東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

葉タバコの収穫をする人の写真

書籍名

タバコ産業の政治経済学 世界的展開と中国の現状

著者名

丸川 知雄、 李 海訓、 徐 一睿、 河野 正

判型など

260ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年5月31日

ISBN コード

9784812220245

出版社

昭和堂

出版社URL

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タバコ産業の政治経済学

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皆さん、タバコにいいイメージ持っていますか?
 
私は持ってないです。最近はそういう経験をすることが稀になりましたが、ラーメン屋で、自分のラーメンが運ばれてきたときに、隣の客がタバコを吸い始めたら最悪です。ラーメンの味も香りも台無しになり、スープは単なる塩辛い汁になります。何度喫煙者を恨めしく思ったかわかりません。
 
でもタバコ産業は経済にとっては重要です。日本で国と地方がタバコから徴収する税は年間2兆円で、これは自動車の取得と保有にかかる税の半分に相当します。要するに税源としてみた場合、タバコ産業は自動車産業の半分ぐらい重要だというわけですが、その割にタバコ産業のことはあまり知られていませんよね。
 
研究の世界からみても、自動車産業に関する研究は山ほどあるのに対して、タバコ産業に関する研究は数えるほどしかありません。
 
私たちがこの本を出そうと思った重要な動機は、葉タバコを栽培することが農村の貧困を解決するうえでとても効果的だということがわかったからです。私たちは中国の内陸部で葉タバコ産地をいろいろと訪ねて回りました。河南省の葉タバコ産地は黄河の近くの黄土の台地にありました。台地の上なので、灌漑は困難で、この場所で育つのは乾燥に強いトウモロコシか葉タバコぐらいしかありません。トウモロコシは価格があまりに安くてほとんど黒字にならないぐらいですが、葉タバコは農家1軒あたり1ヘクタールも作れば、毎年安定した収入が得られます。
 
雲南省でも四川省でも、葉タバコは特産物もなければ広大な平地もなく、都市近郊でもないところ、つまり他に何の取り柄もない山間部の農村で栽培されています。そんな地域でも、葉タバコを作っていれば、喫煙者たちがせっせとタバコを吸ってくれているおかげで貧困から脱却できるのです。
 
人類とタバコの付き合いは1000年以上に及びますが、タバコ産業が大きく成長したのは20世紀で、そのきっかけは19世紀末に紙巻きタバコを大量生産できる機会が発明されたことでした。2度の世界大戦によってタバコが大いに普及し、1960年代には日本でもアメリカでも成人男性の8割が喫煙者でした。
 
でも21世紀に入ってから喫煙率は世界的に下落しており、下落傾向が逆転することはないでしょう。
 
長期的には衰退することがほぼ確実な産業ではありますが、本書はタバコ産業について21世紀の高みから20世紀の全体像を見渡すことができる稀有な本です。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 丸川 知雄 / 2021)

本の目次

序 章 シガレットの世紀 (丸川知雄)
 
第I部 タバコ産業の世界的潮流
 
第1章 タバコの生産プロセス (丸川知雄)
第2章 タバコ産業の現代史―BATが世界に与えた影響 (丸川知雄)
第3章 タバコ課税の世界的潮流と中国の税制改革 (徐 一睿)
第4章 タバコと健康の政治 (丸川知雄)
 
第II部 現代中国のシガレット産業と葉タバコ農業
 
第5章 計画経済体制下のタバコ産業 (河野 正)
第6章 シガレット産業の成長と「計画」の難航 (李 海訓)
第7章 2000年代以降のシガレット産業の競争と再編 (丸川知雄)
第8章 葉タバコ産地の変遷 (李 海訓)
第9章 救貧作物としての葉タバコ―雲南省を中心に (李 海訓・丸川知雄)
第10章 葉タバコ農業の大規模化 (丸川知雄)

関連情報

書籍紹介:
近着の図書紹介 (日本国際貿易促進協会『国際貿易』 2021年7月5日)
https://japit.or.jp/
 
歴史と全体像描く『タバコ産業の政治経済学』 (『朝日新聞』 2021年7月3日)
https://book.asahi.com/article/14387713
 
書評:
堀井伸浩 (九州大学) 評 (『中国経済経営研究』第6巻第1号 2022年5月)
http://jacem.org/japanese/zenbun.html#emvol10
http://jacem.org/pdf/ecomana/em_11_43_47_horii.pdf

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