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第41回海と希望の学校―震災復興の先へ―

大気海洋研究所と社会科学研究所が取り組む地域連携プロジェクト――海をベースにローカルアイデンティティを再構築し、地域の希望となる人材の育成を目指す文理融合型の取組み――です。東日本大震災からの復興を目的に岩手県大槌町の大気海洋研究所・大槌沿岸センターを舞台に始まった活動は、多くの共感を得て各地へ波及し始めています。

高校生・大学生が切り拓く
奄美発の新航路とプラネタリーヘルス

大気海洋研究所
海洋地球システム研究系
教授
横山祐典
横山祐典
シンポジウムの会場内で集合している学生たちの写真
200名を超す多くの高校生が参加した2025年11月のシンポジウム

うがみんしょーらん(こんにちは)。毎年奄美市で開催している通称「奄美シンポジウム」も今年で4回目を迎えました。今回は奄美市の瀬戸内町で120年以上も前から施設を持つ東京大学医科学研究所と合同開催し、東大150周年記念事業の一環としての開催でもありました。テーマは「プラネタリーヘルス:医科学と海洋科学研究が描く奄美発の新航路」。鹿児島県知事からビデオメッセージを受け取ったほか、産官学分野の登壇者の皆さんによる様々な研究発表がなされ、1週間の期間中、延べ400人以上の参加がある、大きな規模のものとなりました。

さて、今年のシンポジウムの主題に据えたプラネタリーヘルスという概念は、国連でSDGsが採択された2015年に医学雑誌『The Lancet』に提唱された、人類と地球の「健康」を総合的にとらえる考え方です。世はまさに人新世、1953年から現在にかけてはそれ以前の時代とは異なり、大気―海洋―固体地球―生命圏―雪氷圏などといった地球のサブシステム間の相互作用だけではなく、人間圏の影響が大きくなってきました。人間活動による環境変化の痕跡は、世界中の地層にもそのシグナルがくっきりと残っています。それらは結果として地球温暖化や海洋酸性化、生物多様性の喪失、そして公害などといったあらゆる変化をもたらしています。

今の高校生は、これらの顕在化してきた人新世特有の課題を日常の一部として経験することを余儀なくされる最初の世代です。彼らは極端気象による生活の不安定化や熱中症リスクの増大などによる身体的な側面だけでなく、そのような将来を生きるということ自体が大きな精神的負担となって、心理的な側面でも健康に影響が及びかねません。このように、身体的な側面に止まらず包括的に「健康」を認識するプラネタリーヘルスの枠組みは極めて重要です。

「海と希望の学校 in 奄美」の今年の生徒さんたちは第4期生。「海と希望の学校」では、そんな人新世を生きる奄美の高校生の探究学習サポートを行なってきました。シンポジウムでは高校生のポスターセッションを開催し、理系文系といった従来の枠にとらわれず、地下水や海水の化学的な研究のほかに、地方の空き家問題など、高校生の目線でとらえた地域課題についての探究学習内容の発表や議論を積極的に行い、来場した大学の先生方に熱心に説明している姿はとても頼もしく感じられました。この先も高校生たちは最新の科学知識を積極的に吸収し、テクノロジーを活用しながら、地球の限界を踏まえた新しいライフスタイルを模索していってくれると期待を抱かせてくれました。

しかし、今後プラネタリーヘルスを推進するためには、この世代が抱く不安を軽減し、実践を後押しする社会的基盤が必要です。教育の充実、政策決定への参画機会の拡大、安心して挑戦できるコミュニティの形成などを通じて、彼らが受動的に過酷な人新世を耐える世代ではなく、能動的に持続可能な未来を共創する世代として成長できる環境を整えることこそが、社会全体の課題となっていくべきだと考えます。その上でも「海と希望の学校 in 奄美」の継続は奄美の12市町村をはじめ地域の“希望”でもあるのですが、現在のプロジェクトは2026年度で終了となります。その後になんとか継続できればと思っているのですが、もし妙案をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非ご一報ください。ありがっさまりょーた(ありがとうございました)。

第1回と今回のシンポジウムのポスターとの比較写真
第1回のシンポジウムのポスター(左)と今回のポスター(右)。協賛や後援の企業や組織(それぞれのポスターの下部)が多くなりました。
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UTokyo バリアフリー最前線!第41回

障害がある職員のお仕事拝見⑮医科学研究所の巻
ことだまくん

附属病院で看護師のサポート

医科学研究所管理課総務チーム所属のスタッフ、障害がある職員3名とコーディネーター1名が担当するのは、白金台キャンパスの医科学研究所附属病院内での支援業務です。不要書類のシュレッダー処理や病院で使用されるバインダー拭きなどの業務に加え、検査用具のセット作り、アルコール綿のカット、アメニティタオルの仕分け、大判ロールシーツの整理など、多岐にわたる支援を行っています。

「医療キットも作成しますが、日によって中身が異なることがあるので、見本を確認して作ってます」と話すのは吉田浩一郎さん。注射針などは太さが何種類もあるので、看護師の指示に従って作成しています。必要な仕事を見つけて能動的に動くようにしていると話すのは神代智永さん。「採血セットなどが少なくなってきた時には、補充しています」

テーブルに座っている4人のスタッフたちの紹介写真。
左から:神代智永さん、島田大資さん、佐藤隆雄さん(コーディネーター)、吉田浩一郎さん。

午後は事務室に戻り、同窓会や教授会OB名簿の更新などのデータ入力、イベントや同窓会の発送作業などを行っています。「入職して今年で14年目です。できる仕事も増えてきました。パソコンスキルも上がってきているので、新たな仕事にもチャレンジしたいです」と話すのは、5年前からパソコン教室に通いスキルアップに務めてきた島田大資さん。データ活用や文書作成の検定も取得しました。その能力を業務に活かし、毎月の業務分担表や会議用机配置図なども作成しています。郵便の仕分けも担当の一つ。100近くある郵便ポストの名前と位置は全部頭に入っていると吉田さん。隙間時間には、構内のポスター貼り、不要紙でのメモ帳作りなどを行う神代さん。様々な仕事に積極的に取り組んでいます。仕事が好きだと口をそろえる3人は2012年に入職した同期。今後も、全ての仕事に真摯に全力で取り組んでいきます。

病院で業務を行う神代さん 病院で業務を行う島田さん 病院で業務を行う吉田さん
左上から時計回り:病院で業務を行う神代さん、島田さん、吉田さん。
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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第59回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

坪井の謡本と文部省往復と

今から110年前の大正4(1915)年、大正天皇の即位礼にかかわる記念の催しが数々行われました。そのうち、12月7日と8日の2日間にわたって天覧能が催されました。初日は「翁」「高砂」「石橋」、2日目は「橋弁慶」「羽衣」「猩々乱」が、各流儀によって演じられることを、東京朝日新聞が事前に大々的に報じています。演目は、能の五番立てに基づく祝言性の高いものであったことがわかります。

「謡本」の表紙の写真、筆で「八日夜 恩賜謡曲本」と書かれた新聞紙の写真

当館の寄贈資料、文科大学教授 坪井九馬三くまぞう関係資料に、筆で「大正四、十二、八日夜 恩賜謡曲本(橋弁慶、羽衣、猩々乱)」と新聞紙(大正4年10月31日付「時事新報」)に書かれ、それに包まれていた謡本があります(F0006/S06/SS05/0013)。表紙中央には菊の御紋、表紙全体は金糸銀糸で調えられたものです。本文第1丁には、演目と出演者の一覧を記載し、第2丁以降は、3演目の詞章と胡麻章(節をあらわす記号)を記した、まさに“この日”のために調製された謡本でした。

本学の出席者を取りまとめた文書の写真

当館所蔵の、文部省と本学との往復文書「文部省往復大正四年」では、文部大臣官房秘書課長から12月2日に大学に届いた「宮中ニ於テ催サルヽ夜宴召状伝達方ノ件」に対する、本学の出席者を取りまとめた文書に、坪井や、同じく文科大学教授 井上〔哲次郎〕の名もありました(S0001/Mo141/0020)。井上の日記(「巽軒日記」)も当館に寄贈されており、同年12月8日には「夜、宮中の夜宴に赴き、能楽を陪観す」と記されていたのです(F0005/01/0023)。

当館所蔵の教員の個人資料と公文書で、110年前の出来事がここに共鳴し、あらためて資料の面白さを実感することとなりました。

(学術専門職員 星野厚子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第235回

財務部契約課旅費チーム
主任
石田美里衣

公平かつ柔軟に、日々アップデート

石田美里衣
娘が作ってくれた十二面体を飾っています

7月に異動してきて、初めての旅費・謝金業務に携わっています。おなじみ出張旅費システムの運用、外部委託業者との調整、部局から寄せられる問合せ対応、本部の謝金伝票等を担当していますが、本部だからと虎の巻があるわけではなく、規程や支給要領とにらめっこで最適解を探します。文章の書きぶり一つで解釈や支給可否が変わってしまうので、周りに支えていただきながら勉強中です。鉄道や航空会社の運賃体系の変更や、多様化する構成員の働き方等に影響を受け、判断に迷うケースが次々出てくるので、都度運用を検討し更新していくことが難しくもあり、旅費の面白みでもあると感じます。

家庭では二児の母。朝は娘たちにピアノを指導してから出勤、退勤後は走って学童と保育園お迎え、通院、習い事、学校の宿題、家事と夜まで休みなく働きます。夜は自身の楽器の練習と分刻みの生活ですが、最近は家族旅行が趣味に加わり、働くモチベーションになっています。

カナダの旗の横で家族が3人、雪の上の上に立ち記念写真を撮っている様子
今年の夏休みはカナダへ行きました!
得意ワザ:
人にぶつからずスッサスッサと早歩き
自分の性格:
カタカナ用語が少し苦手
次回執筆者のご指名:
小金澤優太さん
次回執筆者との関係:
出納Tでの良き話し相手でした
次回執筆者の紹介:
家族思いの、頼れるしっかり者
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう第49回

理学系研究科附属植物園 園長
理学系研究科教授
塚谷裕一

デジタル化された『御薬園草木図』

国文学研究資料館による「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」のおかげで、植物園所蔵古典籍の多数がデジタル化されている。そのリストを見ると、『花段綱目』、『甘藷考』、『本草圖譜』などの超有名どころが多数並ぶ中に、『御薬園草木図』というものがある。御薬園とは、われらが理学系研究科附属植物園の、江戸時代における幕府直轄の前身である。これが面白い。

序文のくずし字について、本学先端研の稲見昌彦教授に助けていただいて解読してみると、唐・南蛮の薬種を国産化すべく御薬園を中心に試験施策していくので、希望者は願い出るように、という案内のようだ。要は幕府発行になる薬種種苗カタログのようなものか。だが、不思議なことに図版は写実に徹していない。

『御薬園草木図』の中の1ページ。ミズヒキの葉を3色で色とりどりに描いた図
海根と記されたミズヒキの図。
配色が美しい。

アオギリの心皮の形は不自然に尖っているし配列がでたらめ。ゴーヤーの実は、あの凸凹がまるで平らな鱗のように描かれている。ヤマモモ、ハハコグサ、オオバコやミヤコグサなど多くの植物では、葉の全てあるいは一部が銅色に描かれている。神事で馴染みだったはずのサカキでさえ、葉の形が変。ヘクソカズラも葉の殆どが銅色に描かれているが、もっと面白いのは花の色が紫に描かれていて、芯が白いことだ。本当の花色は白で、芯とその周りが濃い紅だから、まるでネガポジ反転のようである。またミズヒキの葉を緑、クリーム色、紅の3色で色とりどりに描いた図さえある(画像)。

本書と同じ箱に入っていた『梅花正寫』は、2017年まで原本が行方不明とされていたほどで、まだ謎の多い書と言えよう。こういった面白い書群に、デジタル化のお陰で学内外から気軽にアクセスできるようになったのは、とても喜ばしいことだ。今後の新しい発見が楽しみである。

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インタープリターズ・バイブル第220回

教養教育高度化機構 特任准教授
科学技術コミュニケーション部門
定松 淳

「反ワクチン」ではない検証は可能か

「科学と社会の架け橋」となれる人材を育成するというミッションでスタートした科学技術インタープリター養成プログラムも今年で21期生を迎えた。その1期生に、理学系研究科生物科学専攻で理学博士号を取得した後、映像制作会社のテレビマンユニオンに就職した修了生がいる。その1期生、大西隼さんが企画・監督・ナレーション・プロデューサーを務める映画『ヒポクラテスの盲点』が、この10月に公開された。

日本政府の新型コロナワクチン接種政策の妥当性を問おうとする意欲作で、その主旨はいわゆる「反ワクチン」ではなく、あれだけ大規模に展開された政策を「きちんと検証しませんか」ということであると思う。この映画が取り上げているテーマを私なりにまとめると3つ、①コロナワクチン接種後に多くの重篤な副反応が発生しているけれども、被害者救済制度でもあまり救済されず、社会的な関心も低調であるということ、②その背景でもあるが、2021年以降日本社会においてワクチン接種を推奨するキャンペーンが政府によって展開され、マスコミによっても後押しされていたこと、③その背後で、mRNAワクチンの問題点が把握されていたはずなのに、政策に反映されず、国民規模での接種が継続されてきたこと、である。

映画の中心は、2023年9月に発足した一般社団法人「ワクチン問題研究会」、特にその代表である福島雅典氏の活動についてのドキュメンタリーである(福島氏は京都大学名誉教授で再生医療研究の権威でもある)。同時に、コロナワクチン接種政策に関与してきた長崎大学の森内浩幸氏もインタビューに応じている。森内氏も認めているコロナワクチンのネガティブな影響として、若年男性における心筋炎・心膜炎の有意な増加があり、それは日本の3回目ブースター接種の前には判明していたという(JAMA誌 326(14): p.1396)。

当時を振り返ると、オミクロン株の拡大が始まり、菅内閣と比して岸田内閣のワクチン政策はもたもたしていると批判されていた時期である。現実にはブレーキをかけるのが難しい状況であったことは理解できる。だからといって事後的な検証を排除していいということにはならないだろう。一方で政府や製薬会社が、訴訟→賠償という展開を恐れていることは十分に想像できる。「真実和解委員会」のような枠組みが必要なのかもしれない。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第74回

ディベロップメントオフィス
卒業生ユニット長
堺 飛鳥

広がる卒業生の力、同窓会

東京大学の卒業生のみなさまは、さまざまな場面で活躍し、今も大学と社会をつなぐ大切な存在です。卒業生ユニットでは、そうした卒業生とのつながりをより身近に感じていただけるよう、全国の同窓会に伺い交流を深めています。実際にお会いすると、「大学のいまを知りたい」「母校の力になれれば」という声をいただくことが多く、私たちも励まされています。今年10月のホームカミングデイでは同窓会企画が昨年より大きく増え、「母校で集いたい」という思いの広がりを実感しました。卒業生の帰属意識も着実に高まっているように感じます。

現在、大学に登録されている同窓会は321団体にのぼりますが、ゼミ・研究室単位の会や旧学科名のまま続く会など、大学がまだ把握できていない会も多くあります。卒業生ユニットでは、こうしたつながりを掘り起こし、大学との関係づくりをお手伝いしています。小さな集まりでも、それが卒業生にとってかけがえのない居場所であり、大学につながる大切な窓口となるからです。

そのため今年度、各部局の皆さまに「同窓会の実態等に係る基本調査」へのご協力をお願いしています。もし身近に未把握の同窓会をご存じでしたら、ぜひ情報をご提供ください。その一つ一つが、大学と卒業生を結び直す貴重な手がかりとなります。

卒業生のエンゲージメント向上は、交流の活性化にとどまらず、大学の教育・研究を支える力にもつながります。大学の近況に触れ、親しみが深まるほど、「何か力になれれば」というお気持ちが、寄付や学生支援、行事協力など多様な形で広がっていきます。

卒業生ユニットは、これからも現場での対話や同窓会の掘り起こしを通じて、温かいつながりを育ててまいります。この動きを、卒業生はもちろん、教職員や在学生も含めた“オール東大”でともに盛り上げていければと思います。

皆が楽しそうに笑って写る総会での集合写真
8月に新設された「静岡銀杏会」総会に津田敦理事・副学長と参加
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