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木に押された焼印の写真

書籍名

林政史ブックレット 尾張藩の林政と森林文化 第1巻 御山守の仕事と森林コントロール

著者名

芳賀 和樹

判型など

89ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月31日

ISBN コード

978-4-88604-036-7

出版社

公益財団法人徳川黎明会 徳川林政史研究所

出版社URL

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御山守の仕事と森林コントロール

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本書は、江戸時代 (17~19世紀) の日本を対象にして、森林管理の歴史をまとめたものです。江戸時代と聞くと、皆さんは、はるか昔のように思うかもしれません。しかし樹木の一生を考えてみると、話は変わってきます。たとえば、現在、長野県の木曽谷地区や岐阜県の加子母(かしも)地区でみることのできる樹齢300年のヒノキは、18世紀の前半に芽吹いたものなのです。
 
ところで、この18世紀という時代は、日本の森林管理の歴史を考えるうえで、とても重要な時代です。17世紀前半には、江戸時代という新しい時代の幕開けにともない、各地で城下町などの建設ラッシュが起こり、建築用材の需要が拡大しました。この結果、全国の森林は乱伐により荒廃してしまい、17世紀後半には、森林を回復させるため、幕府・諸藩が伐採を抑制する方針を打ち出しました。さらに18世紀になると、幕府・諸藩は、利用方法をくふうして森林を保護したり、より人工的な方法で森林を育成したりするようになりました。つまり18世紀という時代は、それ以前と比較して、森林を人為的にコントロールしようとする志向が強まった時代なのです。
 
そこで本書では、江戸時代のなかでも18世紀に焦点を絞り、当時の森林管理の具体的な様子を、岐阜県加子母地区の内木(ないき)家に伝来した「古文書(こもんじょ)」に基づいて分析・紹介しました。この内木家は、享保15年 (1730) から「御山守(おやまもり)」という尾張(おわり)藩の役職を代々務め、「御山」「御林(おはやし)」と呼ばれる藩の直轄林を管理した家です。内木家の古文書を読み解くことで、尾張藩の森林管理について、次のような特徴が明らかになりました。
 
  (1) 状態の悪い樹木を優先的に伐採・利用することにより、状態の良い樹木を温存・育成したこと
  (2) 上記の伐採跡地に芽吹いた幼い樹木を保護することにより、森林の若返りを図ったこと
  (3) 種子の蒔き付けや苗木の植え付けという、より人工的な方法も採用したこと
 
以上のように尾張藩は、天然の力に依拠するだけでなく、人為的な働きかけを加えることにより、目的に応じた森林を育成しようとしていました。このような意味で、18世紀の尾張藩直轄林では、「天然資源の人工資源化」が進んだといえそうです。こうした動きを最前線で支えたのが「御山守」だったのです。
 
こうした江戸時代の人と森林の関わりの歴史からは、現在の森林の状況を理解し、さまざまな問題を解決するための手がかりを得ることができるのではないでしょうか。
 

(紹介文執筆者: 農学生命科学研究科・農学部 助教 芳賀 和樹 / 2023)

本の目次

 はじめに
 
1 内木家文書からみた御山守の仕事
    (1) 三浦山の「御境伐明ケ」
    (2) 御山見廻りと盗伐の取り締まり
    (3) 木曽材木方との書類のやりとり
    (4) 御山守の仕事の広がり
 
2 木口印入による森林コントロール
    (1) 尾張藩による枯損木・残材の活用
    (2) 御改木口印入への関与
    (3) 森林の観察とコントロール
 
3 樹木の育成テストと種子・苗木の供給
    (1) スギ苗の育成テスト
    (2) ヒノキの育成テスト
    (3) 木曽材木方からの種子の注文
    (4) 種子の集め方とその苦労
 
4 御山の利用と跡地での植林
    (1) マツの根株の掘り取りと「灯松」の利用
    (2) 低木の伐り払いと薪への利用
    (3) 御用材の伐採跡地への植林と山引苗
 
おわりに
 

関連情報

出版企画:
公益財団法人徳川黎明会徳川林政史研究所
https://rinseishi.tokugawa.or.jp/syuppan-kikaku/
 
受賞:
令和5 (2023) 年度 日本森林学会奨励賞受賞 (一般社団法人日本森林学会 2023年)
https://testsite.forestry.jp/award/award-arc/award2023/
 
書籍紹介:
尾張藩の山守りの歴史と、ブックレット (kakinokinoieのブログ 2020年6月9日)
https://ameblo.jp/kakinokinoie/entry-12602906048.html
 

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