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書籍名

華人文化主體性研究叢書 物語與日本哲學 哲學的民俗學轉向

著者名

張 政遠

判型など

264ページ

言語

中国語

発行年月日

2022年6月14日

ISBN コード

978-626-317-636-2

出版社

五南圖書出版股份有限公司

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「物語」とは何か。中国語ではしばしば「故事」や「叙事」に訳されているが、日本語では、「語り」は「騙る」と同じ発音であり、この意味では「カタリ」は本来「事実」を述べたものではなく、フィクションの要素を含んでいるのである。要するに、「物語」は「ストーリー」(story) ではなく、それは単なる事や出来事ではないからである。野家啓一は『物語の哲学』の中で、物語には二つの意味があると指摘している。物語は「語られたもの、物語」(that which is narrated, a story) である場合もあれば、「語る行為または実践」(the act or practice of narrating) である場合もある。旧版の『物語の哲学』には、「柳田國男と歴史の展開」という副題があったが、文庫版では削除されている。それは「柳田國男論」を展開するつもりはないからである。野家の研究テーマは民俗学や文化人類学ではなく、哲学であることは明らかである。しかし、野家の「物語」の哲学と柳田の「物語」の思想には、重要な関係があるように思われる。『物語の哲学』の第一章の中で、柳田國男の『遠野物語』に言及しているが、『遠野物語』は厳密にいえば柳田自身の作品ではなく、岩手県遠野郡の「口承記憶」を書き直したものである。例えば、柳田は、地元の佐々木嘉兵衛が若かりし頃、山狩りをしていた時に伝説の「山女」に出会い、射殺したという話を引用している。証拠として残そうと、少女の髪の毛を一本切ったが、下山途中で仮眠をとっていると、背の高い「山男」に奪還されてしまった。「山男」と「山女」の存在を証明するものはないが、「物語」という形で語り継がれている。また、東日本大震災の時、野家は東京にいたものの、仙台の自宅が大きな被害を受け、「被災者」として柳田國男を読み直そうとした。1896 年の三陸大津波は、東北沿岸に大きな被害をもたらしたが、1920年には柳田が被災地を訪れた。唐桑町などでは津波の傷跡が残っていたが、「恨み綿々などと書いた碑文も漢語で、もはやその前に立つ人もない」ことに心を痛めた。文学は絶大な力を持っているはずだったが、忘却された文学は無力である。柳田は、活字文化のブームで口承文学が力を失っていることを危惧しており、情報が氾濫し、出版業界に多大な圧力がかかっている今日においては、口承文芸が消滅する危険性さえある。というのは、私たちは語りを聞くよりも、インターネットやSNSで情報を集めているからである。野家の『物語の哲学』に触発されて、『物語と日本の哲学』という本を書くことにした。日本では「物語」というと、一般的には「文学」(『竹取物語』『源氏物語』 『平家物語』など)や「民俗学」(『遠野物語』など) としか関係がないと思われているが、「物語」が文学や民俗学から哲学へと跳ぶことを示したい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 張 政遠 / 2023)

本の目次

導 論
 
第一章 御進講與日本哲學 (第一章 御進講と日本哲学)
一、天皇的教養
二、西田幾多郎、和辻哲郎與高橋里美的進講
三、從「Philosophy for Emperor」到「Philosophy for Everyone」
 
第二章 九鬼周造論實存 (第二章 九鬼周造の実存論)
一、存在、生存、實存
二、九鬼周造的「實存哲學」
三、偶然性與臺灣哲學
 
第三章 三木清的生與死 (第三章 三木清の生と死)
一、三木清與西田幾多郎
二、技術哲學
三、死亡哲學
 
第四章 唐木順三的無常論 (第四章 唐木順三の無常論)
一、はかなし
二、無常
三、無常的形而上學
 
第五章 新渡稻造的平民道 (第五章 新渡戸稲造の平民道)
一、新渡戶稻造
二、啟蒙與殖民
三、平民道與武士道的山
 
第六章 柳田國男的山人論 (第六章 柳田國男の山人論)
一、倫理
二、柳田的倫理學
三、啟示
 
第七章 柄谷行人的遊動論 (第七章 柄谷行人の遊動論)
一、從批評到哲學
二、交換模式
三、雨傘運動與琉球獨立
 
第八章 吉本隆明的南島論 (第八章 吉本隆明の南島論)
一、獨立論
二、南島論
三、同祖論
 
第九章 和辻哲郎的巡禮哲學 (第九章 和辻哲郎の巡礼哲学)
一、古寺巡禮
二、臺灣巡禮
三、哲學的民俗學轉向
 
第十章 貝爾克論風土的日本 (第十章 ベルクの風土の日本論)
一、風土的日本
二、Ainu的風土
三、從terrior到terruño
 
第十一章 勞思光的臺港論 (第十一章 労思光の台湾香港論)
一、臺灣
二、香港
三、危機
 
第十二章 鷲田清一的災後哲學論 (第十二章 鷲田清一の震災後哲学論)
一、臨床哲學
二、哲學與災難
三、遊女與遊行婦女
 
結 論
 
參考文獻
人名索引
事項索引
 

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