東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

アフリカの人々、街並み、食事の写真

書籍名

シリーズ地域研究のすすめ 2 ようこそアフリカ世界へ

判型など

274ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年7月25日

ISBN コード

9784812221280

出版社

昭和堂

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ようこそアフリカ世界へ

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本書は、地域研究の学術書の出版で定評のある昭和堂の「シリーズ地域研究のすすめ」の一冊として、アフリカ————特にサハラ砂漠以南のいわゆる「サブサハラ・アフリカ」————という地域を、初学者に広くかつ分かりやすく学んでもらうことを目的に編まれた教科書である。目次を見てもらうと分かるように、執筆者はコラムの書き手も含めると総勢17名にのぼる。いちおうUTokyo BiblioPlazaにて東大教員が自らの著作について語るという体をとっているものの、実際には執筆者のうち東大教員は編者の2名 (遠藤・阪本) だけであることをまずは断っておきたい。執筆陣は、日本のアフリカ研究の最前線を担っている、あるいはこれから担おうとしている中堅・若手の研究者を中心に編成されており、専門分野は地理学・人類学・政治学・教育学・経済学・歴史学など多岐にわたる。
 
本書は事実上の2部構成になっている。前半は、アフリカ大陸の地理と景観 (第1章)、そこで生きる人々の生活世界 (第2章) や世界観 (第3章)、人々がこれまで歩んできた歴史 (第4・5章) といったように、この地域を広く導入する内容になっている。後半では、さまざまなテーマや課題を通して今日のアフリカの姿が多面的に描き出される。国家のあり方や政治体制 (第6章)、経済構造と開発への取り組み (第7章)、域内と域外の国際関係 (第12章) といったマクロな側面に加え、本書では、出稼ぎから強制移動まで人々のさまざまな移動のあり方 (第8章)、感染症への対応とその変遷 (第9章)、教育機会の拡大と格差 (第10章)、若者・高齢者・身体障害者・性的マイノリティといった人々が直面する社会的な包摂や排除 (第11章) など、いわゆる「人間の安全保障」————編者2人は東京大学大学院総合文化研究科「人間の安全保障」プログラムのメンバーでもある————に関わるテーマも意識して取り上げた。最後の第12章では、日本とアフリカとの浅からぬ関係についても知ることができる。さらに以上の各章には、寸評付きの読書案内とより粒度の高いテーマに焦点を当てたコラムも配されており、アフリカに関してさらなる学びや探究を進めていく上での助けになるであろう。
 
やや手前味噌になるが、執筆者の熱意と力量に裏打ちされ、各章とも大変熱のこもった、中身の濃い内容になっている。そのため関心を持った章やコラムを単独で読んでもらっても得るところが多いであろうが、編者としては、やはり一冊の教科書として、全ての章とコラムを通して読むことをおすすめしたい。その方が一つの地域を多面的・複合的に理解するという地域研究の作法にかなっているし、アフリカという多くの日本人にとって馴染み深いとは言えない地域と、本書を通じてさまざまに触れ合うことで、それだけ刺激に満ちた発見に出会う頻度も増すであろう。こうした出会いを通して、アフリカに限らず、現代世界に対する理解をより豊穣なものにしていってもらいたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 阪本 拓人 / 2022)

本の目次

序 章 アフリカ世界の魅力 (遠藤 貢)
 
第1章 地理と自然――多様な景観が織りなす大地 (藤岡悠一郞)
      コラム (1) 多様な生態資源と食文化 (藤岡悠一郎)
 
第2章 人々と生活――多様性、連続性、創造性 (佐川 徹)
      コラム (2) 「正しい法」の承認――外部からの介入が受容されるとき (川口博子)
 
第3章 人々の世界観――ひらかれ、つながる秩序と信念 (橋本栄莉)
      コラム (3) 悪魔と妖術師 (村津 蘭)
 
第4章 独立前の歴史――複数世界のなかのアフリカ史 (中尾世治)
      コラム (4) 歴史を再構成するための手法 (中尾世治)
 
第5章 独立後の歴史――国家建設の期待と苦悩 (阪本拓人)
      コラム (5) モブツ――冷戦の創造物 (武内進一)
 
第6章 国家と政治――揺らぐ国家像と政治体制の変容 (遠藤 貢)
      コラム (6) Extraversion――外向性・外翻 (遠藤 貢)
 
第7章 経済と開発――市場のなかのアフリカ (出町一恵)
      コラム (7) 統計がないということ (出町一恵)
 
第8章 越境する人々――移動によって広がるアフリカ世界 (松本尚之)
      コラム (8) アフリカの中華料理 (川口幸大)
 
第9章 感染症――アフリカは感染症対策の主役となれるのか (玉井 隆)
      コラム (9) 「マラリアなので早退します!」
               ――感染症と共に在る世界での生き方 (玉井 隆)
 
第10章 教育――問われる学校の意義 (有井晴香)
      コラム (10) カンニング――通信環境の発達の影 (有井晴香)
 
第11章 社会的包摂と排除――見落とされてきた地域社会の構成員 (仲尾由貴恵)
      コラム (11) ジェンダー――新たなアフリカの発見にむけて (眞城百華)
 
第12章 国際関係――重層的つながりのなかでの国家 (阪本拓人)
      コラム (12) 現代アフリカの水政治 (hydropolitics)
               ――ナイル川をめぐる流域国間の対立 (阪本拓人)
 
第13章 日本との関わり――その歴史を辿る(溝辺泰雄)
      コラム (13) ナイジェリアの「日本通り (ジャパンロード)」(溝辺泰雄)
 

関連情報

書籍紹介:
書籍紹介 (『国際貿易』第2386号 2022年10月15日)
https://japit.or.jp/newspaper/3.html

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