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黒、ピンク、白の表紙

書籍名

蘭花百姿 東京大学植物画コレクションより 明治期から現代までの植物画や植物標本でたどる蘭の博物誌

判型など

208ページ、A4変形

言語

日本語

発行年月日

2022年5月12日

ISBN コード

978-4-416-52261-5

出版社

誠文堂新光社

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書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

蘭花百姿 東京大学植物画コレクションより

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本書は、東京大学総合研究博物館と日本郵便株式会社が協働で運営をおこなうミュージアム「インターメディアテク」(東京・丸の内) にて2021年に開催した、同名の特別展示の関連書籍である。本展示では、明治期から現代まで、東京大学の植物学研究の傍らで描かれてきた多種多様な蘭の植物画とその関連展示物を一堂に会し、蘭という植物の生態を解き明かす自然誌から蘭と関わる人々の営みを捉える文化史までを射程として、「蘭の博物誌」をたどることを試みた。この展覧会は、多種多様な蘭の姿を科学的に観察するとともに美術的に賞翫する機会となった。本書は、科学と美術を架橋する「蘭の博物誌」というテーマを紙上にて新たに展開することを目的としたものである。本書の社会的な意義の一つには、コロナ禍中で開催された特別展示の会場に足を運ぶことができなかった人を含めた多くの人々の手元に、いわば紙上の展覧会として「蘭の博物誌」を届けることを可能にした点が挙げられる。
 
本書には、「蘭花百姿」の名の通り、特別展示で公開した東京大学コレクションを中心とする資料から100点を図版として選び、参考図版10点とともに掲載している。これらには、貴重な明治期の植物画をはじめ、植物標本、図譜・書籍、絵葉書、写真など初公開のものが多数含まれる。各図版には充実した解説を付しており、例えば植物画については、描かれたラン科植物の分布域や生態的特徴といった植物学的基本情報、描画の美術的な特徴、植物画と植物学研究のつながりやその制作の背景がわかる情報を組み合わせた記述となっている。このような学際性は、本書が伝える研究成果の大きな特徴の一つである。
 
本書の構成は、序章「蘭 (ラン) とは」から始まり、蘭の植物画を扱う第一章「画工の仕事」、第二章「大久保三郎とマメヅタラン」、第三章「中島睦子の蘭解剖図」、植物標本を扱う第四章「ラン科植物標本」、関連資料を扱う第五章「植物園」、第六章「植木鉢」、第七章「西洋の蘭図譜」、より広く周辺資料を扱う第八章「蘭の趣味」へと、植物画を中心部として各章のトピックが同心円状に拡張しながらつくられる「蘭の博物誌」をイメージしている。本書に収載した、文理各分野の研究者や標本図作家による、蘭にまつわる多角的な視点からのエッセイは、「蘭の博物誌」の世界をより充実したものとする役目を果たしている。
 
本書では、植物画の描き手として、明治期に大学雇いとして植物等の学術標本の描画に従事していた専門画家である画工から、現代の世界水準の標本図作成のプロセスを知ることができるイラストレーターまでを扱う。いわゆる芸術家とは異なり、彼らの名前が表に出ることは少ないため、本書が取り上げる植物画の描き手の多様性は類例を見ないだろう。また、植物学のもっとも基本的な研究資料である一方、専門家以外の目に触れる機会の少ないおし葉標本を紹介し、植物画が植物学の研究ツールとして植物標本を補完する関係にあることを示すとともに、明治期から昭和期までのラン科植物標本というモノから、その採集や記載等に携わった、東京大学植物標本室に関係する人々を浮かび上がらせ、東京大学の植物学研究の歴史の一端を紐解いている点は、博物館資料に基づく歴史研究へのアプローチとなっている。
 

(紹介文執筆者: 総合研究博物館 特任准教授 寺田 鮎美 / 2022)

本の目次

[イントロダクション]
・蘭花百姿 博物誌の展示学   寺田鮎美
 
[エッセイ]
・画工の仕事 渡部鍬太郎と高屋肖哲が描いた植物画   藏田愛子
・東京大学の植物研究と日本産ラン科植物の保全   根本秀一
 
序章 蘭(ラン)とは
第一章 画工の仕事
第二章 大久保三郎とマメヅタラン
第三章 中島睦子の蘭解剖図
第四章 ラン科植物標本
第五章 植物園
第六章 植木鉢
第七章 西洋の蘭図譜
第八章 蘭の趣味
特別展示『蘭花百姿 東京⼤学植物画コレクションより』会場風景
 
[エッセイ]
・加藤竹斎の植物画にみる小石川植物園のラン科植物   邑田 仁、邑田裕子
・大久保三郎が発見したマメヅタラン   池田 博
・ラン科植物の研究資料 花の構造を再現する工夫に注目して   遊川知久
・ラン科植物を描く   中島睦子
・ラン科植物と動物の共進化   松原 始
・蘭の文学   寺田鮎美
 
[巻末資料・索引]
・主要参考文献
・主要人物略伝
・学名索引
・植物名・動物名和文索引
・人名索引
 

関連情報

受賞:
UMAC Award 2022 Second Place受賞  (ICOM - 国際博物館会議 2022年9月18日)
http://umac.icom.museum/umac-award-2022-announced/

UMAC AWARD 2022: THE WINNER  (UMAC-ICOM University Museums and Collections | YouTube 2022年9月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=Tj25wca1KbY

UMAC AWARD 2022 Nominees (Episode 2): ORCHID BLOSSOMS, Tokyo University Museum / Intermediathèque  (UMAC-ICOM University Museums and Collections | YouTube  2022年9月8日)
https://www.youtube.com/watch?v=-8uvd91qHzc

特別展示:
インターメディアテク博物誌シリーズ〈8〉特別展示『蘭花百姿——東京大学植物画コレクションより』 (東京大学総合研究博物館 2021年6月19日−9月26日開催)
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/index/pasts/id/IMT0238/year/2021

e-HAGAKI 寺田鮎美03 蘭花百姿ー東京大学植物画コレクションより Ayumi Terada (INTERMEDIATHEQUE | YouTube  2021年7月5日)
https://www.youtube.com/watch?v=pYhz7VzHRSA
 

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