東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にヴァイオリンを演奏する著者の写真

書籍名

金のオタマジャクシ、そして感性の対話 世界に音楽が必要な理由

著者名

近藤 薫

判型など

300ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年6月

ISBN コード

978-4-910038-32-2

出版社

花乱社

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金のオタマジャクシ、そして感性の対話

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本書は、私なりの芸術考・各分野のトップランナーとの対談・新聞連載したエッセイ、というユニークな3部構成になっている。このユニークな形を取ったわけは、本書の中心的な話題であり言語によって語ることが非常に難しい『芸術』を、なるべく正確に読者に伝えるため、構成そのものに工夫を凝らす必要があったからだ。つまり3部に分かれ、それぞれで切り口や表現の濃淡は違えど、その実はどれも同じことを語っており、全体として感覚的に捉えていただきたい。
 
私の専門であるクラシック音楽の演奏には、非常に高度な技術と専門的な知識が必要になってくる。特に技術面の習得には長い年月をかけた修練が必須で、特にピアノやヴァイオリンについては幼少期から毎日稽古をしなくてはならない。実際、私も2歳半頃からヴァイオリンを弾き出し、おそらく文字よりも先に音符を読んでいただろう。そして、言語による情報の交換とは違う種類の、『音』を使ってのコミュニケーションをし続けてきた結果、音楽家でない人達とは世界の見え方が少し違うように思う。言語は、自分と他人、リンゴとミカンのように、主体と外部世界を分ける、個体を分けるという性質がある。分けることは情報化するということで、情報は意識下で扱い文字化できる。一方、音楽や芸術は分けることが出来ないもので、その表出活動は無意識下で行われることが多い。私が演奏をしている時、無意識にも階層があると感じられることがあり、そして無意識と意識の距離が縮まり同化し、無意識を認識している状態、つまり分けられる前の世界を認識出来る状態に陥ることがある。第1部の「東京大学先端研のヒマラヤ杉 円融無碍の時代」、第2部「バッティストーニ氏との対談」、第3部エッセイの「ゾーン」では、まさにそのことについて書かれており、芸術が何であるかを示す一つの表現である。
 
また、そんな芸術が何故社会に必要なのかという問いかけは、Human-CenteredではなくNature-Centeredな視座を持つ社会の構築を目指す東京大学先端研・先端アートデザイン分野のメインテーマの一つである。Nature=自然は、一切のバランス・調和が取れており、そこには不必要なノイズはなく、なおかつ常に流動的に新陳代謝を繰り返している。これはSDGsで云われるような持続可能な社会を、またあらゆるものを包括的に捉えた社会を実現しようとする時の最良のモデルである。意識下の認知能力を使って自然をコントロールしようとするHuman-Centeredから人と自然を分けず一体であるとするNature-Centeredにシフトするのに必要なのは、真に芸術を社会に落とし込む「芸術環境創造」で、それは社会全体が芸術とは何かを問い続けるということであり、本書はまさにその問いかけでもある。

 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 特任教授 近藤 薫 / 2021)

本の目次

序文 東京大学先端科学技術研究センター所長 神崎亮平

まえがき 社会にとって芸術とは何か 

【I】感性の時代  このいわく言い難いものこそ
 今こそ芸術を語る/芸術とは何か Art Origin と Art Expression
 東京大学先端研のヒマラヤ杉 円融無礙の時代/リモートオーケストラというコンセプト・アート
 感性の時代/エントロピー増大の法則を、社会に当てはめる
 社会と芸術のリバランス

【II】感性の対話
 音楽は自分自身が誰かということを聞くこと 
    対話者:東京フィル首席指揮者 アンドレア・バッティストーニ氏
 “変わった子ども”が心を開く時 異才発掘プロジェクトROCKET 
    対話者:東京大学先端研特例教授 中邑賢龍氏
 言葉や音楽は、発信者の見えないものも伝わる
    対話者:NHK福岡放送局キャスター 佐々木理恵氏 
 五感に働きかける総合芸術・酒場と音楽
    対話者:Bar The TRADマスター 川﨑堅城氏
 テクノロジーの未来、問題を見つけるために芸術がある
    対話者:楽天グループ株式会社 常務執行役員 古橋洋人氏

【III】金のオタマジャクシ 秘密の音符を探す僕の旅
 ゴールデン・ノート/道しるべ/便 利
 ちかしオケ/本 番/ピンとポン
 小値賀にて/九 響/すぎやま先生
 非効率の芸術/ラジオ体操/BGM ほか
 

関連情報

著者インタビュー:
社会にとって音楽とは 東京フィルコンサートマスター近藤薫さんインタビュー (信濃毎日新聞デジタル 2022年2月14日)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022021400114
 
関連記事:
コンサートマスター 近藤 薫 が語る
チョン・ミョンフン指揮「ブラームス 交響曲の全て」 (東京フィルハーモニー交響楽団ホームページ 2021年9月15日)
https://www.tpo.or.jp/information/detail-20210828-03.php
 
ラジオ出演:
サトコノヘヤ #231.近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター) (九州朝日放送 2021年12月5日
https://kbc.co.jp/r-radio/satoko/detail.php?cdid=24619
 
書評:
おすすめ読書館 (西日本新聞 2021年8月7日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/781944/

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