第41回
大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。
高校生・大学生が切り拓く
奄美発の新航路とプラネタリーヘルス
海洋地球システム研究系
教授
うがみんしょーらん(こんにちは)。毎年奄美市で開催している通称「奄美シンポジウム」も今年で4回目を迎えました。今回は奄美市の瀬戸内町で120年以上も前から施設を持つ東京大学医科学研究所と合同開催し、東大150周年記念事業の一環としての開催でもありました。テーマは「プラネタリーヘルス:医科学と海洋科学研究が描く奄美発の新航路」。鹿児島県知事からビデオメッセージを受け取ったほか、産官学分野の登壇者の皆さんによる様々な研究発表がなされ、1週間の期間中、延べ400人以上の参加がある、大きな規模のものとなりました。
さて、今年のシンポジウムの主題に据えたプラネタリーヘルスという概念は、国連でSDGsが採択された2015年に医学雑誌『The Lancet』に提唱された、人類と地球の「健康」を総合的にとらえる考え方です。世はまさに人新世、1953年から現在にかけてはそれ以前の時代とは異なり、大気―海洋―固体地球―生命圏―雪氷圏などといった地球のサブシステム間の相互作用だけではなく、人間圏の影響が大きくなってきました。人間活動による環境変化の痕跡は、世界中の地層にもそのシグナルがくっきりと残っています。それらは結果として地球温暖化や海洋酸性化、生物多様性の喪失、そして公害などといったあらゆる変化をもたらしています。
今の高校生は、これらの顕在化してきた人新世特有の課題を日常の一部として経験することを余儀なくされる最初の世代です。彼らは極端気象による生活の不安定化や熱中症リスクの増大などによる身体的な側面だけでなく、そのような将来を生きるということ自体が大きな精神的負担となって、心理的な側面でも健康に影響が及びかねません。このように、身体的な側面に止まらず包括的に「健康」を認識するプラネタリーヘルスの枠組みは極めて重要です。
「海と希望の学校 in 奄美」の今年の生徒さんたちは第4期生。「海と希望の学校」では、そんな人新世を生きる奄美の高校生の探究学習サポートを行なってきました。シンポジウムでは高校生のポスターセッションを開催し、理系文系といった従来の枠にとらわれず、地下水や海水の化学的な研究のほかに、地方の空き家問題など、高校生の目線でとらえた地域課題についての探究学習内容の発表や議論を積極的に行い、来場した大学の先生方に熱心に説明している姿はとても頼もしく感じられました。この先も高校生たちは最新の科学知識を積極的に吸収し、テクノロジーを活用しながら、地球の限界を踏まえた新しいライフスタイルを模索していってくれると期待を抱かせてくれました。
しかし、今後プラネタリーヘルスを推進するためには、この世代が抱く不安を軽減し、実践を後押しする社会的基盤が必要です。教育の充実、政策決定への参画機会の拡大、安心して挑戦できるコミュニティの形成などを通じて、彼らが受動的に過酷な人新世を耐える世代ではなく、能動的に持続可能な未来を共創する世代として成長できる環境を整えることこそが、社会全体の課題となっていくべきだと考えます。その上でも「海と希望の学校 in 奄美」の継続は奄美の12市町村をはじめ地域の“希望”でもあるのですが、現在のプロジェクトは2026年度で終了となります。その後になんとか継続できればと思っているのですが、もし妙案をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非ご一報ください。ありがっさまりょーた(ありがとうございました)。








