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源氏物語の舞台の絵

書籍名

歴史文化ライブラリー 596 源氏物語の舞台装置 平安朝文学と後宮

著者名

栗本 賀世子

判型など

208ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2024年5月22日

ISBN コード

9784642059961

出版社

吉川弘文館

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源氏物語の舞台装置

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本書は、平安時代の内裏に存在した後宮殿舎 (天皇・東宮 (皇太子) の后妃や皇子女が住む後宮の建物) について扱いました。後宮殿舎とは、具体的には五つの「舎」と呼ばれる建物と七つの「殿」と呼ばれる建物のことを指し、「殿」の方が「舎」より広く格上の建物です。「舎」は壺庭にある植物にちなみ、藤壺(ふじつぼ)桐壺(きりつぼ)などと「~壺」の別名で呼ばれることもありました。
 
これらは紫式部の書いた『源氏物語』で后妃の呼び名 (「()()殿(でんの)(にょう)()」や「(きり)(つぼの)(こう)()」など) となり、また、物語中の重要な出来事 (帚木(ははきぎ)巻の雨夜の品定め、(はなの)(えん)巻の(おぼろ)(づき)()と光源氏の出逢いの場面など) が起こる舞台として用いられ、重要な役割を果たしています。
 
本書では、『源氏物語』を中心に、平安時代の物語の後宮殿舎の描かれ方を見ていきます。物語の後宮空間を読み解く、というのが一番の目的ですが、手がかりとすべく、物語を考察する前に、必ず歴史上の後宮殿舎のありようを明らかにし、その実態を物語の記述と比較することを一貫して心がけました。そうすることで、史実と虚構に明確に線引きをし、物語が素材とした史実を発見することや、物語の虚構の設定の背後にある作者の意図を探ることが可能になり、最終的には、『源氏物語』のような傑作が生み出された方法に迫ることにつながると考えたからです。
 
各章について紹介すると、「平安時代の後宮」では、後宮殿舎の名称、広さや格付けについての基本的な情報を載せ、天皇・皇后の住まいの変遷についても触れました。
 
「「殿」と呼ばれる建物」では、格上の「殿」の内、()()殿(でん)(じょう)(ねい)殿(でん)(じょう)(きょう)殿(でん)麗景殿(れいけいでん)の四殿を中心に取り上げました。史上で皇后・母后が使用する空間だった弘徽殿・常寧殿が物語においては悪役の母后の居所となったこと、弘徽殿に次ぐ上位の建物であった承香殿は物語世界では目立たない地味な脇役の女御の住まいとして設定されたことなどを明らかにしました。
 
「「舎」(壺) と呼ばれる建物」では、格下の「舎」の内、()(げい)(しゃ)()(ぎょう)(しゃ)(ぎょう)()(しゃ)の三舎を主に扱いました。淑景舎 (桐壺(きりつぼ)) が『源氏物語』で光源氏一族三代の拠点として機能していること、飛香舎 (藤壺(ふじつぼ)) が物語のヒロインである后妃たちの住まいとなること、凝華舎 ((うめ)(つぼ)) が政治的に弱い立場の女御に使用されることなどについて考察しました。
 
以上が本書の内容となります。物語にさりげなく書き込まれている後宮殿舎に関する記述は、一見些細なものに見えますが、先行の文学作品の設定や歴史上の実例を読者に想起させるものであったり、また物語の文脈にそって注意深く付されているものとなっていたりします。読者は、これに気付くことなしに正確に物語本文を読み解くことはできないのです。本書を通じて、後宮という新たな視点から物語を読むことで、これまで気づかなかったさまざまなことが見えてくるということを認識していただけたら幸いです。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 栗本 賀世子 / 2025)

本の目次

紫式部と内裏―プロローグ

平安時代の後宮
天皇と后妃の住まい
天皇と后妃の夫婦生活

「殿」と呼ばれる建物
弘徽殿と常寧殿―悪役の住まい
承香殿―後宮第二位のキサキの住まい
麗景殿―転落するキサキの住まい
その他の殿―后妃の使用頻度の低い殿

「舎」(壺)と呼ばれる建物
淑景舎(桐壺)―『源氏物語』主人公一族の拠点
飛香舎(藤壺)―ヒロインの住まい
凝華舎(梅壺)―劣勢に立つキサキの住まい
その他の舎―東宮に使用される空間

後宮殿舎の役割―エピローグ

あとがき
参考文献
 

関連情報

書評:
沼尻利通 評 (『日本文学』73巻12号 2024年12月)
http://nihonbungaku.server-shared.com/kikanshi/2024/2024_12.html
 
渡辺祐真 評 (『日本経済新聞』 2024年7月13日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD022ME0S4A700C2000000/
 
自著解説:
栗本賀世子「平安朝の寵愛争い」 (『本郷』172号、2024年7月)
https://note.com/yoshikawa_k/n/nc3e27eec7961
 
関連講演・講義:
栗本賀世子「平安時代の内裏の後宮―后妃たちの暮らし―」 (国文学研究資料館・北京外国語大学日本語学院・北京日本学研究センター主催 第十三回日本古典籍セミナー「後宮・后妃・宮仕え―王朝文学の育まれた環境―」 2025年3月1日)
https://www.nijl.ac.jp/activity/International/seminars/
 
朝日カルチャーセンター講座
栗本賀世子「平安時代の内裏の後宮―后妃たちの暮らし―」(朝日カルチャーセンター立川教室 2024年11月20日)
 
公益財団法人古代学協会2024年度連続講座「紫式部の生きた王朝社会」
栗本賀世子「天皇の寵愛争い―後宮の世界―」 (京都府立京都学・歴彩館小ホール 2024年9月14日)
https://rekisaikan.jp/news/post-news/post-14390/
 
東京都高等学校国語教育研究会: 栗本賀世子「平安時代の内裏の後宮―后妃たちの暮らし―」 (東京都立小金井北高等学校 2024年7月30日)
 
慶應義塾大学慶友会 東京三田クラス
栗本賀世子「平安時代の内裏の後宮―后妃たちの暮らし―」 (慶應義塾大学三田キャンパス 2024年6月15日)
 
第34回源氏物語アカデミー
栗本賀世子「天皇をめぐる女サバイバル―後宮空間論―」 (ホテルクラウンヒルズ武生 2023年10月21日)
http://genji-ac.jp/history7.html
 

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