Family
 7 Living a New Life as ‘Christian Bajau’: From the Experience of Pastor Joseph’s Family
Concluding Letter- An Intimate Reflection: After a Long Journey
Epilogue: Nakajima Takahiro’s Comments and the Author’s Reply
 
Glossary
Notes
Bibliography
Geographical Name Index
Personal Name Index
Subject Index

 

関連情報

本書は、青山和佳. 2006.『貧困の民族誌ーフィリピン・ダバオ市のサマの生活』東京大学出版会 (日本語) を大幅に改稿および、対象とする調査期間を拡大した上で加筆し、英語で新たな作品として制作したものである。前掲書を含め、一連のサマ研究に関して、著者は2012年に第8回学術振興会賞を受賞している。

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